無敵の人
獣衛隊のメンバーは、ヘイズの容貌についてウガから知らされています。(過去エピソード46の追憶に、追記済み)
手榴弾を投げるヘイズに、ハッとするアラン。
(まずい!天井に穴を空けるつもりだ!)
咄嗟に手榴弾を銃で撃った。空中で暴発した手榴弾は、天井を壊さなかった代わりに、アラン達の下へと降ってきた。
「頭を守れー!」
アランが叫ぶと、ミランとマモルは頭に腕を回し、身を低くした。
アランはミランとマモルに覆いかぶさり、二人を守った。そして、ゆっくりと立ち上がった。体中に刺さった手榴弾の破片のせいで、顔は傷だらけで血が滴っていた。
アランは目の前の男を睨みつけた。
(こいつが、ヘイズ!)
血だらけのヘイズは、想定外の状況に焦って口元を引きつらせた。
「なんでだ?なんで死なないんだよ?なんでお前は、こんな汚いツラ下げてまで生きようとするんだよ?気持ちわりぃ」
「···んだよ。見た目なんか、どうだっていいんだよ。俺の価値は、俺が決める!」
アランが銃を撃とうとしたその時、ヘイズが手を伸ばしてマモルを奪った。そして、窓に体当たりした。
バリーン!!
窓ガラスが割れ、ヘイズはマモルを持ったまま、赤い雨が降る外へと飛び出した。
「···!!」
絶句するアランとミラン。
ミランは窓の外へ飛び出そうとしたが、アランがミランを抱きしめて必死に止めた。
「離して!マモルが!」
「ダメだ!天国の瞬を悲しませる気か!?」
「···!!マモル···」
膝から崩れ落ちるミラン。
雨に打たれるヘイズは、マモルを地面に落とすと、両手を上に上げた。
「雨よ、我を浄化せ···よ···」
言い終えぬうちに皮膚が膨らみ、ヘイズの体から羽虫が飛び出すのが見えた。
俯き、目をつむるミラン。
じっとヘイズを凝視するアラン。
「あいつ···ヘイズは、なんで自分から雨の中に飛び込んだんだ?まだ、俺達に負けるって決まったわけでもないのに」
「どうせ死ぬつもりだったんでしょ!!許せない!マモルを巻き込むなんてっ···」
ミランは怒り、泣いた。
「そうか···ヘイズは、無敵の人だったってことか」
アランは少し考え込んだ。
そっと目を開けてヘイズに視線を向けたミランは、地面の辺りを見て声を上げた。
「アラン見て、マモルが」
ミランが窓の外を見ながら言った。
地面に落ちていたマモルは、不思議な膜のようなものに包まれていた。
◆
ラボの奥へと逃げた、菅原と志穂。
ラボの中では、様々なホルマリン漬けや実験器具などが置かれていた。
ラボの奥では、ドゥニアの森でウガと森田に捕まった二人の男が、ラボの研究者3人とゲノマーの子ども達を見張っていた。
「今、赤い雨に打たれたゲノマーから虫が出て来たぞ!あの雨は何だ!?」
菅原が、研究者達に向かって聞いた。
30代後半に見える研究者Aは、顔を曇らせつつ答えた。
「ヘイズの奴、本当にやったのか···。あれは、ヘイズによって作られた生物兵器だ。俺達は関与していない」
「でも、存在は知ってたわけね」
志穂が、研究者達を睨みつけた。
「ネズミや恐竜、毒ガスをばら撒いたかと思ったら、今度は死の雨だと?お前達のせいで、どれだけの人々が殺されたと思ってるんだ!」
菅原が、研究者Aの首を一瞬絞めてから、地面へと叩きつけた。
「アアッ」
苦痛に顔を歪めながら、慌てて息をする研究者A。
「やめろ。確かに人類は多く死んだかもしれないが、おかげで世界の平均気温は3年前から上昇スピードが鈍化している。これは私達ドゥニアの成果だ。このまま人類が減り、温室効果ガスを抑制できれば、我々は蘇った自然の中で、健やかに生きることができるんだぞ」
ドヤ顔で自説を説く、高齢の研究者B。
「我々?なんでお前達だけが生き残る前提なんだ!?」
キレた菅原が一歩踏み出すと、5歳くらいのゲノマーの少年が菅原の前に立ち塞がり、両手を広げた。
「おじさん達を怒るのはやめてよ!」
「なんだ、お前」
睨み合う菅原と少年A。
「こ、このラボの中には、ネズミと恐竜の増殖を止める薬がある。それを使えば、人類はもう怯えながら生きる必要もない。俺達のことを逃がしてくれるというなら、そいつを譲ってもいい。どうだ?悪くない提案だと思わないか!?」
今まで黙っていた中年男性研究者Cが、引きつらせた笑顔で菅原の顔色を窺った。
「それはいいアイデアね」
志穂はにっこり笑って研究者Cの顔を見た。
◆
赤い雨が降り続ける中、窓の外を見つめるアランとミランの元に、ウガが走ってやって来た。
「おい、何があった!?」
ゴクリ、と唾を飲み込み、割れた窓の外を指差すアラン。その先には、羽虫に包まれたヘイズと、卵型の膜に包まれているマモルの姿があった。
「あれは···ヘイズか?」
ウガが尋ねた。
頷くアラン。
赤い雨は、降り始めて数分で止んだ。黒い雲が霧散し晴れ間が大地に広がると、羽虫に喰われたヘイズは跡形もなくなり、羽虫もどこかへ行ってしまった。
ヘイズのそばで膜に覆われていたマモルは、日が差すとまるで卵から顔を出す小鳥のように膜を破って、空を飛びアランとミランのいるラボの中へと戻ってきた。
思わずマモルを抱きしめるミラン。
「マモっ···かった、良かったぁ···」
感極まり、その場で泣き崩れるミラン。
アランは驚いてマモルに尋ねた。
「マモル、あの膜はなんだ!?お前の体、どうなってんだよ!」
ニッと笑顔になるマモル。
「危ない時、卵に戻る!」
「ええっ!?」
驚くアランとミラン。
「放射線、爆弾、オッケー!」
得意気にそう言って笑うマモル。
呆然とするアランとミラン。
(スッゲー。そんなことできんのか!)
アランはポカンと口を空けた。
「ところで、カイはどこにいる?」
ウガがアランとミランに向かって尋ねた。
「ここにはいない。ウガも見てないのか?」
「ああ。おかしいな。匂いはするし、この辺りにいるはずなんだが」
ウガは首を傾げた。
「まさか、外に出た?」
アランの言葉に、ミランが首を傾げた。
「その可能性は低いんじゃない?雨が降ることを教えてくれたのは班長だし。それに···」
「それに?」
「ヘイズが出血してたでしょう?あれは、班長に銃で撃たれたんじゃないかと思って」
ミランの推理に、ウガが頷いた。
「可能性は高い。少なくとも、ヘイズはこの施設に入る前には、出血していなかったはずだ」
「もしかして、ヘイズと班長が撃ち合いになって、班長が倒れたとか?」
ミランが憶測を述べた。
青ざめるアラン。
「班長はそんな弱くねーよ!きっと、どこかに隠れてるんだ。探しに行くぞ!」
アランは部屋から飛び出した。それを追いかけるミラン、ウガ、マモル。




