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なにわ筋線

「一つ気になることが」

砂岡が言いかけたタイミングで竹上が間髪入れず、

「山海電鉄のことやろ。新幹線なんか出てきたら山海では勝ち目ありませんからな。それについては東郷君が説明します」

「私から説明させて頂きます」

竹上の替わりに東郷が説明を始めた。本来、東郷は日鉄のキャリア職員で竹上の下ではない。それにも拘わらず、竹上の部下のように振る舞う東郷に石山は強い違和感を持った。


「山海電鉄さんに納得して頂くため、山海電鉄さんの悲願である梅田進出の支援をさせて頂きます」

「ほう、どのように」

と、砂岡が返した。砂岡にしたらお手並み拝見といったところであった。


 元々、空港の鉄道アクセスは山海だけでなく日鉄阪和線も乗り入れることになっており、これについては山海も了承済みであった。

 しかし、これが新幹線となれば話が別である。山海が速度で新幹線に対抗できる訳がない。これを山海への根回しなしで発表すれば、山海は間違いなく反発して、何らかの妨害に出ることが十分に想定された。よって事前に何らかの補填をすることで、山海を大人しくさせなければいけなかった。


 東郷が話を続ける。

「なにわ筋線を難波から梅田に掛けて建設して大阪駅に接続させます。そして日鉄と山海電鉄さんと共同で使います。更に山海電鉄さんに梅田の残っている土地を売って、そこに山海さんのビルを建ててももらい、それで収益を上げて頂きます。」

「まだ梅田にそんな土地があったのか」

砂岡は軽く訊いた。それに東郷は即答する。

「かつての貨物駅の北側に高層ビル1棟分の土地があります」


 なにわ筋線は梅田と難波を結ぶ鉄道路線で、大阪に大量の人口流入があった1970年代に計画が出ては消えてを繰り返したものであった。表向きには「建設費の高さ」を理由に見送られていた。しかし実際は大阪市が反対していたからであった。運営している大阪市地下鉄である御堂筋線の乗客が取られることを懸念したからである。

 元々、大阪市は私鉄の市内乗り入れに不快感をもっていた。市内交通は大阪市が独占することで、表向きには「市民の足を営利企業でなく、市民の利益のため公共の大阪市が担う」としたが、実際は単に市内交通の利益を独占したかったに過ぎなかった。

 また大阪市内の独占益だけでなく、街の開発という側面もあった。なにわ筋線によって難波が素通りになり、難波地域が衰退することを懸念していた。当然、難波には市議会議員を応援している店舗経営者が多数いるため、彼らに配慮することは市議会議員として当然であった。

 こうした事情から計画は出ては消えてを繰り返し、結果として山海電鉄の悲願の梅田進出が出来ずにいた。


 砂岡は眼光を鋭くする。

「大阪市が嫌がっているだろう。地下鉄の客が取られるのだから。もう既に交渉中なんだろう。それで市に嫌がれていると見たが」

それに対して、東郷が答える。

「はい、先生のご賢察の通り、大阪市とは既に交渉を進めてはおりますが、中々いい返事は貰ってはおりません」

「だろうな」

砂岡は軽く呟いた。東郷が話しを続ける。

「それに原発新幹線を建設するとなれば、現在の大阪駅で捌けません。北陸や和歌山などが加わると今の大阪駅では無理です。よって、このルートは原発新幹線のためにも必要になります」

砂岡は少し黙り込んで思案に耽った。


 石山は、このやり取りから自分がこの食事会に招待された理由が分かった。最初、砂岡から連絡があり、先方の竹上がどうしても石山に来て欲しいという話であった。それで今回の食事会に出席した訳だが、これがその理由だった。

 京都駅から分岐して、竹上興産が開発中の高層ビル街OMCに新幹線を引いて空港に繋げる。当然のことながら、大阪湾国際空港とも密接に関わる。それは自ずと空港建設の実質的最高責任者である石山と関わる話であった。

 そして、この新幹線敷設は空港建設の協力会社である山海電鉄の顔に泥を塗りかねない話でもある。そこで空港建設で山海と深い関係にある石山を使って、山海に根回しをしようしていた。その際になにわ筋線を山海への手土産にしようとしていた。ただ、その手土産が大阪市の反対で用意することができない状態にあった。

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