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獣乱のゲノム  作者: 大野 響
ドゥニア編

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星空の誓い

 視線を落とした森田は、眉間にシワを寄せた。

「マリ·エノモトは、既に亡くなった」

 森田の話に、ウガは一瞬言葉を詰まらせた。

「そうか、残念だ。···となると、俺にもこれ以上のことはわからん。悪いな、余り力になれなかった」

 アランは首を横に振った。

「そんなことないです。話が聞けて、父親がどんな人か、少しわかった気がします。それだけでも···良かった」

 アランとミランは目を合わせ、頷きあった。



 ミランが部屋から外へ出ると、蒼太がマモルと遊んでいた。

「マモルと遊んでくれてありがとう」

「どういたしまして。それより、お父さんのことは何かわかった?」

 蒼太がミランに尋ねた。

「うん。ドゥニアにいた頃の話を聞かせてもらえたよ」

 ミランはわずかに微笑んだ。

「なら良かった」

 蒼太はマモルの頭を撫でてその場から去ろうとすると、ミランが蒼太の顔をちらりと見た。

「蒼太って、意外と子ども好きだよね。マモルも懐いてるし」


「いや、俺は子ども好きなんじゃなくて、そのほうがミランが喜ぶかと思ってさ。あ、でもマモルのことは好きだよ。そうだ、日本に帰ったら、3人でどっか遊びに行こうよ···」

 蒼太はミランに向けて話しているつもりだったが、ミランはマモルと一緒に遊んでいて蒼太の話など聞いていなかった。

「って、なんだ···まぁ、いいか」

 笑顔でマモルとふれあうミランの様子を見つめながら、蒼太は小さく笑った。



 眩しいほどの星空の下、玄真の墓標の前で、アランは一人涙を流した。


――アランの回想――


 まだ獣衛隊に入りたての玄真が、初めて大ネズミを倒して嬉しそうに胸を張った。

「いつか、ネズミを全部倒して日本を平和にしてやろうぜ!」

 アランに向けて、豪語する玄真。二人で笑ってハイタッチした。


―――


「玄真···嘘だろ···」

 アランが涙を拭っていると、背後から足音が聞こえた。

「なんだ、先客アリか」

 その声の主は、ガクだった。

「信じらんないよな。あんな威勢のよかった奴が、まさか一瞬でこんなことになるなんて」

 ガクはどこからか摘み取ったと思われる花を、玄真の墓標の前に置いてアランの隣に座った。

「うん」

 まだ目の赤いアランがそれだけ言うと、二人の間に沈黙が広がった。


「本当のこと言うと、俺、玄真のこと嫌いだったんだ」

 ガクは真っすぐに玄真の墓標を見つめて言った。

「え!?」

 アランは思わずガクの横顔をマジマジと見た。

「あいつ、何かあるとすぐ日本のため、みんなのために、って正義ヅラしてたじゃん。俺は別に、誰かのために戦ってたわけじゃないから···。玄真といると、いつかのオリンピック開催のためにネズミと戦ってる自分が、恥ずかしい気がしてさ····」

 言いながら、ガクの目から涙が一筋流れた。


「別に、ネズミと戦う理由なんて、人それぞれでいいと思うけど」

「わかってるよ。でも、玄真に負けたくなかった。本当のこと言うと、アランにも、班長にも、俺より強い奴、みんな」

「マジか。ガクって、もっと爽やかな好青年だと思ってた」

 アランは驚いてから苦笑した。

「それは他人に足を引っ張られないためのポーズだよ。アスリートってのは、負けず嫌いが多いんだ」

 ガクは、そう言って爽やかに笑った。

(でも、その笑顔はやっぱり爽やかボーイだぞ)

 アランは胸の内で思った。


「うん、今決めた。玄真のリーダー役は、これから俺が引き継ぐ」

「へ?」

 アランは意味がわからず、間抜けな声が出た。

「小学生の時から、クラスをまとめてくれるのはいつも玄真だったでしょ?俺はそれに甘えてた気がするんだ。でも、これからは、玄真みたいにもっとみんなのことを考えようと···思う」

 ガクは更に涙を流した。

(ガク···)

「俺も、玄真のぶんまで頑張るよ···」

 アランももらい泣きした。

「俺達、もっと、もっと強くなろう」

 ガクとアランは腕と腕を交差させ、星空に誓った。

 


 アランとガクが部屋に戻ろうと歩いていたら、通りかかった小屋の中から森田とウガの声がして立ち止まった。

 小屋の中には、二人以外に菅原と志穂もいた。

「じゃあ、本気でドゥニアを倒しに行くんだな?」

 ウガが森田を真っすぐに見た。

「ああ、そのつもりだ。頼りにしていたEU軍がやられてしまったのは痛いが、このまま日本に帰ったところで、ネズミが減るとは思えない。ならば、やはり元凶であるドゥニアを潰すべきだろう」


「そうか。···アランとガク、そこにいるんだろ?入って来いよ」

 アランとガクが側で聞いていることに気付いたウガが、声をかけた。

 二人が室内に入って腰を下ろすと、話し合いが再び始まった。


「たしかに、ドゥニアを潰すのがベストだ。だが、今この大陸にはネズミや恐竜がうじゃうじゃいる。しかも、ネズミの恐怖で我を忘れた奴らが暴徒化している。村を一歩出ただけでハイリスクなこの状況で、果たしてドゥニアまで辿りつけるか···」

「気になっていたんだが、この村にはなぜネズミが入ってこないんだ?」

 森田がウガに尋ねた。

「この村には、俺が作った超音波装置がある」

「我々が乗ってきたEU軍のトラックにも、超音波装置があります。それに乗れば、ドゥニア付近まで行くくらい、容易なのでは?」

 菅原が言った。

「ドゥニアには、ヘイズの下に残ったゲノマーが今もいるはずだ。俺達ゲノマーは耳も鼻も利く。近付いただけで居場所がバレて、恐竜に喰われるのがオチさ。実際、ドゥニアから逃げた仲間のゲノマーが、ドゥニア討伐のために他国の兵士と協力したことがあるんだ。だが、施設に入るより前に全員殺られたと聞いた」

「敵にゲノマーがいるのは厄介ですね。ペイトンを助けたのも、恐らくドゥニアだろうし」

 志穂が呟くと、ウガが反応した。

「ペイトンを知ってるのか!?」

 森田が、ペイトンの存在を知った経緯を説明した。

「そうか···。ペイトンは、ヘイズが事件を起こす直前にナモスタンへ売られたんだ。だが話を聞く限り、ドゥニアに寝返ったようだな。ペイトンは動物と話ができた。金儲け主義のナモスタンよりは、ドゥニアのほうが親しみが持てたのかもしれん」

 ウガがため息をついた。


「ヘイズさえいなければ···俺が生まれた頃のドゥニアは、こんな狂った組織じゃなかったんだ」

「だろうな。俺が欧州にいた頃も、ドゥニアは無償でせっせと植林したり、海水温を下げるための活動をしていた。ドゥニアが凶暴化したのは、結局人類自身のせいかもしれん。とはいえ···このままじゃ、人類は近いうちに全滅だ」

 森田が小さなため息をつくと、室内に沈黙が広がった。


「ヘイズって、ドゥニアの施設から外に出ることはないんですか?ゲノマーを全員倒すのは難しくても、ヘイズが外に出た隙を突くことができれば、勝機もあるんじゃ」

 ガクが言うと、ハッとしたようにウガが目を見開いた。

「ある!ヘイズは外に出るぞ!それも、近いうちに、だ。俺がいた頃の習慣が残っていればの話だが」

「どんな習慣だ?」

「ドゥニアは、季節によって移動する」

「移動!?」

 アラン達の声が揃った。


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