感傷じゃ守れない
盗賊の手によって逃走するトラックと、絶命している玄真を前に、呆然とするアラン。そこへ、森田の大声が響いた。
「落ち着けー!最善を選択しろ!」
アランは森田の声にハッとし、我に返った。
(そうだ、状況に飲まれるな。前に進め!)
アランは瞳に涙を浮かべながら、玄真を抱き上げた。
「こちらにも、生存者発見!」
森田から少し離れた場所にいた志穂が声を上げた。
「EU軍の戦車とトラック、稼働確認!まだ使えます!」
志穂の声に呼応するように、菅原も報告した。
「山城玄真、既に心臓が···動いていません。カルムは、何者かに連れ去られました」
アランは玄真を抱いたまま森田の前に行くと、涙を飲んでそう報告した。
森田はEU軍の負傷兵を介抱しながら頷いた。
アランの下に集まった獣衛隊員達は、息絶えた玄真の姿を見て、ショックを受けた。
ざわめきが聞こえたのか、森田に介抱されていた負傷兵が薄目を開けた。
「おい、こちらの声は聞こえるか?」
森田が負傷兵に話しかけた。
「···ああ」
「一体何があった?」
「ネズミの大群と、恐竜を攻撃中に···毒ガスを撒かれた」
負傷兵の言葉に、森田の顔色が変わった。
「それはいつだ?」
「昨日の、18時頃だ。俺はすぐにマスクを着けたおかげで、生き残ったらしい」
「そのようだな」
「早く、逃げてくれ。ここは危ない」
「恐竜はもう倒した。毒ガスの場合、屋外ならその影響時間は数時間程度だ。既に丸1日近く経っているから、俺達は土や水に注意すれば問題ない。それより自分の心配をしろ。今他の生存者もまとめて処置してやるから」
「···そうか。恩に着る」
負傷兵はホッとした顔で再び目を閉じた。
すると森田は、アランを見て言った。
「アラン、お前の鼻でカルムの居場所はわかるか?」
「恐らく」
「では、生存者の処置後にカルムを救出に行く。山城は···残念だった」
「···はい」
アランは涙声で返事をした。
獣衛隊員達も皆涙を流した。
「嘘だろ?玄真、嫌だよ···」
特に仲の良かった風人は、狼狽して青ざめていた。
アラン達が玄真の遺体を前に言葉を失っていると、森田が玄真の遺体を袋に入れ始めた。
「玄真をトラックに運ぶぞ。泣いてないで手伝え」
アラン達が躊躇っていると、森田が語気を強くして言った。
「この辺りの土地は毒ガスで汚染されている。お前達は、玄真の亡骸をこんな場所に放置したいのか?そうじゃなければ動け!感傷じゃ大事なものは守れない!」
森田の一喝に応えるように、ミランが玄真の遺体を持って森田を手伝った。それに続くように、アラン達も袋に入った玄真をトラックまで運んだ。
森田と菅原、志穂は生存者をまとめて車輌に乗せると、応急処置をした。
「助かったよ。俺達は一旦EUに戻るが、お前達はどうするんだ?」
負傷兵の一人が、菅原に質問した。
「ドゥニアまで行くつもりだが、盗賊にトラックを盗まれた」
「だったら、EU軍の余ってる車輌を使ってくれ。軍の車輌は、ネズミが嫌がるように超音波で対策済みだ。アフリカでも、ネズミに狙われずに走ることができる」
「では、遠慮なく使わせてもらう」
森田が答えた。
獣衛隊は準備を整えると、アランの鼻を頼りに、カルムを救出するため出発した。
◆
「アラン、カルムを連れ去った奴の特徴はわかるか?」
EU軍から譲られたトラックを走らせていると、菅原がアランに質問した。
「カルムと同じ、アフリカ系の男性です。年齢は恐らく20代で、ものすごい足の速さでした」
「突然だったとはいえ、アランが追いつけない程の足の速さというのは気になるな。班長、誘拐犯はドゥニアの者でしょうか?」
菅原が森田に問いかけた。
「まだわからん。それより問題は、なぜカルムだけを連れ去ったのか、だ」
「カルムは元首相の息子ですもんね。何か政治的な意図があったのなら、厄介だな」
志穂が会話に加わった。
(もしカルムの解放に関してドゥニアから政治的な要求をされた場合、獣衛隊ではとても対応できないもんね)
ミランも懸念した。
「とにかく、今はアランの鼻に頼ろう」
森田はそう言って、ハンドルを握り前を見た。
トラックに揺られながら、ミランがアランに話しかけた。
「ねぇアラン、ナモスタンで離れた時に思ったんだけど、もしまた何かあった時のために、合図を決めておかない?危険を知らせる合図があれば、いざという時助けに行けるでしょう?超音波でコミュニケーションがとれると理想なんだけど、どう思う?」
「超音波で?んー。確かに超音波は聞こえるけど、超音波を出す方法はわかんないな」
アランは首を傾げた。
「マモル、音出る!」
アランとミランの話を聞いていたマモルが、嬉しそうにそう言ってキキキー、と超音波を出した。
「マモルすごい!その音、どうやって出すの?」
「声、鼻の上!」
ミランの質問に、マモルが答えた。
「声を鼻の上から出すってことか?こうかな?」
アランが試すと、アランの鼻からキーン、と高い音が出た。
「あ、聞こえる!···周りには、聞こえてないみたいだね」
ミランは、風人や真歩が反応していないことを確認して言った。
「なるほど、これが超音波ってことか」
「えーと、こうかな?」
アランの真似をして、ミランもキーン、と高い音を出した。
「それそれ!」
「じゃあ、この『キーン』っていう長い音がしたら集合、『キキキッ』って短い音だったら逆に離れる、って合図どう?」
ミランがそう提案すると、アランとマモルが頷いた。
「よし、そうしよう!」
◆
「トラック、停めて下さい」
EU軍の拠点を出発後30分程車輌を走らせた所で、アランはトラックを停めるよう森田に伝えた。
「カルムの匂いが近くなって来ました。恐らく、徒歩数分以内の場所にカルムがいるはずです」
辺りには草木が生い茂っており、前がよく見えない。森田はトラックを停車させ、隊員達の前で地図を広げた。
「防衛隊の情報では、ドゥニアはキリマンジャロの山頂から見て北西の場所、この辺りにあると推測されている。EU軍にも確認をとったが、同じ意見だった。だが、今いるここは旧エチオピア領だった場所だ。キリマンジャロまではかなりの距離がある」
「つまり、カルムを拐ったのはドゥニア以外の者かもしれない、ということですね」
菅原が地図を見ながら言った。
「ああ。どちらにしろ、最大限の警戒が必要なことは間違いない。アラン、カルムの匂い以外に、現時点で何かわかることはあるか?」
「正確な人数はわかりませんが、10人以上の人間と動物の匂いがします。多分、この先に村か何かがあるんじゃないかと」
「なるほど。この先は調査班とトラック待機班で、二手に分かれよう。念のため、調査班はマスクも装着するぞ」
「はい」
森田の指令に、隊員達は返事をした。
調査班にアラン、森田とガク、蒼太、真歩が行くことになり、菅原、志穂、ミラン、マモル、風人、ユリカがトラック内で待機することとなった。
アランは森田と二人で先頭に立ち、人の背丈ほどもある草の中を進んでいた所、急に何本もの矢がアラン達一行に襲いかかってきた。森田とガク、蒼太は剣やマスクに矢が当たったおかげで危機を逃れたが、胸と足に矢が刺さったアランと真歩はその場で倒れた。
「チッ、二人仕留めただけか」
アフリカ系の筋骨隆々な男達が、草の中から顔を出した。




