獣乱祭
草原を進む獣衛隊トラック。
「ここで停めてくれ。これ以上進むと、ゲノマーの耳に超音波が届くかもしれない」
車内から窓の外を眺めていたウガが、森田にそう言ってトラックを停めさせた。
目を合わせ、頷きあうアラン達。
ネズミの皮を身にまとった一行は、トラックから降りて歩き始めた。
「ネズミが···こっちに気付かず通り過ぎてく」
付近を通り過ぎて行くネズミを見ながら、ミランが呟いた。
「ネズミは視力が弱い上に色覚もほとんどない。この皮のおかげで、俺達のこともネズミに見えるんだろう」
ウガがミランに教えた。
「日本に帰ってからも、ネズミの皮を被ってれば安心じゃん」
アランが言った。
「あんたの鼻、詰まってるの!?こんな臭い皮被って都内を歩けるわけないじゃない!あー、クサッ」
ユリカが鼻をつまみながら悪態をついた。
「ネズミの鼻はこの皮で誤魔化せるだろうが、恐竜はそうもいかないぞ。特に翼竜は危険だ。今までに仲間が何人も襲われている」
ウガが森田に向かって言った。
「わかってる。だから早めに出発したんだ。空を見ろ」
森田に促され、ウガは空を見上げた。
上空には、いつの間にか濃い雲が立ち込めていた。
「確かに、雨なら翼竜も飛ばんだろう。だが、アフリカのスコールは人類にとっても脅威だぞ」
ウガが話している間に雨が降り始め、一気に強くなった。
「走れー!」
豪雨の中、走り続けるアラン達。
しばらく走ったところで、森の中にたどり着いたアラン達。テントを張り、雨宿りをすることとなった。
「アフリカにも、森ってあったんだ···」
ぽかん、と口を開けて森を見る風人。
「この森はドゥニアが作ったんだ。この20年程で、アフリカにはドゥニアが作った森が飛躍的に増えている。その代わりに、人は減った。恐らく、今アフリカに残っている人類は、1億人もいないだろう」
ウガが目を伏せた。
「人類は意外としぶとい。ドゥニアさえ倒すことができれば、また増えるはずだ。ここなら、木々のおかげで見つかる可能性も低い。今夜はもう休んで、明日に備えるぞ」
「はい!」
森田の言葉に、隊員達は返事をした。
◆
テントの中で皆が寝ていると、何かが木々の合間をサッと移動した。
目を閉じて横になっていたウガが、片目を開けた。
腰かけて寝ていた森田も目を開け、小声で言った。
「ウガ、行くぞ」
「ああ」
テントそばに置かれた獣衛隊の荷物を漁る二人の男。
「へへへ」
半笑いの男の背後から伸びる手。
「うわぁっ」
二人の男は、口を塞がれウガと森田に捕まった。
「た、助けてくれ!腹が減って、つい魔が差しただけなんだ」
許しを請う男A。
「腹が減ってるんだな?」
確認する森田。
「そうだ!何か食わせてくれ」
目を輝かせて懇願する男B。
「いいだろう。その代わり、交換条件がある」
ニヤリ、とする森田。
◆
草原の中の広場で、大型のケージから出てくるライオンやゾウ、シマウマといった動物達。
高台の上で、信者と思われる人々が独特な踊りを踊っている。その後ろで椅子に座り、踊りを眺めるヘイズ。
遠くの木々の樹上から、双眼鏡でヘイズ達の様子を眺める獣衛隊。
「あれは何をやってるんだ?」
森田がウガに尋ねた。
「あれはドゥニアの祭り、『獣乱祭』だ。年に一度、教団内の牧場で育てた動物達を、ああやって放獣している」
「生態系の回復をはかってるつもりか。ドゥニアの目的は、結局人類の滅亡なのか?」
「ドゥニアは地球の永続を最終目標としている。ヘイズの下で目標が変わっている可能性はあるが、地球の永続のためには人類が多過ぎるという見解は変わっていないだろう」
ウガの話にため息をついた森田。
「これも、人類の因果応報ということか」
そこへ、アランがやって来て報告した。
「班長、準備ができたようです」
「よし。始めるぞ」
森田が真面目な表情で言った。
◆
縦横無尽に駆け回る動物達。
独特な舞を繰り返す数人のドゥニア教徒。儀式の周りを囲むように立つゲノマー達。
辺りを警戒していたゲノマーの一人、イザックが立ち上る煙を指差した。
「燃えてる!火事だ!」
「何!?」
ゲノマー達が、近場の川からバケツで水を汲んで、消火を始めた。
「だめだ、火の手が強い!もっと水を!」
消火に追われるゲノマー達。
ゲノマー達の慌てる様子に、踊りを止める信者A。
「おい、神聖な舞を止めるな!」
ヘイズが椅子に腰掛けたまま信者Aを叱りつけたその時、東の方向から爆発音と煙が上がった。
「今度は何!?」
ゲノマーのケイラは声を震わせた。
「ラボの方向から音がしたぞ!ミサイルを撃たれたんじゃないか!?」
イザックが目を丸くして大きな声を上げた。
「俺が見てくるっ!」
「私も行くわ!」
ゲノマーのゴンタとイリーナは、そう言うと背中の羽根を広げ、ラボに向かって飛び立った。




