祝宴
驚いた顔の森田を見て、ニヤリと笑う加治屋。
「ご存知でしょうが、俺は、純粋な日本人ではありません。しかも、傭兵上がりで小学校すらまともに出ていない。そのような者にこんな機密情報を提供した上、スパイになれとは···規律違反が過ぎるのでは?」
森田は謙遜して答えた。
加治屋はまたハハ、と笑った。
「お前のように強い男が、規律なんてもんに囚われてどうする。青木にでも毒されたか?純粋な日本人のエリートなら、もう何人もスパイにしてナモスタンやアフリカに送り込み済みだ。だが情報を持ってくるどころか、すぐネズミに殺られてお陀仏ときた。今のこの苦境を脱するには、頭が切れて強い男が必要だ。森田、お前のIQは120を超えると入隊時のテストで結果が出ている。しかも実力は獣衛隊で織り込み済みだ。引き受けてくれるな?」
加治屋は自信あり気に鼻から息を出した。
森田は何か考えるように右上に視線を向けてから、小さく頷いた。
「···承知しました。では、具体的な任務とは?」
「奴らは、近いうちにまた日本に攻めてくるはずだ。それがいつ、どこになるのか突き止めろ。それともう一つ、こっちが本丸だ。ナモスタンとドゥニアを潰せ」
加治屋の言葉に、森田は驚いて絶句した。
―――
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森田から話を聞き、驚くアランとミラン。
「幸運なことに、日本への攻撃計画は阻止することができた。しかも、ナモスタンとドゥニアの仲間割れでナモスタンの兵も破ることができた。後はドゥニアだ」
「ちょっと待って下さい。日本への攻撃計画なんて、いつあったんですか?」
アランが質問すると、森田が自分の右耳を指差して操作した。
イヤホンから音声が流れてきた。
『明日は霞が関だっけ?さすがに炭疽菌ばら撒いたら、日本も終わりね』
「これは、機内で俺達が眠らされていた時の音声だ。防衛隊から支給されたこのイヤホンには、最新の超小型AIが搭載されている。録音や音声の送受信、翻訳も可能だ。この情報は既に、防衛隊に送られている」
森田が説明した。
(俺が寝てる間に、こんなことがあったのか!)
驚くアラン。
「だから、後藤達に従っていたんですね」
ミランが思い出しながら言った。
「ああ。3人には、何も言わずに巻き込むことになって悪かった。情報を探るため、後藤達の策にはまる必要があったんだ」
「班長にも理由があったとわかって、納得しました」
アランはほっとした。
そこへ、扉が開いて村の男性Aがやって来た。
「宴の準備ができました。みなさん、どうぞあちらへ」
村の男性Aが、アラン達を祝宴に招待した。
◆
宴が始まり、村人達は飲めや歌えの大騒ぎとなった。
アラン達も、久しぶりの豪華な食事に舌鼓を打って料理を堪能した。
酒に酔った村の老人が、森田に話しかけた。
「私達の村は、今までグラムが持つ超音波システムの影響で、ネズミ被害に遭わずに済んできた。しかしその代わりに強制労働を強いられ、奴隷同然の生活を送ってきたのです。でもそんな生活もこれで終わりだ!今後は自力でネズミ被害の対策を立てつつ、村のみんなで協力していけるでしょう。本当にありがとうございました。さあ、もっと飲んで下さい」
老人に勧められ、森田も酒を嗜んだ。
宴の途中で、森田は離席して一人歩き出した。やって来たのは、レイラのいる牢屋の前だった。
「何しに来たのよ。もしかして、もう首を切るつもり?」
レイラは頬を引きつらせて聞いた。
「それを決めるのはこの国の人々だ。教えてくれ。ドゥニアとナモスタンは協力関係にあったんじゃないのか?なぜドゥニアを裏切るようなマネをしたんだ?」
「ふん。あいつら、人類を減らせって言うくせに、ミサイルは使うな、自然分解できない化学物質は使うなってうるさいのよ。しかも、世界中の都市を壊して、野生生物がそこら中を歩くような世界を作るとか言い出したの。そんなことされたら、外を歩くのも危ないじゃない。私はただ、日本が嫌になったからぶっ壊したくなっただけなのに。ナモスタンに協力したのは、日本が崩壊したら、金持ちから家も何もかも奪って、遊んで暮らせるってグラムに言われたからよ」
レイラは、腕を組んで遠い目をした。
森田は憐れむような目でレイラを見た。
「なぜ日本を壊す必要がある?飯の旨い、いい国じゃないか」
レイラは鉄格子を両手で掴んで揺さぶった。
「あんた私にマウント取りに来たわけ?ふざけんじゃないわよ!私はねぇ、高2で妊娠したせいで、中退させられた挙句に死産したの。日本はねぇ、一度レールを外れた人間にとことん冷たいの!お金もない、学歴もない私を嘲笑うようなあんな国、全部なくなっちゃえばいいのよ!」
レイラは鉄格子を掴んだまま、俯いて泣き始めた。
森田が目を伏せたその時、急に数人の村人が慌ただしく行き交い始めた。
「ネズミだ、ネズミが来たぞ!」
どうやら、大ネズミが近くに現れたようだった。
森田は牢を後にし、村人達がいる宴の場へと走った。
◆
森田が宴の場所に戻ると、数頭の大ネズミが村に現れたところだった。
さっきまで楽しそうにしていた村人達が、大ネズミを見て悲鳴を上げていた。
村の女性Aが、やって来た森田にすがるように助けを求めた。
「旅の方、お助け下さい!」
森田は村の女性Aを守るように一歩前に出た。
するとその時、アランとミランが走って森田のところへやって来た。
「班長、探しましたよ!」
アランがそう言って、森田が先程まで使っていた剣を森田に渡した。
「班長、マモルが行方不明なんです!」
ミランが心配そうに森田に伝えた。
「マモルが!?」
大ネズミを見据えながら、森田は眉間にシワを寄せた。




