戦略
「EUの情報では、ドゥニアはキリマンジャロの麓にあると聞いているぞ」
森田が、確認するようにウガに尋ねた。
「そうだ、ドゥニアの本拠地はそこにある。だが乾季になると、一部の者はヴィクトリア湖付近の拠点まで移動する」
「何のために?」
「農業と祭りのためさ。ドゥニアは自然を愛する宗教だ。俺がいた頃は、多くの研究者と信者が協力して、乾季には広い耕地を耕したり、年に一度の祭事をしていた」
「なるほど。遊牧民のような生活を実践していたということか」
「俺がいた頃はな。今はわからん。とはいえ、そろそろ雨季が終わる。もしあの頃の習慣を続けているのなら、ヘイズは馬に乗ってヴィクトリア湖を目指すはずだ」
ウガは、自身の話に納得するように頷いた。
「人々がネズミに襲われて悲鳴を上げる中、馬に乗って遊牧か。いいご身分だな。以前のままの習慣が続いていたとして、やはりどうやってドゥニアに近付くかを考える必要がありそうだな」
(ドゥニアまで、ばれずに行く方法か···)
うーん、と考えるアランの頭にふと、大ネズミの下に隠れて難を逃れた時の森田の話が浮かんだ。
「ネズミの皮を被る、って言うのはどうですか?ネズミは匂いが強いから、上から被れば匂いを誤魔化せるんじゃ!?」
アランは思いついたことを口にした。
皆がハッとした顔になり、森田がニヤリと笑った。
「いいアイデアだな。ウガ、どう思う?」
ウガも頷いた。
「ネズミなら、この大陸中に腐るほどいる。かなり近付かない限り、気付かれないだろう」
「よし、決まりだ」
森田が満足そうに膝を叩いた。
「ガク、アラン。これからも期待してるぞ」
「はい!」
森田に言われ、二人は大きな声で返事をした。
◆
村に朝が訪れ、小鳥がさえずる中、村の広場で格闘訓練を行うアラン達。
訓練の様子を見ている森田とウガ。
森田がウガに話しかけた。
「質問なんだが、お前の仲間のゲノマーはどこに行ったんだ?この村にはいないようだが」
「俺以外は皆死んだ。ドゥニアのゲノマーに見つかって殺された者、恐竜に喰われた者、暴徒による内紛に巻き込まれた者···色々だ。俺には、カンガルーの10倍と言われる跳躍力がある。そのおかげで、どうにか生き残った」
「···そうか」
「俺からも質問させてくれ。お前達が乗ってきたトラックを見させてもらったが、小さいミサイルくらいしか確認できなかった。ドゥニアは、人類滅亡のためなら毒ガスも生物兵器も使う組織だ。手薄な装備で、本当に勝てると思ってるのか?」
「思ってるさ。これを使うんだ」
森田は、ポケットから小さな装置を取り出した。
「それは、超音波装置か?」
「ああ。超音波の種類によって、ネズミを集められることは日本でも確認済みだ。こっちのネズミに効く保証はないが、試してみる価値はあるだろう」
「ネズミ遣いにネズミをお見舞いするってことか!?そりゃ面白い」
ウガは小さく笑った。
「できれば事前に効果を試してみたいところだが、下手なことをするとゲノマーにバレる可能性がある。だから一発勝負だ」
森田の言葉に、ウガが頷いた。
「これは俺の推測だが、恐らくヘイズは恐竜やネズミの繁殖を止める術も知っている。このままネズミを野放しにしていたら、草木も他の動物も根絶やしになっちまうからな。事実、アフリカでは一時期に比べてネズミの数が減っている。ヘイズを捕らえることができれば、アフリカはきっと再興できるはずだ」
二人の会話が途切れたところに、ミランの肩を借りた真歩が歩いて来た。
「真歩、目が覚めたのね!」
ユリカが真歩に気付いて声をかけた。
アラン達は訓練を中断し、真歩の下へ集まった。
「体調はどうだ?」
森田が真歩に尋ねた。
「まだ少し頭痛がします。それと、手足が上手く動かなくて」
真歩は戸惑った様子で言った。
「ウガ、明日の出発までに小幡は治りそうか?」
「もう解毒する頃だが、麻痺はまだしばらく残るだろう」
森田の質問に、ウガが答えた。
「これ以上の欠員は厳しいな···。ウガ、ドゥニアまで一緒に来てもらうことはできないか?お前がいると心強い」
「ふん、最初からそのつもりだ。ドゥニアのせいで迷惑を被ってるのは、むしろ俺達だからな。だが、問題が一つある」
「なんだ?」
「ネズミの匂いが服に付くと、いくら洗っても臭うんだ。服が一着無駄になる」
ウガが苦い顔をした。
「ドゥニア襲撃時は、古着を着用すれば済む話では?」
志穂が不思議そうに首を傾げた。
「もはや店すらない今のアフリカでは、古着一つも貴重品だぞ。それに、オシャレは俺のアイデンティティだ!」
赤いシャツを着ているウガが、胸を張って鼻を鳴らした。
「その赤いシャツ、似合ってるもんね!オシャレなら、私も負けない自信があるわよ!」
ユリカが、ウガに向かって言った。
「お、気が合うじゃねーか」
ウガとユリカはお互いにその場でポーズを決めた。
◆
獣衛隊のスーツを着たアラン達と、車椅子に座るカルムと真歩。
「みなさん、気をつけて」
カルムが手を振った。
「一緒に行けなくて、ごめん」
「気にしないで。絶対に勝って帰ってくるからね」
謝る真歩に、ミランが言った。
「カルムと真歩のことは私に任せて。アフリカの平和は、あんたにかかってるわよ!」
「わかってるさ」
ナスリンとウガは抱擁しあって別れの挨拶を交わした。
準備を整えたアラン達は、ドゥニアに向けて出発した。




