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夢想

 嘗ての労農党は共産革命によって政権奪取を目指していた。しかし高度経済成長によって、革命の機運がなくなってしまう。民衆が普通に働いたら豊かになれるという認識を持つようになったからである。

 また関東国際空港建設反対運動に代表とされる暴力的な闘争は、次々と鎮圧され更には左翼内での内ゲバによって弱体化した。

こうした事情から、自力で暴力による共産革命は不可能となっていた。そこで労農党は方針を転換して、平和的に地方に浸透し地方議会を掌握しようとした。これは地方に溜まっていた怨嗟の受け皿となり、力を回復させつつあった。しかし、多勢をひっくり返すほどの力にならなかった。政府の政策に楯突いて嫌がらせをする程度が限度であった。


 結局、本格的に政権奪取をするには外からの力、つまりソ連軍侵攻だった。ソ連軍が日本占領することで、自分たちがその傀儡政権にありつこうと夢想するようになった。

 それを伺わせる記事が日本労農党の機関紙月刊「労農」に記載された。

「大体、選挙という制度が共産主義に合っていない。無知な大衆は資本家によって、簡単に騙される。資本家の広告料で成り立っているテレビがその典型である。あんな電気紙芝居に騙される大衆に正しい投票など出来はしない。このように間違った投票し続けるこんな腐りきった日本を糺すため、日本はソ連に加盟しなければならない。そして我々インテリゲンチャとソ連軍同士が労働者を指導することで、日本を正しい方向に導かなくてはならない」

これは東京大学経済学部教授でマルクス経済学を教えていた澤良木俊樹が語ったものである。

 この発言に保守系マスコミは激しい非難をする。しかしマスコミの殆どが左翼系ということもあって、大きくは取り上げられずに世間から直ぐに忘却された。

 このような露骨にソ連軍侵攻の待望を唱えたものは数多くはなかったが、彼らの精神の底流にあったことは間違いなかった。


 彼らにすれば、ソ連軍侵攻の障害になる自衛隊の強化は許されるものでなかった。また共産主義への支持を失わせる経済発展も彼には受け入れ難いものであった。

 そうした彼らの思惑において、自衛隊強化はもちろんのこと原子力利用推進も粉砕しなければならないものだった。日本で原子力技術が発展すれば、その電力によって更なる経済発展に繋がるばかりでなく、核兵器の製造の産業基盤が出来ることを意味していた。

 将来、日本が核兵器所有すればソ連軍の侵攻が絶望的になる。ソ連軍侵攻で傀儡政権にありつく夢想に浸っている労農党にすれば、原子力産業を妨害するのは当然の帰結であった。 こうした事情から、反原発闘争・反基地闘争を行うようになる。


 このような妨害活動で国民の一部からの強い支持を得ることができた。先の大戦での敗北と戦時中の軍の横暴によって、少なからずの国民が反軍思想を持つに至っていた。そのため、反軍思想を持った層は自衛隊の基地建設に反対する労農党を支持するようになった。

 また高度経済成長期は数多くの公害を生み出していた。水俣病・新潟水俣病・イタイイタイ病・四日市ぜんそくといった公害病が次々と発生し人々の体を蝕んだ。こうしたことから、人々は経済及び科学の発展に疑問を持つようになった。

 これらの公害問題は、環境規制が導入されることで徐々に公害問題が改善されるようにはなった。しかし公害に対する懸念を完全に払拭することは出来なかった。このように経済や科学技術の発展に懸念を持つ世相では、原子力の利用に強い懸念を持つことは無理からぬことであった。

 政府がいくら原子力は安全だと言っても、放射能漏洩のリスクが完全になくなる訳ではなく疑念を払拭することは出来なかった。更にそのような危険なものを都市部の近くに置かずに都市部から遠い寒村に設置しようすることが、建設予定地の住民が原発建設に反感を持つようになった。

 建設予定地の周辺住民からすれば、危険を押し付けられて都会の犠牲になるようにしか思えなかった。何事においても都会から虐げられている思いが、経済成長から取り残された彼らの怒りの火に油を注ぎこまれた。


 こうして労農党の思惑と原発候補地の住民の怒りが噛み合った。そして、石山はこれまで以上に難しい局面に立ち向かうことになる。

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