Dr.シノハラ
トラックで待機することとなったミランが、車内の窓から外の様子を確認していると、ユリカが舌打ちする音が聞こえた。
「チッ。もー、スマホが全然繋がらない」
ユリカはスマホの画面を見つめながら、不機嫌そうに頬を膨らませた。
「ここでは諦めて。アフリカでは、基地局やWi-Fiがネズミに全て破壊されたと言われているの。そのせいもあって、パンデミック以降の情報が海外にも伝わらないのよ」
志穂がユリカに教えた。
車内から出て外の空気を吸っていた風人は、草むらに動く紐のようなものを見つけて気になり、草むらに入って行った。
ふいに、上空で何かが動いたような音が聞こえてミランが空を見上げた。それは、トラックを包み込むほど大きな網が落ちてくる音だった。
◆
草の中から顔を出したのは、アフリカ系の3人の男達だった。
右端にいた中肉中背の男は、蒼太に向かって斬りかかった。蒼太が応戦すると、二人は互角の争いを繰り広げた。
中央にいた一番背の高い男·ウガは、姿を現すとすぐに右手に持っていた斧をガクに向けて振るった。
ガクも剣で応戦したが、ウガの力が強く、すぐに追い詰められた。
森田は襲ってきた背の一番低い男の腹を蹴ると、男が持っていた武器を奪い取って捨て、その顔面に膝でトドメの一発を食らわせた。
「やべぇぞウガ、その男は強い!」
森田がガクの下へ向かうと、背の低い男が腹を抱えながらウガに告げた。
森田はウガの斧に剣で挑み、金切り音が響く二人の熱い戦いが始まった。
(二人のスピードが速すぎて、加勢できない!先にこっちだ!)
残されたガクは側で争いを繰り広げるウガと森田に圧倒されつつ、近くに倒れていた真歩の下へと走った。
「真歩、聞こえるか!?」
真歩は返事をせず、わずかに呼吸音が聞こえるのみだった。
(意識はないけど、まだ生きてる!)
ガクは真歩の両脇を持ち上げ、草陰へと移動させると、森田とウガの戦闘を目で追った。
斧の威力で剣を折られた森田は、ウガの右腕を両手で掴み、斧を振れないように捻じ曲げた。
「カルムは俺達の仲間だ。返せ!」
「そんなの信用できるか!それよりなんで俺達の居場所がわかった!?跡をつけたのか!?」
ウガはものすごい力で右腕を動かし、斧を森田の顔面に近付けた。
森田は咄嗟にウガの股間に蹴りを入れ、ウガが硬直した隙に斧を奪って投げ捨てた。
そのまま二人は素手で殴り合いとなった。
ウガの強烈な右ストレートを森田が両腕で防いだその時、倒れていたアランが意識を取り戻した。
(ミラン、助けてくれ)
アランはミランと決めた超音波の合図を、キーン、と鳴らした。
(あれは···班長だ)
そして森田とウガの戦闘に気が付くと、両手の甲をウガに向けて針を発射させた。
脇腹に針が当たったウガは、アランをギロリと睨みつけた。
「ん!?何で動ける?矢に塗ったのは神経毒だぞ!」
ウガはいきなりジャンプし、常人とは思えないほど空高く飛んだところで脇腹の針を抜き、確認してから落ちてきてアランを思い切り蹴った。
「ドゥニアかー!!」
ウガの怒声が周囲に響き渡った。
蹴られて飛び上がったアランを、森田が両手で受け止めた。
森田はアランを側にいたガクに任せると、森田とウガの再戦が始まった。
「もうこの大陸に人類はほとんどいない!環境破壊も止まったはずだ!これ以上人を殺すことに何の意味があるんだ!」
ウガが必死の形相で森田の顔を殴った。
森田は衝撃で飛ばされたが体勢を立て直し、ウガに向かって言った。
「俺達はドゥニアじゃない!」
「嘘をつくな!そこにいる奴の手から針が出てたぞ!そんなこと、ゲノマー以外にできるわけがない!」
ウガは再び殴りかかってきたが、森田は防御しながら話を続けた。
「ゲノマー?何のことだ!?」
「ふざけるな!お前達が作ったくせに!」
「俺達はドゥニアを倒すために日本から来た!そこにいる仲間は、父親に勝手に遺伝子を操作されただけだ!」
森田の言葉を聞いて、ウガの手が止まった。
その隙に、森田はウガから距離をとった。
「お前達、日本人か?」
ウガは森田を睨みつけながら聞いた。
「そうだ」
「Dr.シノハラを知っているか?」
ウガの質問に、森田は驚きつつアランを指差した。
「知らん。だがそこにいる少年の名は、篠原アランだ」
ウガは驚いた顔でジャンプしてアランの下へ行き、ガクを弾き飛ばした。そしてアランの髪を掴んでその顔をまじまじと見た。
(Dr.シノハラ···?)
まだ朦朧とする意識の中、アランは困惑しつつウガを見つめた。
その時、草むらから髪の長い女性·ナスリンが顔を出した。その腕には、首元に剣を突きつけられて白目をむく風人がいた。
「ウガ、こいつらの仲間を捕まえたわよ!」
「ナスリン、こいつらは敵じゃない」
「へ?」
ナスリンは呆気にとられて口を開けた。
中肉中背の男と戦っていた蒼太も、互いに手を止めた。
ウガは森田に向き直って口を開いた。
「俺の名前はウガだ。お前は?」
「カイだ。森田カイ」
森田は名乗った。
「カイ、悪かった。カルムがお前達に利用されていると思い込んでいた」
ウガの言葉を聞いて、森田も表情を緩めた。
「そうか···お互い、誤解が解けたようだな。仲間が負傷した。お前が拐ったカルムも怪我をしているはずだ。なるべく早く治療したい」
「ああ。矢に塗られた神経毒は、治療すれば3日程度で解毒する。カルムも既に治療中だ」
「それはありがたい」
ウガは頷き、アランを指差した。
「それと、俺はコイツの父親を知っている」
ウガの言葉に、アランと森田が息を飲んだ。




