悲しみは世界を覆う
「danger」と書かれた部屋に着いたアランは、辺りにある物を動かしたりしながら、森田を探した。すると、そこへ風人が走ってやって来た。
「ちょっと、待ちなさいよー!」
風人を追いかけるユリカ。
走りながら後ろを振り返った風人と、ぶつかるアラン。アランは手に持った液体入りのフラスコを、足元に落としてしまう。
「危なーい!!」
どこからともなく声が聞こえ、動物らしきものがアランを突き飛ばした。
飛ばされたアランは、壁にぶつかって止まった。
フラスコから飛び出した液体は、アランに触れることなく、床を濡らした。
「いってー」
頭をさするアラン。
ユリカに捕まり、羽交い締めにされる風人。
「敵にアランを売った上に、私からも逃げ回るなんて、人間失っ格〜!」
「イテテテ!」
顔に涙を浮かべる風人。
「本当にごめん!アランを呼び出さないと、俺が殺されるところだったんだよ〜!」
「アラン!この裏切り者はどうする?外に出して恐竜にでも食わせちゃう!?」
ユリカはアランに尋ねた。
涙目の風人に、目を合わせるアラン。少し考える顔をしてから、血だらけの両手を広げた。
「俺の両手を見ろ。まだ痛えぞ」
風人が顔を引きつらせた。
「うぁぁ〜。悪かったよぉ〜」
泣く風人を見て、苦笑するアラン。
「反省したんなら、もういいよ」
「へ!?」
風人は目を丸くした。
そんな風人を、アランはまっすぐ見つめ返した。
「これからも、俺は風人を信じる。俺は絶対に、お前を裏切らない。何があっても、絶対にだ。だから約束してくれ。風人も、俺を裏切らないって」
こくん、と頷く風人。
「わ、わかった」
「よし、じゃあこの話はこれで終わり!」
アランは笑顔で両手を軽く叩いた。
呆気にとられた風人は、だんだんと胸の奥が熱くなるのを感じた。
(俺は絶対に、お前を裏切らない···。バカか?アランって、すげーバカ)
風人は心の中でそう呟きながらも、瞳の奥には涙が光った。
「いくつになっても甘い男ね。まぁ、あんたがそれでいいなら私は構わないけど」
ユリカは風人から手を離し、やれやれ、といった顔をした。
「なんで許す気になったの?」
いつの間にかそばにいたミランが聞いた。
頭をかくアラン。
「んー。前に班長に言われたことをちょっと思い出しただけ」
「ふーん」
ミランはそれ以上問いつめることはしなかった。
アランの脳裏に、森田の顔と言葉が蘇った。
――アランの回想――
アランに向かって話す森田。
「···その心配は、ミランのためになっているのか?お前が今腕立てをしているのも、遅い波多野を庇ったつもりか?」
―――
「ワンワン、かわいーねー!」
床にいた四つ足の動物を撫でるマモル。
四つ足の動物をマジマジと見るミラン。
「マモル、これは犬じゃないよ。カピバラだよ」
ミランがマモルに教えた。
アランもカピバラの存在に気付き、カピバラをじっと見た。
(ん?そういやさっき、コイツに突き飛ばされたな)
「カピバラに見えるか?」
カピバラが、いきなり喋りだした。
「うわ、コイツ喋った!」
驚くアラン。
「ドゥニアの動物って、話せるタイプが多いよね」
ミランがアランに同意すると、カピバラがムッとした顔になった。
「俺は森田だ。カピバラじゃない」
「え?」
固まるアラン達。
「獣衛隊の、森田カイだ」
カピバラが言った。
「えええーー!?」
驚き、のけぞるアラン達。特にユリカは、顔面蒼白になっていた。
◆
施設内のホールのような場所で、アラン達から話を聞くガクと蒼太。近くには、ケイラとベルルもいる。
「じゃあ、ヘイズの作った液体に触れたせいで、班長はカピバラになったってことですか!?」
驚きながらも、確認するガク。
頷く、カピバラの森田。
「そうだ。大事な時に戦力になれず、申し訳ない」
森田が俯いた。
「だが、皆が死の雨を逃れられたのはカイ、お前のおかげだ」
ウガが森田を慮った。
「どうかな···死の雨は、何分くらい降った?」
森田はウガに尋ねた。
「ほんの5分くらいだ。窓の外を見ろ、既に快晴だ。もうヘイズもいない。外に出ても問題ないだろう」
ウガがニッと笑顔を浮かべた。アラン達も笑顔になった。しかし、森田は浮かない顔だった。
「5分···。死の雨が振った範囲は?アフリカだけか?」
森田の言葉に、その場にいたアラン達がハッと目を見開いた。
するとその時、イヤホンから音がして真歩の声が聞こえた。
『みんな、聞こえる?今、世界中で赤い雨が降っているのを確認したわ。日本とEU、ナモスタンには通信機で事前に雨の存在を警告できたけど···甚大な被害が出てるみたい』
(世界中で!?)
アラン達は青ざめた。




