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獣乱のゲノム  作者: 大野 響
国内編

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26/43

飛び立つ信者

 屋上から飛び立つ男に向けて、蒼太は銃を撃った。だが男は左右に揺れて弾を避け、あっという間に数キロ先まで飛んで行ってしまった。


「アラン、大丈夫か!?」

 蒼太は近くにいたアランの下へ駆け寄った。

 アランは小さく頷き、ミランを指さした。

「ミランが、撃たれた···」

「え!」

「ミラン、聞こえるか!?」

 蒼太が慌ててミランの耳元へ声をかけたが、ミランは目を閉じたまま意識もないようだった。

 蒼太はミランの胸にさっと包帯を巻くと、ミランを背負った。

 アランもどうにか自力で立ち上がった。


「俺は歩けるから、ミランを頼む」

「わかった」

 蒼太はミランを担いで屋上を出ると、医務室と書かれた部屋まで運んだ。

 白衣姿の男が、ミランの状態を見て顔色を曇らせた。



 ミサイルを撃たれても動じず、だんだんと近付く巨大ワニの群れに、息を飲む防衛隊と獣衛隊。


 瓦礫を壁代わりにして、ドローン攻撃から身を守ったガクと風人。

「数が多過ぎるよ。ここは基地なんだから、戦闘機で攻撃とかできないの?」

 風人が弱気になってガクに尋ねた。 

「戦闘機は、誰かに燃料タンクを壊されたらしい。他の基地も攻撃を受けてるから、助けを呼ぶのも難しいね」

 ガクが銃に弾を補充しながら答えた。

 青ざめて涙を流す風人。


 どんどん近付いてきた巨大ワニが、次々に防衛隊員を食べていく。

 大ネズミとドローンも集まって、阿鼻叫喚の様相だった。


「ミサイル発射準備!」 

 防衛隊の幹部男性が、新たなミサイルを発射させようと声を出した。

 「これ以上のミサイル攻撃は危険です!基地が崩壊してしまいます!」

 防衛隊員がそう告げると、幹部の男性は眉をしかめた。

「あと10分でレーザービームを搭載した護衛艦が到着する。それまでなんとかしのぐぞ!」

 幹部の男性は、持っていた銃でワニを撃つため構えようとした。その時、森田と目を合わせた志穂、菅原がワニに向かって一足先に飛び出した。


 3人は巨大ワニのそばまで来ると、ショットガンを何度も撃ち、辺りのワニの息の根を止めた。

 そして弾がなくなると、ワニの頭に降り立ち、次々とワニの頭に剣を振りかざした。だが何頭かの頭に突き刺したところで、菅原の剣が折れてしまう。

 それを狙っていたかのように、口を開けたワニが菅原に噛みつこうとした。

 森田は素早く自分の剣をワニの口に入れ、菅原が噛まれるのを咄嗟に防いだ。

 ワニ達が我先にと森田達に噛みつこうとしたため、志穂が剣で応戦した。

 だが志穂の剣は途中で折れ、尻尾で遠くへ飛ばされた。

 多数のワニを倒しきれず、2頭のワニが菅原と森田の足にそれぞれ噛みついた。


 森田は間髪入れずに2頭のワニの目を殴り、ワニの口を開けさせて自分の足と菅原を助けた。それから既に息絶えたワニを持ち上げると、2頭のワニの口を死んだワニで挟んだ。

 ワニがワニを噛んでいる合間に、森田と菅原は後退して身を守った。


 足から血を流し、大きく息をする菅原と森田。

 するとその時、なぜかワニ達の足並みが乱れ、攻撃の意欲を失ったかのように動きが鈍くなった。

 何頭かのワニが、海へと戻って行く。

 大ネズミも動きが鈍くなり、戦闘意欲が弱まったようだった。

(どうした!?···アランか?)

 森田は咄嗟にアランが走って行った方を見上げ、コウモリ男が羽ばたいて逃げて行くのを確認した。



 傷ついた隊員達が、医務室から溢れて廊下にまで倒れていた。傷ついた者を介抱する獣衛隊員達。

 腹に包帯を巻いたアランが、ベッドに寝ているミランを見つめていた。


――アランの回想――

「出血は止めたが、予断を許さない状態だ。覚悟しておくように」

 医者の男は、それだけ言うと他の患者のところへ行ってしまった。


 医者の言葉にショックを受けるアラン。

―――


「ミランの様子はどうだ?」

 足に包帯をした状態で医務室にやって来た森田が、ベッドの横で座っているアランに声をかけた。

「まだ···わかりません」

「そうか。基地内に残っていたネズミとドローンはほぼ片付いた。ミランは今から大きな病院に搬送されるそうだ。俺はこれから会議に参加する」

「じゃあ、俺も病院に」

 アランがミランの付き添いをしようと立ち上がると、森田が詰め寄った。


「アランには会議に参加してもらう。屋上で見た人物について、詳しい報告が必要だ」

「でも···わかりました」

 アランは反論しかけたが、いつも以上に真剣な森田を見て従うことにした。



 慌ただしい雰囲気の中始まった緊急会議には、防衛隊隊長の加治屋と数人の幹部、それから獣衛隊の森田とアランが参加する形となった。

「超音波を流していたのは、屋上にいた男でした。スピーカーのような物から音がしていたので、間違いないです」

 加治屋に向かって、アランは報告した。

「里山動物研究所からも報告があった通り、何者かが特定の匂いや超音波でネズミやワニを操っていたことは間違いないようですね」

 防衛隊の幹部女性が補足するように言った。


(凛のいる研究所だ!)

 アランは凛達の成果だと知り、嬉しくなった。


 不特定の場所に大ネズミが突然多数現れる現象については、以前から世界中で確認されていた。しかし多数の大ネズミが現れた場合は被害の処理に追われ、それが人為的に行われている可能性については、各国調査があまり進んでいなかった。

 大ネズミは危険な上に地域によって反応する匂いや音が異なるという特性も、研究者の調査を困難にしていた。


「俺の留守中に舐めたマネしやがって···!おい針男、屋上にいた男の特徴は?詳しく教えろ」

 加治屋は机を叩いて歯ぎしりした。

「屋上にいた男は20代くらいの痩せ型で、マモルと似たコウモリのような羽根がついていました。防衛隊の隊服を着ていましたが、首には見慣れないネックレスをしていたのを覚えています。えっと、たしか···」

 アランの様子を察した女性幹部が、アランにペンと紙を渡した。

 アランは紙にネックレスの形を描いた。


 加治屋はネックレスの柄を見て舌打ちした。

「···チッ。針男、なんで男を逃がしたんだ?」

 加治屋が脅すような声色でアランに尋ねた。

「すみません、毒ヘビに噛まれて、動けなくなりました」

 加治屋の勢いに、アランは首をすくめた。

「ああ、喋るヘビがいたんだったか?ったく、ネズミにワニとコウモリ男、挙句ヘビまで出てきやがって···もういい。森田、お前はここに残れ。他は下がっていい」

 加治屋に命令され、アラン達は会議室を後にした。


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