凛との時間
獣衛隊の隊員達が兵舎の休憩室で各々寛いでいる中、部屋にアランとミランが入ってきた。
蒼太とマモルはミランに気付くと、嬉しそうに走り寄った。
後から真歩や他の隊員も寄って来る。
「ミラン、待ってたよ!戻ってこれて良かった。傷はまだ痛む?」
蒼太が聞くと、ミランは笑顔で答えた。
「心配してくれてありがとう。もう大丈夫」
ミランは生死の境で瞬に助けられる夢を見たことで、自分の感情に区切りをつけることができた。おかげで一皮むけ、再び笑顔を作れるようになったのだった。
それまでそっけない態度であったミランの突然の笑顔に、ハートを射抜かれて固まる蒼太。
「そっか、良かった」
蒼太は頬を赤くして言った。
ミランは蒼太の頬が赤くなったことに気付かないまま、しゃがみ込んでマモルを抱きしめた。
「ミーラン、ミーラン」
ミランの名前を呼ぶマモル。
「マモル、会いたかった!」
ミランはマモルと頬をくっつけて再会を喜んだ。
真歩も涙ぐんで復帰を喜び、その場が明るく盛り上がった。
頬杖をつきながらアラン達を見ていたユリカは、ミランの様子を見てその感情の変化に一人気付いた。
(ミランも無事で良かったわー。ん?なんだかスッキリした顔してるじゃないの)
◆
夕焼けに染まる河川敷で、川を眺めているアランと凛。二人の間には、微妙に距離がある。
「仕事、まだあるんだろ?呼び出しちゃってごめん」
頬を赤らめながら、アランが言った。
「ううん、今日はもう終わったから大丈夫。何かあった?」
凛も少し頬を赤らめながら答えた。
「ああ、これ。ユリカから、凛に返して欲しいって頼まれてさ」
アランは、持っていた袋の中から手のひらサイズの加湿器を凛に見せた。
「加湿器!?そうそう、これ、ユリカが使いたいって言うから、前に貸したんだよね。あげたつもりでいたのに···。ユリカに、返してくれてありがとうって伝えておいて」
凛はそう言って微笑んだ。
「それと、これは班長から。ネズミの調査の時に使ってくれ、だって」
アランは同じ袋から巻き尺と軍手を見せて、袋ごと凛に渡した。
「ありがとう!よく使うから助かるよ」
凛が瞳を輝かせた。
「ネズミやワニが超音波に反応してるなんて、今まで気付きもしなかったよ。凛のおかげだって、班長も言ってたぞ」
「私じゃなくて、所長とスタッフみんなの研究の成果だよ。でも、役に立てたみたいで良かった。ネズミが反応する超音波にも種類があるみたいで、まだまだわからないことがいっぱいだから、私ももっと勉強しないと」
凛は自分を鼓舞するように言った。
凛の様子を見て、アランも嬉しくなった。
「凛は、獣衛隊にいた時より生き生きしてる気がする。この仕事、あってるみたいだな」
凛は頷いた。
「うん。自分でもそう思う。私ね、本当のこと言うと、ネズミを殺すことに抵抗があったの。昔から動物が好きだったから、むしろ動物を守るような活動に興味があって。獣衛隊に入ったのも、母の再婚相手と一緒にいたくなかったから···不純な動機でしょ?」
そう言うと、凛は下を向いた。
「いや、そんなことない。そんなことないよ。俺だって、先生がネズミに殺された時に誘われたから、流されたところがあるし。それに俺は、凛が本当にやりたいこと見つけられて良かったと思う。凛には、これからもずっと笑顔でいて欲しい」
自分で言って恥ずかしくなるアラン。
「ありがとう。アラン君に話せて良かった。いつか···いつか、大きなネズミもワニもいない、元の日本に戻る未来が来たらいいよね。それがね、今の私の夢なの」
「俺も、応援するよ」
アランは凛を見た。するとお互いの目が合い、距離が近付く二人。
◆
訓練場の食堂で、食事をとるアランとミラン。ミランの隣には、離乳食を食べるマモルもいる。
アランは凛と会った時のことを思い出しながら、ニヤついていた。すると、胸元の通信機器が鳴って後藤隊長から指令が入った。
「出動要請だ。アラン、ミラン。マモルを連れて、今から和歌山に向かってくれ」
「承知しました」
アランとミランは同時に答えた。
「和歌山か。随分遠いな」
食堂を出て走りながらアランはミランに言った。
「そうだね。またテロがあったのかな」
ミランが答えた。
兵舎を出て少し走った所で、飛行機のそばに森田がいた。
「アラン、ミラン。こっちだ!」
森田が二人を呼んだ。
「アラン、これを付けておけ」
森田は手に小さなイヤホンのような機械を持っていた。
「これは?」
「酔い止めみたいなもんだ」
森田はそう言うと、アランの左耳にそれを装着してから飛行機に入って行った。
森田に続き、アランとミラン、マモルも飛行機に乗り込んだ。
「和歌山で複数のワニが出たらしいな」
「はい」
3人は森田とともに飛行機に乗り込むと、着席してシートベルトを締めた。
ドアが閉まり、飛行機はすぐに飛び始めた。
しばらく飛んだところで、アランは急激な眠気を感じた。
(ん?なんだか···眠いな···)
いつの間にか、アラン、ミランとマモル、森田は眠っていた。
飛行機を操縦している操縦士二人は、ガスマスクをつけていた。
国内編はとりあえずこれで終わり、次回以降はナモスタン編となる予定です。




