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事態打開

 石山による原発及び自衛隊関係用地は、こうして順調に用地取得を進めていた。しかし労農党は用地取得による妨害が阻止されたことで諦めることはなかった。数々の手法を使って反対運動を行った。

 労農党は先に関東国際空港の反対運動の反省として暴力闘争は、可能な限り抑える形で運動を展開していった。関東国際空港の反対運動が激しい暴力闘争となった結果、内ゲバに発展して夥しい死傷者を発生させてしまった。

 更に内ゲバが激しくなり、労農党が極左テロ集団から裏切り者と見なされ、労農党自身が極左テロのターゲットにされるなど、暴力闘争は自分たちにとっても危険なものであった。

 前哨戦でこそ固定資産税の吊り上げで敗れたが、それ以外の手法(デモ、集会、署名、訴訟、啓発、本の出版、映画製作、講演会など)を細々とすることで反原発活動と反基地活動を展開した。

そして彼らにとって、追い風となる出来事が発生した。それがスリーマイル島原子力発電事故である。


 1974(昭和54)年3月28日アメリカのペンシルバニア州のスリーマイル島原子力発電所で炉心溶融する重大事故が発生した。事故により放射性物質が外部に放出し、付近住民が一時避難する事態となった。

 この漏洩による人体の健康被害は皆無であった。しかし、原発の安全に大きな疑念を生じさせてしまう。これは労農党にとっては追い風となって、反原発活動に弾みを付けた。

 この事故の衝撃は大きく、更に労農党がその衝撃を増幅させた。これによって、一部の町議会や村議会では原発反対決議が全会一致で行われるほどであった。

 後、当事故と直接関係はないが自衛隊関連設備建設にも支障をきたすようになる。労農党は原発を核兵器開発と関連付け、「自衛隊による核開発と軍国主義の復活」を訴える。明かにスリーマイル島の事故とは関係がないが労農党は印象操作で関連付けた。この印象操作は強力で、過敏に反応した自治体は自衛隊の受け入れに拒否するようになった。


 石山はこの労農党の「比較的平和な攻勢」に手を焼いた。そこで砂岡と事態の打開の話し合いを始める。場所は砂岡が贔屓にしている料亭である。以前に空港用地買収を巡って、砂岡と京葉電鉄の井出が協議した場所でもあった。

「ご苦労さん」

と砂岡が石山をねぎらった。

「先生、参りました。用地は抑えることが出来ましたが、スリーマイル島事故で形勢が悪くなりました」

「まあ、仕方ない。こちらとしたら、飴と鞭をこれまで以上に強くするしかない。それにしても、あいつら(労農党)ソ連から金貰っているから、まだまだ妨害をしてくる」

「やはり、ソ連から貰っていますか」

「ああ、公安からの話では、ソ連との貿易を通じて金を受け取っている」

石山はそれを聞いて、全く驚かなかった。むしろ腑に落ちたくらいであった。

「それを捕まえるためにスパイ防止法を作ることはできませんか」

石山は制定がほぼ不可能なのを分かった上で聞いた。

「今すぐは難しいな。マスコミが大騒ぎをして、何より労農党だけなく自政会の中にもソ連に取り込まれている者がいて反対論が強い」

「難しいですか」

石山は苛立ちを覚えながら嘆いた。


 当時、労農党がソ連から資金提供を受けていたことを公安当局が把握していた。ただ、公安当局は把握していること秘匿していた。これは労農党やその背後にいるソ連に公安の能力を悟られたくない事情があって、公にしなかった。

 このソ連による資金提供が明らかになるのは、1991(平成3)年12月にソ連が崩壊し、ソ連共産党の秘密文書が公開されてからである。

 ソ連は1960年代から1970年代に掛けて、労農党系の貿易会社を通じて迂回融資や貿易上の便宜を与えるという形で資金を労農党に提供した。提供した金額は合計で200万ドル(当時の平均為替レートにして6億円、現在の貨幣価値にして18億円)に及んだ。


「ただ、全く手がない訳ではない。とりあえず飴として、新幹線と高速道路の建設を条件で県(知事・議会)を抑える。石山君は県に対して新幹線と高速道路の建設を約束しろ。後はこっちで何とかする。航空自衛隊の基地については、全部民間利用も可能と言え。騒音がある以上、地元にも見返りを与えないと納得しないだろう」

砂岡は飴の話をした。尚、この飴の利権に砂岡が入るのは当然で、こうして私腹を肥やした。

「後、これ」

砂岡がそう言って、秘書が差し出したのが2つの手提げ紙袋だった。中を覘くと書類の束がびっしりとあった。

「それ労農党の活動家の名簿や。公安が調べたものや。好きなように使えばいい。節度を以て使えば警察は介入しないということや」

名簿の中身を見ると活動家の顔写真・名前・現住所はもちろんのこと、家族関係や異性関係に至るまで事細かく記されていた。

「大事に使わせてもらいます」

石山は静かに答えた。そして、石山の返事を聞いた砂岡は満足気に会席膳を口にした。

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