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獣乱のゲノム  作者: 大野 響
ドゥニア編

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Dr.シノハラ

 トラックで待機することとなったミランが、車内の窓から外の様子を確認していると、ユリカが舌打ちする音が聞こえた。

「チッ。もー、スマホが全然繋がらない」

 ユリカはスマホの画面を見つめながら、不機嫌そうに頬を膨らませた。

「ここでは諦めて。アフリカでは、基地局やWi-Fiがネズミに全て破壊されたと言われているの。そのせいもあって、パンデミック以降の情報が海外にも伝わらないのよ」

 志穂がユリカに教えた。


 車内から出て外の空気を吸っていた風人は、草むらに動く紐のようなものを見つけて気になり、草むらに入って行った。


 ふいに、上空で何かが動いたような音が聞こえてミランが空を見上げた。それは、トラックを包み込むほど大きな網が落ちてくる音だった。



 草の中から顔を出したのは、アフリカ系の3人の男達だった。

 右端にいた中肉中背の男は、蒼太に向かって斬りかかった。蒼太が応戦すると、二人は互角の争いを繰り広げた。


 中央にいた一番背の高い男·ウガは、姿を現すとすぐに右手に持っていた斧をガクに向けて振るった。

 ガクも剣で応戦したが、ウガの力が強く、すぐに追い詰められた。


 森田は襲ってきた背の一番低い男の腹を蹴ると、男が持っていた武器を奪い取って捨て、その顔面に膝でトドメの一発を食らわせた。

 

「やべぇぞウガ、その男は強い!」

 森田がガクの下へ向かうと、背の低い男が腹を抱えながらウガに告げた。


 森田はウガの斧に剣で挑み、金切り音が響く二人の熱い戦いが始まった。


(二人のスピードが速すぎて、加勢できない!先にこっちだ!)

 残されたガクは側で争いを繰り広げるウガと森田に圧倒されつつ、近くに倒れていた真歩の下へと走った。

「真歩、聞こえるか!?」

 真歩は返事をせず、わずかに呼吸音が聞こえるのみだった。

(意識はないけど、まだ生きてる!)

 ガクは真歩の両脇を持ち上げ、草陰へと移動させると、森田とウガの戦闘を目で追った。

 

 斧の威力で剣を折られた森田は、ウガの右腕を両手で掴み、斧を振れないように捻じ曲げた。

「カルムは俺達の仲間だ。返せ!」

「そんなの信用できるか!それよりなんで俺達の居場所がわかった!?跡をつけたのか!?」

 ウガはものすごい力で右腕を動かし、斧を森田の顔面に近付けた。

 森田は咄嗟にウガの股間に蹴りを入れ、ウガが硬直した隙に斧を奪って投げ捨てた。

 そのまま二人は素手で殴り合いとなった。


 ウガの強烈な右ストレートを森田が両腕で防いだその時、倒れていたアランが意識を取り戻した。

(ミラン、助けてくれ)

 アランはミランと決めた超音波の合図を、キーン、と鳴らした。

(あれは···班長だ)

 そして森田とウガの戦闘に気が付くと、両手の甲をウガに向けて針を発射させた。


 脇腹に針が当たったウガは、アランをギロリと睨みつけた。

「ん!?何で動ける?矢に塗ったのは神経毒だぞ!」

 ウガはいきなりジャンプし、常人とは思えないほど空高く飛んだところで脇腹の針を抜き、確認してから落ちてきてアランを思い切り蹴った。

「ドゥニアかー!!」

 ウガの怒声が周囲に響き渡った。

 

 蹴られて飛び上がったアランを、森田が両手で受け止めた。

 森田はアランを側にいたガクに任せると、森田とウガの再戦が始まった。


「もうこの大陸に人類はほとんどいない!環境破壊も止まったはずだ!これ以上人を殺すことに何の意味があるんだ!」

 ウガが必死の形相で森田の顔を殴った。

 森田は衝撃で飛ばされたが体勢を立て直し、ウガに向かって言った。

「俺達はドゥニアじゃない!」

「嘘をつくな!そこにいる奴の手から針が出てたぞ!そんなこと、ゲノマー以外にできるわけがない!」

 ウガは再び殴りかかってきたが、森田は防御しながら話を続けた。

「ゲノマー?何のことだ!?」

「ふざけるな!お前達が作ったくせに!」

「俺達はドゥニアを倒すために日本から来た!そこにいる仲間は、父親に勝手に遺伝子を操作されただけだ!」

 森田の言葉を聞いて、ウガの手が止まった。

 その隙に、森田はウガから距離をとった。

「お前達、日本人か?」

 ウガは森田を睨みつけながら聞いた。

「そうだ」

「Dr.シノハラを知っているか?」

 ウガの質問に、森田は驚きつつアランを指差した。

「知らん。だがそこにいる少年の名は、篠原アランだ」

 ウガは驚いた顔でジャンプしてアランの下へ行き、ガクを弾き飛ばした。そしてアランの髪を掴んでその顔をまじまじと見た。


(Dr.シノハラ···?)

 まだ朦朧とする意識の中、アランは困惑しつつウガを見つめた。


 その時、草むらから髪の長い女性·ナスリンが顔を出した。その腕には、首元に剣を突きつけられて白目をむく風人がいた。

「ウガ、こいつらの仲間を捕まえたわよ!」

「ナスリン、こいつらは敵じゃない」

「へ?」

 ナスリンは呆気にとられて口を開けた。

 中肉中背の男と戦っていた蒼太も、互いに手を止めた。


 ウガは森田に向き直って口を開いた。

「俺の名前はウガだ。お前は?」

「カイだ。森田カイ」

 森田は名乗った。

「カイ、悪かった。カルムがお前達に利用されていると思い込んでいた」

 ウガの言葉を聞いて、森田も表情を緩めた。

「そうか···お互い、誤解が解けたようだな。仲間が負傷した。お前が拐ったカルムも怪我をしているはずだ。なるべく早く治療したい」

「ああ。矢に塗られた神経毒は、治療すれば3日程度で解毒する。カルムも既に治療中だ」

「それはありがたい」

 ウガは頷き、アランを指差した。

「それと、俺はコイツの父親を知っている」

 ウガの言葉に、アランと森田が息を飲んだ。

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