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根回し

 石山がこの関西における新空港建設に関わるようになるのは、砂岡が運輸大臣になる少し前であった。石山が陣頭指揮を執って、原発と自衛隊用の用地買収がほぼ終わりかけていたときである。

 石山が新空港建設に関わるようになった時点で、ある程度の方向性は定まっていた。石山の使命は、それを確実に遂行することである。


石山には2つの使命が担わせられていた。

1.関西の新空港のための地ならし

 関東国際空港建設時と同様に地元で影響力がある自由政友会大阪支部支部長衆議院議員鶴田淳を通して行う。

2.伊丹空港存続のための工作活動

 大阪府に伊丹空港からのモノレールを建設させるものだった。


 つまり砂岡とその支持者たちの利権を守ることである。石山はまず鶴田に接触した。場所は大阪南部泉南地域にある鶴田の自宅である。鶴田は砂岡の盟友で大阪における裏工作の窓口である。大まかな話は砂岡が鶴田と事前に話を付けていた。

「噂は聞いている。砂岡先生の懐刀で数々の難事業を成し遂げたとか」

鶴田はざっくばらんに話しかけた。石山はうやうやしく、

「滅相もございません。主人砂岡の威光があってこそです」

「まあ、そんな固い挨拶は抜きにして、早速本題に入ろうやないか」

鶴田は新空港建設に強い関心を示した。鶴田の地盤である泉南地域は、大阪の中で開発が遅れている地域である。そこに新空港建設の話が舞い込んで来る。鶴田としては、新空港建設を起爆剤に地域の開発が進展すると期待する。当然、それは鶴田の利権にも繋がる話であった。

 鶴田とは幾つかの要素について、話し合われた。主なものが4つで、山海電鉄・大阪府・地元自治体・漁業権である。


 山海電鉄は大阪都心と大阪南部そして和歌山県北部を結ぶ私鉄である。関西は関東と違い平地が狭いため、各鉄道事業者間の競争が関東に比べて激しかった。そのため、私鉄のサービスが著しく向上して、関西は俗に「私鉄王国」とまで言われる。

 そうした私鉄王国において、山海電鉄は京阪神ベルトから離れているため、他の私鉄よりも開発が遅れていた。そんな大阪南部に新空港が建設されるというのは、絶好の機会であり喜ばない訳がなかった。


 大阪府の立場は些か、難しいものがあった。大阪府は大阪市に集中している交通を環状モノレールで分散させることを検討していた。それによって、大阪市の衛星都市の発展に繋げようした。これは1970(昭和45)年の大阪万博のときからの構想である。実際に大阪万博において場内移動するためのモノレールが運行されていたが、これは将来の建設に向けたテストという側面があった。

 そして、当時の構想として伊丹空港から近畿環状道路を沿って、万博公園、門真、松原、堺を52kmを結ぶというものである。このモノレールで最も要になる集客施設が伊丹空港である。この伊丹空港がなければ、モノレールの採算が取れなかった。

しかし伊丹空港が騒音問題と新空港への全面移管によって、廃港になる可能性が高かった。そのため大阪府はモノレール建設に対して、慎重になっていた。よって、この時点で大阪府を説得できるかは未知数であり、今後の工作活動次第という状態であった。


 問題は新空港の建設予定地の地元だった。騒音問題による地元住民の反対、それに呼応した自治体の反対決議を抑え込まなければならない。そして何より対策しなければならないのが、地元漁師の漁業補償だった。

 住民の反対機運に圧されて、議会で反対決議を出させると何かと厄介になる。実際に反対決議が引き金となって誘致派だった者が反対派に転じてしまったことがあった。それが神戸市である。


 神戸市は予定地候補で名前が挙がっただけで、市民の大半が反対という世論になった。そして市民の声に圧される形により、市議会で反対決議が採択される。その結果、元々誘致派だった市長が選挙に勝つため反対派に転向する事態となった。

 当時は公害問題がクローズアップされていたこともあって、空港のような施設に対して嫌悪感が現代以上に強かった。淡路・播磨・琵琶湖と候補地として、名前が取り上げられると街頭する自治体が次々と反対決議する有様であった。

 このような事態を泉南地域に発生させないようにしなければならない。そのため、抑え込むためには海上であるため、騒音はないことをアピールしなければならない。それと同時に地元の有力者に対して利権を配ることで空港建設の協力者にさせなければならなかった。


 それでも大阪府のモノレール建設と新空港の予定地の市議会の懐柔は鶴田の手腕で、どうにかなる目途はあった。しかし、厄介なのは現地で漁業権を有している漁師たちであった。漁場に埋め立て工事をするため、彼らの生活圏に直撃する死活問題であったからである。


「山海電鉄は喜んで協力しよるやろ。自分とこの電車が空港連絡に使われるし、沿線開発に繋がるからな。大阪府はちょっとややこしいがまあ何とかなるやろ。モノレールは造りたがっているし。地元自治体はワシが話すれば、何とかなるやろ。問題は漁師やな」

こう鶴田は言い放った。


こうして新空港建設の下準備が開始した。

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