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衛星

石山は砂岡の突拍子な話に驚いた。砂岡は石山の驚きを意に介さずに言う。

「石山君、これからは宇宙の時代だよ。衛星で気象観測もできれば、テレビ放送もできる。何でもできるぞ」


 運輸大臣である砂岡は運輸省の外局で気象庁も所管している。気象衛星は放送衛星より先駆ける1977(昭和52)年に打ち上げており、その後も気象衛星を打ち上げていた。

そうした経緯の中で気象衛星を通じて放送衛星の可能性も気付いたのであろう。実際に衛星なりロケットを製造しているメーカーは、砂岡がこれまで関わり続けた原子力関連企業や防衛産業と概ね重なっている。つまり既に人脈は深く形成されている。

 今、持っている利権の延長で宇宙という新しいフロンティアの利権を手にする。砂岡が見逃す訳がなかった。


「今はまだだが、将来、衛星放送で大量のテレビチャンネルができる。それで新たなテレビ局を創ろうという話が水面下で進んでいる。その新会社の社長に君を据えよう思っている」

「私でよろしいのですか。そのような技術的なことなど、分からない素人ですよ」

石山は敢えて、大阪湾国際空港が起工式すら済んでいない現状を口にしなかった。そんなことは砂岡も把握しており、口にすれば無粋と思われるからである。

「別に構わん。そんなのは専門の技術者に任せればいい。君には創業を繰り返してきた実績とノウハウがあるからな。それを役立てて欲しい」

「そうなると、空港建設から外れてのことですか」

「今すぐの話ではない。そんな簡単に衛星を打ち上げられる訳ではないからな。ただ、もう空港建設については君のもう出番はないだろう。後は三枝でもできる」

砂岡は石山の状況を見透かして言った。

「私を社長に据えるということは、単にテレビ局を創るだけでなく、他に何か難しい話があるのでしょう」

自分が使われるときは、いつも難しい話ばかりであった。関東国際空港の用地取得から今に至るまでがそうであった。

「察しがいいな」

砂岡はにんまりとした表情で、こっちを見た。

 テレビのロケット打ち上げ中継は終わり、別の番組が流れていた。砂岡は当時まだ珍しかったテレビのリモコンでスイッチを切った。そして、おもむろに本題を語り出した。


「左翼を追い込む」

異なことを聞いたと石山は思った。労農党が既に衰弱化しており、余りにも弱いため砂ビジネスで点滴して支えるという話であったのに、ここで左翼を弱体化させるとはどういうことだろうか思った。しかも、衛星放送どう絡むかも分からなかった。


「労農党は衰弱していますが、更に追い込むという意味ですか」

自分が口にしたのは、おそらく愚問であったであろう。しかし、砂岡の意図が読めなかったため、敢えて訊いた。

「いや、労農党のことではない。マスコミと学界だ。こいつらが何かと邪魔ばかりする」

確かにマスコミと学界は左翼の巣窟となっていた。そして彼らは砂岡の推進する政策の邪魔ばかりをしていた。

これに対して砂岡は強い公憤と私怨を持つようになった。そこで衛星を使って、これらに復讐しようとした。


「衛星放送で左翼のテレビ番組の客を奪う。そして弥生大学法学部の権威を剥ぎ取る」

砂岡の眼光が鋭く光った。

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