赤い雨
前エピソード51(嫌な予感)の最後に、ミランとウガの会話を追加しています。それを読んでから、今回の52(赤い雨)を読んで下さい。
(施設の中に森田とヘイズがいることを、ウガがミランに伝えています)
ゴンタと戦う菅原。
遠くへ飛ばされていた志穂は、気配を消して戻って来ると、岩陰に隠れた。
岩陰から、ゴンタの背後に向かって銃を撃つ志穂。その一発が、ゴンタの心臓を貫いた。
ゴンタの動きが止まった瞬間に、菅原はゴンタの頭に剣を突き刺した。
「ヴァッ!」
ゴンタはそのまま地面に倒れた。
肩で息をする菅原のイヤホンから、音声が流れた。死の雨が降る、という真歩からの指令だった。
(死の雨!?なんだそれは)
菅原は志穂に声をかけた。
「水川、すぐラボに避難だ!」
「ええ!」
走り出そうとした菅原の足首を、まだかすかに息のあったゴンタが掴んだ。
慌ててバランスをとった菅原は、ゴンタの方を振り向いて言った。
「もうすぐ死の雨が降るらしい。降伏するなら、俺達と一緒に来ても構わない!」
「ケッ!雨に打たれるのは、お前達のほうだぜっ」
そう言うと、ゴンタは腕を振って菅原を地面に叩きつけようとした。
(まずい!)
菅原は力を振り絞り、ゴンタの腕を剣で切り落とした。
うめくゴンタ。
するとその時、志穂が空を指差した。
「見て!もう雲が広がってきた!」
志穂と菅原が空に気を取られている間に、イリーナは鋭い歯で体の縄を解き、上空へと飛び上がった。
「おい、戻れ!外は危険だ!」
「はぁ!?あんた達なんかと一緒にいられるわけないでしょ!汚らわしい!」
イリーナは捨て台詞を吐き、羽ばたいた。
菅原はイリーナを止めようと手を伸ばしたが、それを志穂が止めた。
「もう時間がないわ!ラボに入りましょう!」
「···クッ」
仕方なくイリーナに背をむける菅原。
二人がラボの屋根の下に入ったのと、雨が振り出したのは、ほぼ同時だった。
それは、悲しみに色をつけたような赤い雨だった。
空を飛んでいたイリーナは、雨に打たれると飛べなくなり、地上へと落ちてしまった。
「キャァッ」
落ちて倒れたイリーナは、小さな叫び声を上げた。その体は、雨に打たれるうちにボコボコと皮膚が膨れ上がった。そして破裂したかと思うと、中から無数の羽虫が飛び出してきた。
「アァッ」
白目を剥いたイリーナは、飛び出してきた羽虫に囲まれて姿も見えなくなった。
雨に打たれたゴンタも同じように、羽虫が群がっていた。
「嘘···」
驚いて絶句する志穂。
「ここは危ない。もっと中に入ろう」
志穂を連れ、ラボの中へ避難する菅原。
◆
ミランとマモルが飛んでドゥニア教の施設に着くと、先に施設の前に着いていたガクと蒼太が、ベルルとケイラに銃を向けていた。
「なによあんた達、ケガ人を撃つつもり!?だからニンゲンってキライなのヨ!」
ガクと蒼太に向かって、まくし立てるベルル。
「さんざん人類を痛めつけてきたのはそっちだろ!」
蒼太が反論した。
そこへ、ウガとユリカ、アランと風人が施設に到着した。
「蒼太、ガク、銃を下ろして!今は争うより、中に入らなきゃ」
ミランが冷静に判断した。
「そうヨ!そうヨ!」
ベルルがミランに賛成した。
「まぁ、そうだな」
蒼太とガクは銃を下ろし、皆で屋根の下に退避した。
ミランが近くにあった扉を閉めようと手を伸ばすと、ウガがそれを止めた。
「おい、扉を閉めるのは待ってくれないか?ペイトンがまだ戻って来ないんだ」
「ペイトンまでここに招き入れるつもりか?さすがに危険じゃないかな」
ガクがウガに懸念を伝えた。
「あいつは話せばわかる奴だ。俺が保証する」
ウガがそう言うと、アランが上空を指差した。
「あれ···来たぞ!ペイトンだ!」
アランは、ダンを抱きかかえるようにして飛ぶペイトンを指差した。
「早くしろー!」
叫び、走り出すウガ。
「ウガやめろ、もう雨が降る!」
施設の外に出ようとするウガを、アランが抱きしめて止めた。
「ペイ···トン」
ベルルのそばで倒れていたケイラは、意識を取り戻して床をはいながら、扉へ向かった。
「あなたもダメよ」
ミランが、ケイラの前に立ちふさがって止めた。
ペイトンがもう少しで地上に降り立つ、と思われた所で、無情にも雨が降り始めた。
「ペイトーン!」
外に向かって手を伸ばすウガを、必死に止めるアラン。
ペイトンとダンに振り注ぐ雨。二人は地上に折り重なるように落ちてきたかと思うと、たちまち皮膚が膨れ上がった。そして無数の羽虫が飛び出した。
異様な光景を前に、動きが止まるアラン達。
ミランが口を開いた。
「あの虫は危険だと思う!もっと中に入って扉を閉めよう!」
「ああ!」
ミランの判断で、皆は扉を閉めた。
眉を寄せ、両手で顔を覆うウガ。室内に沈黙が広がった。
「ウガ、ここにはヘイズもいるんだろ?」
アランがウガに尋ねた。
「ヘイズが!?」
驚くガクと蒼太。
ウガは頷いた。
「そうだ。奥から奴の匂いがするから間違いない」
「じゃあ、奥に行くしかないな。ヘイズがいる限り、ここにいるのも危ない」
アランは腰の銃に手を伸ばした。
「私も行く!」
ミランが言うと、僕も、とマモルが続いた。
「俺も行く。ガク、お前達はここでケイラとこの翼竜を念のため見張っててくれ」
ウガがガク達に指示を出した。
頷くガク。
「驚いた。私を見捨ててドゥニアから出て行ったくせに、名前は覚えていたの?」
ケイラがウガを睨みつけながら聞いた。
「あの時は悪かった。まだ2歳だったお前を連れて逃げられるほど、俺達に余裕はなかったんだ」
ウガが素直に謝り、ケイラは唇を噛んで俯いた。
入口から奥へと歩みを進めるアラン達。
しばらく施設内を探していたアランは、血痕を見つけて、近くにいたミランとマモルを呼んだ。
「見てくれ。血痕がこっちに続いてる」
「本当だ。この血の匂いは、班長じゃなさそうね」
ミランが言った。
「ああ。まずはこれを辿ってみよう」
アランとミラン、マモルは無言になって進んだ。
◆
血痕を辿って辿り着いた部屋にアラン達が入ると、扉が急に閉じた。すると、手榴弾を手に持った血だらけのヘイズが現れ、天井に向かっていきなり手榴弾を投げた。




