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獣乱のゲノム  作者: 大野 響


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依頼

 ダァァァー!!

 青ざめてうめく後藤の腹に、全身から針を出したアランの両足が当たって突き抜けた。

 穴が空いた後藤の腹。その内臓とともに、背中側から飛び出してきたアラン。

 勢い余ってそのまま地面を滑り、土煙を巻き上げてやっと止まった。


「アァ、ァ」

 白目を向き、その場に倒れる後藤。

 薬の力も切れたのか、後藤は小さく戻って息絶えた。

「龍也、どうして···!」

 後藤の遺体に泣き崩れるレイラ。 

 側で尻もちをついていたグラムは、状況が不利であることに気付いて立ち上がり、逃げ始めた。


 逃げるグラムの背中に、牧草フォークを投げるミラン。

「逃さないよ、っと」

 牧草フォークが背中に刺さり、グラムはその場に転倒した。

 ミランはグラムの下へと行くと、その尻を踏んだ。

 グッジョブ、と言うように、親指を立てて微笑む森田とアラン。


「誰か、縄をくださーい」

 ミランは遠目に見ていた住民達に向かって、声をかけた。

 ガタイのいい男性が、ミランに縄を投げた。

 縄を受け取ったミランは、グラムとレイラを素早く後手に縛った。

 すると、見ていた住民達から大きな拍手が沸き起こった。

「グラムが、捕まったぞー!」

「ウォー!俺達は自由だぁー!」

 喜んで騒ぎ出す住民達。

 カルムとダリヤ達少女も喜んで笑顔になった。


 起き上がった森田とアランの下にやって来る村人達。

 村の男性Aが森田に声をかけた。

「グラムを倒していただき、ありがとうございます。お疲れでしょうから、よろしければうちで休んで下さい。今夜は村で祝杯をあげることになりましたので、そちらもぜひご参加を」

「では、お言葉に甘えて」

 森田は顔に笑みを浮かべて答えた。

 

 グラムとレイラは村人によって連行され、小さな牢屋に入れられた。

 

 アラン達は村人から手当てを受け、彼らの家の一室で休憩することとなった。

「宴が始まるまで、どうぞこちらでお休み下さい」

 村の男性Aは、そう言うと出て行った。

 アラン達は、用意された椅子に腰掛けて一息ついた。

「よく頑張ったな。二人のおかげだ」

 森田はアランとミランを労ってから、マモルをじっと見つめて頭を下げた。

「マモル、あんな所に連れ出して悪かった」

 

 すると、マモルはにっと笑った。

「マモル、ダジョーブ!」

 マモルの言葉に、森田は驚いて目を丸くしてから、笑ってマモルを抱き寄せた。

「お前、俺より強いな」

 微笑みながらマモルの頭を撫でた森田が、ふいに真顔になってアランとミランを見つめた。

「二人に、話しておきたいことがある」


 真剣な表情の森田を前に、アランはゴクリと唾を飲んだ。


――森田の回想――


 戦闘後の、木更津基地。アラン達が去り、獣衛隊隊長の加治屋と森田の二人だけになった会議室で、おもむろに加治屋が立って歩き出した。

「森田、ついて来い」

 加治屋は会議室の壁の一部で意味ありげに指を動かすと、壁の一部が開いた。どうやら、別の部屋へと繋がっているようだった。

「隠し部屋ですか。気付きませんでしたよ」

 森田が言った。


 加治屋が前を歩き、部屋に入って扉を閉めた。

 部屋の中には、簡素な椅子と机が置かれているだけだった。

 椅子に腰掛けた加治屋と森田。先に加治屋が話し始めた。

「隊長にもなると、聞かれたくない話だらけでな。ここはあらゆる通信機器が作動できないようになっている。少しはゆっくり話ができるってもんだ。お前、ナモスタンについて嗅ぎ回ってるんだろ?」

 加治屋が企むような目で森田を見た。

「さすが、防衛隊隊長。隠しごとはできないものですね。もしや、俺にスパイ容疑ですか?どうも、この顔は疑われやすいらしい」

 森田は両手を上に向けて困り顔になった。


 加治屋はハハ、と笑った。

「日本は今や、5人に1人は海外にルーツがあると言われるスパイ天国だ。そのせいで、基地まで攻撃された瀕死状態。防衛隊隊長として実に情けない。だがな、そんな俺でも人を見る目だけはまだ曇っちゃいないさ。その足の傷、仲間を庇ってワニにやられたんだろ?スパイになるような奴は、もっと地味に小賢しく動く。最前線で戦って負傷するなんざ、一番嫌がるんだよ」 


「なるほど。褒められてるのか、貶されてるのかわかりませんが」

「もちろん、褒めてるさ。そこで森田、お前にとっておきのことを教えてやろう。ナモスタンの裏には、ドゥニアがいる」

「ドゥニア!?EUのドゥニア·グリーン教ですか!?」

 森田は驚いた顔をした。


「そうだ。お前も知ってるだろうが、ドゥニアは元々環境保護を謳う環境主義勢力の一部が作った宗教だ。初期の頃は、温室効果ガスの悪影響について信者に広めるような、温厚な団体だったらしいな」

「知ってますよ。俺の知る限り、ドゥニアには環境悪化に危機感を覚える生物学者が多数入信していたはずです。彼らは温厚な科学者で、ナモスタンのような金儲けのためのテロ思想とは全くの別物のはずです」


「表向きはな。だが現在(いま)の実態は異なる。2020年頃、ドゥニアのデクスター·ヘイズという科学者が教団のトップになった。彼は長年研究していたカエルが温暖化の影響で絶滅したことに激怒し、増え過ぎた人類は淘汰されるべきという思想に変わったようだ。とはいえ、そんな考えがEUで受け入れられる訳がない。そこで鬱屈したストレスを向けた先が、アフリカだったと言うわけだ」

 加治屋は顔に苦渋の色を浮かべた。


「ドゥニアは、アフリカで一体何をしたんですか?」

 森田は、眉をひそめて聞いた。


「教団関係者に、生物兵器の研究をさせた」

「生物兵器!?一体どんな」

「新型の鳥インフルエンザとハンタウイルスだ」

「あのパンデミックは、ドゥニアの仕業だったのですか!?」

 森田は思わず立ち上がった。

 加治屋は頷いた。

「それだけじゃない。ネズミを作ったのもドゥニアだと言われている」

「全部、人類を根絶するための計画だったってことか···」

 森田は俯いて首を横に振った。


「ナモスタンとは、パンデミックの前後に手を組んだことまではわかっている。特に日本は5年前からナモスタン人の増加とともに犯罪が増えた。だから3年前に怪しい奴らを一斉に摘発したんだ」 

 加治屋はそこで咳払いをした。


(3年前!そうか、だからこの3年はネズミを利用したテロが起きてなかったのか)

 森田は、懸念していた大ネズミ利用のテロが最近まで起きていなかった理由に納得した。


「だが、問題はその後だ。奴らがこれから何をしようとしているのかが、まるでわかっていない。そこで森田、お前に頼みがある」

 加治屋がまっすぐに森田を見た。

「頼み、ですか?」

 加治屋が頷いた。

「スパイになってもらいたい」

 森田は驚いて口を開けた。


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