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泉州沖海戦

 当初、漁業補償交渉は石山のペースで進んでいった。事前の工作活動で大阪泉南地域の漁師は弱体化しており、石山が提示する金額で次々と応じていった。しかし、全ての漁師が弱体化していた訳でなく、埋め立てによる空港建設に断固反対する者やより高い補償費を求める者が多数いた。

 尤も石山は織り込み済みで、時間が経てば崩すことは出来るであろうと考えていた。弱いところから減れば、強い者もいずれは弱体化して折れると見込んでいた。


 追い込まれていた大阪泉州地域の漁師たちに光明が差し込んだ。それが日本労農党の協力である。労農党は弱体化していた漁師たちを反対闘争が出来るように組織化していった。

 また裁判闘争にも乗り出した。裁判では、当然のように労農党の弁護士が買って出た。こうして労農党が再び対決を挑んできた。


 労農党は内ゲバの果てに大久保公雄が書記長に就任して、穏健路線となっていた。それによって党勢を回復させようとしていた。しかし、日鉄民営化問題では劣勢に立たされや経済成長による共産主義離れが進み、党勢の弱体化が誰の目にも明らかになった。

 結局、大久保路線に対する不満が党内から沸き上がり、大久保は引き摺り下ろされる。そして強硬派の徳山龍一が書記長に就任した。徳山は嘗ての書記長で謎の自殺を遂げた新井の子飼いだった男である。

 徳山は労農党を再び強硬路線に転じさせる。こうして日鉄民営化問題では強硬に民営化断固阻止の路線となり、更なる経済成長に繋がる大阪湾国際空港の建設を妨害することとなった。


 労農党は追い込まれていた大阪泉州の漁師たちだけでなく、近隣県の漁連に声を掛けた。淡路島を有する兵庫県、泉州に近い和歌山県、更に徳島県まで声を掛ける。

 理由は、空港埋め立てによってハマチの回遊ルートが変わってしまい漁獲に影響が出るということである。


 1983(昭和58)年7月より、埋め立て予定水域で本格的な海底地質調査が行われる。その調査船に対して、労農党に組織化された反対派の漁船が妨害行為を行うようになる。

当初、妨害する漁船は10艘程度であったが、時間を経るに従い数が増えていった。そして大阪の漁師だけでなく、兵庫県・和歌山県・徳島県の漁船が加わり、凡そ200艘にも及ぶ大船団となった。

 漁船の両舷には「海を汚すな!海を守れ!」という垂れ幕を垂らし、同様の旗をはためかせて調査船に向かって突っ込んだ。尚、両舷に垂れ幕を垂らしていたのは、メッセージを出すだけでなく漁船の名前を隠すためでもある。

 大音量のスピーカーで「調査すんな、このボケ」「帰れボケ」「殺すぞ」と怒声を上げ、調査船を囲んだり横切ったりする妨害行為を繰り返した。中には「バケツ爆弾」といって腐った魚や糞尿を紐がついたバケツに入れ、紐の遠心力の勢いで調査船に投げ込む漁船もあり、激しいものがあった。


 石山は直ちに元事務次官で大阪湾国際空港株式会社社長の三枝を通して、海上保安庁を動かし調査船の護衛に充てることにした。まさしく三枝はこのときのためにいる男だった。こうして、妨害する漁船を排除するため、海上保安庁が巡視船や消防艇を出動させ、放水を漁船に直撃させることで排除しようとした。

 漁船は放水で叩きつけられるも、果敢に挑み続ける。そして巡視船や消防艇に対しても「バケツ爆弾」を叩きつけた。漁船団と海保との激しい戦いで、海底地質調査は出来なくなった。空港会社と海保の完全な敗北であった。

 これが世にいう「泉州沖海戦」の始まりであった。


 仕切り直しで再度、海底地質調査が行わることになった。そのとき海保は巡視船と消防艇の数を増やして、総勢20隻で調査船を護衛することになった。それに対して漁師側は前回よりも更に多い300艘で果敢に挑んでいった。そして、前にも増して大量のバケツ爆弾を調査船だけでなく海保船舶に対して投げつけた。

 漁師にすれば、怒りの爆発でもあった。新空港建設発表前から漁師たちの漁業権が縮小させられ、更に謎の密漁船に対して海保は見て見ぬふりをする。彼らからすれば、空港建設のために自分たちを犠牲にする政府の態度に怒りを爆発させていたのである。


 海上保安庁は巡視船と消防艇による放水で応戦し続ける。そんな中で一部の漁船が火炎瓶を巡視船に投げ込んだ。3隻の巡視船に火炎瓶が投げ込まれ、炎上する事態となる。3隻の巡視船は急ぎ消火活動を行ったため、大事には至らずには済んだ。


 ここに至り、炎上していない巡視船は火炎瓶を投げ込んだ漁船に対し、海面に向けて威嚇発砲を行った。そして火炎瓶を投げ込んだ漁船を拿捕すべく追跡をした。しかし300艘もある漁船団に紛れてしまい、追跡ができなくなった。

 結局、致し方なく追跡をした巡視船は牽制のため漁船団に近くに対して、威嚇発砲を行った。これに対して漁船団は妨害行為を直ちに止め、一目散に退散していった。流石にこれ以上の妨害は本当に漁船に対して発砲をしかねないと漁師たちは危機感を感じた。

 消火活動に従事していない巡視船は一目散に退散した漁船を分散して、それぞれの巡視船が威嚇発砲をしながら追跡をしていった。漁船は母港の各漁港に帰港するも、巡視船は砲身を港に向けて威嚇し続けた。そして海保から要請で港には地元警察が漁師たちを連行して取り調べを行われた。


 取り調べで漁師たちは、バケツ爆弾については認めたものの、火炎瓶については知らないと否認をし続けた。おそらく、漁船に紛れた過激派が火炎瓶を投げつけたのではないかということで憶測が流れる中、迷宮入りしてしまう。


 ここに至り石山は各漁連に対して、裏取引を持ち掛ける。石山は今回の件を見逃して、更に漁業補償を出す。そして漁師たちは今後一切の妨害活動を行わない。そして裁判も取り下げるという条件を提示した。

 結局、漁連はこの条件を飲み手打ちとなった。各漁連は空港建設の妨害をせず、更に裁判を取り下げた。そして空港会社から各漁連に大阪府漁連354億円、兵庫県漁連303億円、和歌山県漁連192億円、泉佐野漁協10億円、徳島県漁連2億円、総計861億円が支払うことになった。

 空港会社としては致し方ないとした。今後2期3期の工事の度にこのような漁業補償をしなければならいが、取り敢えずは建設反対を抑え込むことには成功した。


 こうして「泉州沖海戦」が収束した。しかし、この補償に味を占めた一部の漁師は漁連の制止を聞かず再び妨害活動を行うようになる。しかし、その漁船は数日後に謎の放火に遭って消失する。そして、地元警察が取り敢えず捜査はしたものの迷宮入りとなった。

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