U·D·T
グラムが開けた扉の中には、死体の頭を蹴って遊ぶ少年二人と、死体の体から流れ落ちる血を長い舌を使って飲んでいる少年がいた。
3人の顔は整っており、まるで三つ子のようによく似ていた。だが額にはU、D、Tの文字がそれぞれ刻印されており、それで見分けがついた。
「ゲルアン、ゲルドゥ、ゲルトロー!お前達の出番だ!」
グラムは3人の少年に声をかけた。
「あれー?もうドゥニア戦?」
Uの印が付いたゲルアンが、グラムに聞いた。
「違う違う、ネズミだ!ネズミの大群を取っ払ってくれ!」
グラムは3人に向かって言った。
「ペイトンが裏切ったのよ!あの無能が、エリックとデニスを殺したの!」
レイラが顔に怒りの色を浮かべた。
「えー、ペイトンが?」
とゲルアン。
「エリックとデニスを」
とゲルドゥ。
「殺したって!?」
とゲルトロー。
「そうだ、お前達の力が必要なんだ。この宮殿を守ってくれ!」
グラムの願いとは裏腹に、大ネズミの大群が押し寄せたことで揺れる宮殿。
「軍も要請しましょう!ドゥニア戦に備えて、近くに駐留させてあります!」
後藤はそう言って、どこかに電話をかけ始めた。
その時、複数の大ネズミがグラム達の部屋までやって来た。
「キャーッ!ネズミよ!」
叫ぶレイラ。
「わぁネズミ!」
とゲルアン。
「こっちに来るなよー!」
と言って、ゲルドゥは両手から波動のような風を起こし、辺りの大ネズミを次々と吹き飛ばした。
すると、吹き飛んだ大ネズミによって宮殿の柱にヒビが入り、辺りは少しずつ崩れ始めた。
◆
大ネズミの大群に向かって、戦う森田。
遠目に、北側の通路へ逃げる後藤とレイラ、同じく北へ向かうペイトンの姿が見えた。
森田は大ネズミと戦いながら、連れられて歩いた宮殿の様子を思い出した。
(確か、宮殿にはいくつも出口や窓があった)
森田は大ネズミの頭に剣を突き刺し、次に来たネズミの目を蹴り上げる。
(ネズミは西から来る。観客は東へ逃げた。後藤達は北へ行った。ならば、南だ)
大ネズミの大群で、揺れる宮殿。
観客席を抜け出た森田は、ある程度の大ネズミを倒したところで進路を変え、南にむかった。
森田が宮殿の大広間に差し掛かったところで、東側の階段からカルムと少女達が上って来るのが見えた。
(あの少女は···あ!)
カルムと少女達の後ろからアランが走ってくるのが見え、森田は急いで声をかけた。
「アラン、こっちだ!南へ行くぞ!」
「班長、良かった!」
アランは涙目になって喜んだ。大ネズミを倒しながら、森田とアラン達は、南に向かって走った。
どんどんと酷くなる宮殿の揺れ。森田と合流したアラン達は、衛兵が逃げて大ネズミが押し寄せていた出口に向かって走った。
森田とアラン達が宮殿の庭に出たところで、大きく崩れ始める宮殿。
「班長、ミランとマモルが見つかりません!まさかまだ中にいるんじゃ」
焦って宮殿の中へ戻ろうとするアランの肩を、掴む森田。
「落ち着け。お前なら、匂いや音でわかるんじゃないのか!?」
「あ、そうか!」
アランは神経を集中させた。
(ミランの匂い、音···どこだ?上!?)
音を立て、本格的に崩れ始める宮殿。
「キャア!」
少女達の悲鳴が響いたその時、2階東側の窓ガラスが割れて、中から羽根を広げて飛ぶミランと胸に抱かれたマモルが出てきた。
「アラン!班長!」
ミランがホッとした様子で地上の森田達に声をかけた。
「ミラン!南へ行くぞ!全員走れ!」
森田は南を指差すと、全員で住宅街の広がる南へと走った。
森田達がしばらく走って宮殿が遠くなったところで、森田は一旦倉庫らしき建物の中に全員を集めた。
疲れて肩で息をする少女達。
森田が窓ガラス越しに外を確認しながら、仲間達に声をかけた。
「みんな少し休め。ナモスタン軍も、恐らくここは攻撃しない」
「え、軍隊ですか!?」
驚くアラン。
「ナモスタンが強力な軍隊を持っていることは有名だ。西を見ろ、ネズミで溢れ返っている。この数に対処しようと思ったら、軍を出動させてもおかしくないだろう」
アランは、西側から向かってくる大ネズミの数に絶句した。
「またネズミだ···。もう、世界は終わりなんだ」
カルムは今にも泣き出しそうな声で震え上がった。
「アラン、こいつは?」
森田がアランに尋ねた。
「彼はカルム。同じ監獄に捕まっていたんです。たしか、クリフ·バーン首相の息子だったかな?こっちの女の子達も、監獄にいたんで連れて来ました」
アランがカルムと少女達を森田に紹介した。
「お前、名前は?」
森田は、エリックとデニスに追いかけられていた少女に質問した。
「私の名前はダリヤ。あなた達は私を助けてくれたの?それともまた売り飛ばすつもり?」
ダリヤは恐怖心と必死に戦うような顔つきで、森田に言った。
「お前達を売り飛ばすつもりはない。だが、お前達を監獄に閉じ込めた奴らはまだ恐らくくたばっちゃいない。追手から完全に逃げ切れるまでは、一緒に行動するぞ」
森田の言葉に、ダリヤは少しホッとした様子で頷いた。
「わかったわ」
ふと窓の外を見たダリヤは、大ネズミに乗ったペイトンが、崩れた宮殿を抜けて北へ走るのを見つけた。
「あいつ、ペイトンだ」
「ペイトンって?」
ミランは英語でダリヤに質問した。
「いつもヘビと一緒にいる男の名前よ」
「あの男、ペイトンって言うのね!班長あいつが、木更津基地で私を襲った男です!」
ミランが森田に伝えた。
ミラン達と一緒に、アランと森田も窓ガラスを覗いた。
「ネズミが現れた時に、ペイトンが仲間の男二人を殺していた。恐らく、ペイトンが仲間を裏切ったんだろう」
森田はコロシアムで見た光景について、みんなに伝えた。
「あれ、何か来る」
アランは、土煙を上げて北から戦車や装甲車がやって来るのを見つけた。
「ホントだ!ネズミが、戦車を襲ってる···」
ミランも軍隊を確認して頷いた。
数多の大ネズミが、やって来たナモスタン軍に次々と襲いかかっているのが見えた。
その時、ドーン、と一際大きな音が聞こえて、強い風で倉庫が揺れた。
「いつまでもここにはいられない。アラン、もっと南に逃げられるか、様子を確認してきてくれ!」
森田がアランに指示を出した。
「東に行ったらダメですか?東の空港から飛行機で逃げたほうが早いんじゃ」
「宮殿から空港が近過ぎる。飛行機で飛び立つ前に、奴らに見つかって飛行機ごと落とされるぞ」
「わかりました、外を見て来ます!」
一旦外に出たアランは、意外なほどすぐに戻って来て困ったような顔をした。
「この先は、東も南も西も、全部砂漠でした」
「砂漠か···逃げてもすぐに見つかるな」
そう言って、森田はため息をついた。
すると、再び大きな音と爆風が起きた。




