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背景

 常磐新幹線は新宿駅から岩城駅を結ぶNR東日本の路線である。現在のルートは新宿駅―東京駅―舞波駅―千葉学術研究都市駅―関東国際空港駅―鹿島駅―水戸駅―日立駅―磐城駅である。

 当初の計画は舞波駅を経由せずに東京駅から東京地下電鉄東西線を並走する形で建設する予定だった。しかし東京都江戸川区・千葉県浦安町・市川市・船橋市で激しい反対運動が発生した。結局、それを避けるルートとして現在のルートに至っている。


 当時、高度経済成長における社会の歪みとして公害問題が取り沙汰されていた。水俣病やイタイイタイ病、四日市ぜんそくなど数々の公害被害が全国で発生していたからである。

 新幹線もまた例外でなく、騒音振動被害で公害の象徴の一つとされていた。建設予定の住民にとっては、地元に駅が設置されずにただ騒音振動を撒き散らかすだけの新幹線は受け入れがたいものであった。


 こうした事情から東京都江戸川区・千葉県浦安町・市川市・船橋市激しい反対運動が発生し、用地買収がままならない状態となった。買い取り交渉のため地権者宅に訪ねるにも付近住民が一丸となって交渉担当者を追い返すなど、地権者宅に近づくことすら出来ないでいた。

 更に江戸川区・浦安町・市川市・船橋市の各議会からは、揃って反対決議を出す事態に発展して暗礁に乗り上げてしまった。ここに火に油を注いだのが東京都知事であった部谷敏弘ぶたにとしひろである。


 部谷はマイノリティーを極端に重視しており「一人でも反対者がいれば、橋を架けない」という「橋の哲学」を上げて、常磐新幹線の建設凍結を訴えていた。そういった事情もあって先に買収済みの土地で新幹線の先行建設をしようにも建設許可を与えないとなどの妨害が行われていた。こうして日本鉄道と運輸省が当初予定していたルートでの建設は、ほぼ絶望的状況に陥っていた。


 この状況は京葉電鉄にとっては都合の良い状態でもあった。日本鉄道が用地買収や建設にもたついている間、京葉電鉄は鉄道でのライバルがいない状態で利益を得ていたからである。

 京葉上野駅から関東国際空港間を最短60分で結ぶ、アクセス特急ウィングライナーを運行していた。ウィングライナーは空港ターミナル直結であるため、それなりに利便性があり乗客を獲得していた。

 しかし都心から60分も要し、その都心と言っても丸の内や新宿と異なり上野や日暮里でビジネスの中心でなく、利便性は若干ながら悪かった。

 このような事情のため、リムジンバスとの競争では苦戦を強いられてもいた。そこで対抗するべく、レールの幅が同じ東京地下電鉄と横浜急行との相互乗り入れで運行エリアを広げていたりした。

 

 こうした状況下で新たに新幹線を誘致する井出の行動は背信行為に他ならなかった。しかし石山は井出は決して背信をしていた訳でないと語る。

「井出社長は電鉄の儲けだけを見ている人ではなかった。グループ全体、更には日本全体の利益を考えている人だった」

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