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思惑

 当時の運輸大臣であった砂岡には、2つの政治的課題があった。一つは関西地域における新空港建設であり、もう一つは日本鉄道の民営化である。

 新空港建設については石山が大阪で地均しをしており、後は大阪泉州案を正式に決めるだけだった。神戸案を推す建設大臣乾の干渉があるものの、選定委員の殆どを砂岡の意を受けた者にすることで、大阪泉州案を押し通す目途は立っていた。


 問題は日鉄の民営化である。国営事業の民営化議論は鉄道だけでなく、通信の「日本通信公社」や煙草・塩の「日本事業公社」も民営化の俎上に上がっていた。しかし、これらはそれほど問題を抱えていた訳でなく、時代の流れで民営化しても支障はなかった。


 日鉄の抱えていた問題は多岐に渡っていた。膨大な累積赤字、繰り返されるスト権ストなどの労務問題、モータリゼーションと私鉄の攻勢による利用者減、政治家の介入、地方ローカル線の存続問題と社会問題のデパートと言っていい状態だった。

 1976(昭和51)年のスト権スト失敗で弱体化していた労組ではあったが、依然に暴力革命を標榜しており過激派テロリストの温床となっていた。これを叩き潰すことは国家の治安維持として求められていた。

 世論も日鉄に対して、反感を募らせていた。度重なるストライキと飲酒運転による事故の多発、そして日鉄職員の傲慢な態度など国民の怒りを買うには十二分であった。

 この民営化問題に対して、普段対立関係にあるにも関わらず、日鉄は経営陣と労組ともに民営化反対の立場であった。ただ少数ではあるが日鉄内の中堅幹部は民営化に対して賛同する者もいた。そして賛同した彼らによって、民営化の具体化が後々行わる。


 当時、運輸大臣を任じていた砂岡は複雑な事情を抱えていた。それは砂岡の権力地盤である。砂岡は日鉄と競合する業界からの支持を受けていた。端的に言えば私鉄業界と航空業界である。

 競合する私鉄業界と航空業界の利益を最優先に考えるのであれば、話は単純であった。単に私鉄業界や航空業界が有利になるようにするには、日鉄を八つ裂きにしてしまえば良かった。それこそ、路線単位に細分化させて分割民営化すれば、分割された日鉄はスケールメリットが生かせなくなる。そうすれば、私鉄業界と航空業界は安泰となる

 しかし、事は単純ではなかった。砂岡はこれらの業界だけでなく、もう一つの業界からも強い支持を受けていた。それが電力業界である。


 砂岡は政府や電力会社の要請で原発の用地取得に深く関わっていた。そして建設のために地元に見返りとして新幹線を建設するという約束をし続けた。つまり、砂岡や政府はこの約束を果たさなければならない事情も抱えていた。そうなると民営化後でも新幹線を建設できる企業体力が求められる。

 また砂岡は日鉄民営化を通して日鉄を支配し、新たな利権の源にすることを考えた。これは嘗て砂岡が日鉄職員時代に受けた仕打ちに対する私怨を晴らすためという目的もあった。


 さりながら、この問題は余りにも大きかった。日鉄問題は空港選定と違って運輸大臣の権限だけ収まり切れないものである。総理大臣を筆頭に政府全体で対処しなければならない問題であった。よって砂岡の影響力の行使は限定的となった。


 民営化論議は、当初より利害関係者たちが衝突した。日鉄は民営化自体に抵抗をするのは当然の流れであるが、民営化させる政府側も意見が一致していなかった。

 分割をせず、そのまま民営化を推す者や労組対策で分割民営化を推す者など、その色合いは千差万別であった。

 砂岡自身は、これまでに左翼系の労農党に散々邪魔をされた経緯から、労組を分割民営化で八つ裂きにしたい思いがあった。これは国家安寧を考えての見解も含まれており、過激派テロリストの温床になっている日鉄労組は、何が何でも潰さなくてはならなかった。


 政府内の方針は定まっていなかった。一社民営化・上下分割民営化(レール等の設備は政府が管理運営)・地域分割民営化などである。ただ民営化は推し進めるという点においては、一致していた。

 当時において、

「そんなにストライキがしたいのであれば、民営化で自由に出来るようにしてやる」

という、政府関係者のオフレコ発言が物議を呼んだが、これは政府側の正直な本音であった。

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