6.戦場(ぼっち目線)
「今日は勇者さんの冒険者ギルド登録のためにギルドに来ました」
「ここがギルド……てかお前遠くね?」
何やかんやあってパーティを結成した二人、でもまだそれは正式な関係性ではない。なぜならリーネの説明の通り、冒険者ギルドへの登録がいるからな。
……冒険者ギルド。語り部さんと一緒に二人を観測しているみんなにはもはや説明不要だろうが、様式美なので解説をば。ざっくり言って、冒険者の収入源やサポート施設となるアレである。リーネが嘆いていたパーティ結成を義務づけたのもここね。
……だが、正面から建物を見据える勇一と違ってリーネの位置は別の建物の影。様子を伺うひょっこりさん状態だ。
「仕方ないでしょギルドなんていつ行っても死にかけるんですからね」
「誇らしげに言うな……。いやマジでお前がいないと中で何をすればいいのか分からんのよ、着いてきてっていうか案内してくれ」
「案内……案内ですか……。わかりました、骨は拾ってくださいね」
「死ぬ前提で話すな行くぞ」
「ちょま!心の準備が!勇者さん早いです引っ張らないで!私にもペースってものがちょまぁぁーーッ!!」
そして勇一達は、ギルドの中へと進んでいく……!(1名激しく抵抗)
◆◆◆
「はい、こちら冒険者協会です!本日はどんなご要件ですか……って、あら?」
「おい隠れんな、話が進まないだろ」
「だって……こんなクソぼっちが仲間と一緒に登場とか末代までの笑いものな気がしてきて……」
受付にたどり着いたはいいもののビビるぼっちは物陰にひそむ(字余り)。……語り部さんもしかして川柳の才能ある?
まぁそれはともかくとして、ここにきてビビり散らかすリーネはさっきまで勇一の後ろにいたのに今じゃ柱の影。その様子を見た受付嬢の人は……
「……その主張の激しいぼっち要素、もしかしてリーネさん!?え、仲間を連れてきたって事なんですかそうなんですか!?」
「!!!?」
速攻気付いた。……まぁ、常日頃からあんな感じならどこかしらで話題には上がってそうだし仕方なし。
「バレてるんだから隠れた所で意味無いぞー早く出てこーい」
「うぅ……こ、こんにちはです……」
なんとか姿を現したリーネに向かって、受付嬢は満面のスマイル。
「はい、こんにちは!でもまさかリーネさんにパーティメンバーが出来るとは……あすみません感動のあまり涙が……」
「……めちゃくちゃ心配されてるじゃんお前」
「そ、その……パーティ結成必須の件で色々あったので……」
「『それは本当にやめてください』って泣きついてきましたもんね」
「その姿が容易に想像出来る」
奇遇だな、語り部さんもだ。きっと全ての音に濁点が付く勢いで泣き散らかしたんだろうなぁ……。
「いやー本当に良かったですよ、みんな心配して……おっと、無駄長話は良くないですね、えっと……パーティ結成、って事でいいんですよね」
「その通りです……あと勇者さんの登録もお願いしたくて重い足を引きずってやってきました」
「引きずられての間違いだろ」
そんな二人のやり取りを見て、受付嬢は首を傾げる。
「……勇者さん?」
「あ」
リーネに勇一、ピンチ!勇者さん勇者さん呼んでたらこうなる事を二人ともすっかり失念していた、バカだ!ちなみに語り部さんはというと失念してたぞ、バカだ!
「あっ……えーっと、俺、名前が勇一って言うんですけどそれ繋がりでこいつが勝手に呼んでるっていうかなんというか……」
「あーっ、なるほど!高名な方かと思っちゃいましたよぉ」
「あはは……」
……セーフ!受付のお姉さんが若干天然風味入ってたおかげで助かった!
「えー、なんだかここまで随分と話が逸れた気がしなくもないですが……登録希望と言う事でご案内させていただきます!私はクラムと良います、以後お見知り置きをっ」
「よろしくお願いします」
「まずはそうですね……制度の仕組み辺りから解説して手続きの方入りましょうか。ちょっと待っててくださいね」
そう言って書類を探しに行くクラム。勇一はその間辺りを見回して雰囲気だけでも確認しようとしていた
「……割と人が少なめなのな?」
「そうですね、この時間帯はモンスター狩りに出ている人も多いですし……ていうかこの時間以外だったら私は死ぬので来れませんぼっちなので」
「お前なぁ……それでどうやって生きてきたんだよ……」
「意外と何とかなるもんですよ!」
『意外と何とかなる 』というのは真理かもしれないが、それはそれとして呆れる勇一。
「いいか、少しはお前もさっきのクラムさんみたいなのを見習って……」
「きゃぁぁぁ書類ぶちまけちゃいましたぁ!?早く拾わなきゃっ……ってうわぁぁ!」
「……あれを見習うんですか」
「……忘れていいぞー」
……高い所に置いてあった書類を取るためにぴょんこぴょんこしていたクラムだったが、一緒に関係ない書類もまとめて落っことした。そしてそれを回収しようとしては紙を踏んづけて転び、立ち上がっては転びの繰り返し。……語り部さん、若干天然風味かもとは評したけどまさかこのレベルの逸材だとは思いもしなかったぞ……。
「……長引きそうだな」
「……私が簡潔に説明しておきましょうか?」
「お、助かる」
「人が集まってくる前に早く帰りたいですからね」
「なるほどそれが目的か……まぁでもあっちは時間かかりそうだし頼む」
こうしてドジの無限機関と化したクラムは一旦置いておきつつ(語り部さん補足:助けようにもギルド職員スペースは一般人は入れないぞ)、リーネによる冒険者レクチャーが始まったのだった。
「えーっとまずはですね……冒険者、定義としては各地を旅したり魔物と戦ったりする存在ってとこですかね。それは必ずギルドに登録して活動しないといけないんです。被害が出たり出したりした時の責任所在問題がいろいろうるさいので」
「なるほど統括組織が必要ってわけか……世知辛いなぁ」
納得の説明。もし魔物にやられて不幸にも帰らぬ人となってしまった時には色々な手続きがあるだろうしな。そういった諸問題の処理を一手に請け負い管理するのが冒険者ギルド……語り部さん理解したぞ。
「その管理と収入が安定しない冒険者稼業を少しでも安定させるための討伐依頼斡旋などの支援を行うのが冒険者ギルドってわけですね。こんな感じで大丈夫です?」
「ん、概ね把握した。で、これからそこに俺も登録してパーティを組む申請もするってこったな」
「大丈夫そうですね!良かった、人に説明とかする事って全然ないので伝わってないかと……」
「いや結構分かりやすかったぞ。そういう話が人と出来るのなら何故友達もできずぼっちなのか不思議になるレベルで」
「ははは生来のぼっちですからねこちとら!ぼっち同士でしかこんな話できませんよ」
そんなぼっち談合が繰り広げられる中、ドジの連鎖を断ち切ったクラムようやくの帰還。ちなみに所要時間5分半。
「お……おまたせしましたぁ……それではギルドについて説明を……」
「あ、こいつからあらかた聞いたんで大丈夫です」
「……本当に遅くなってすみません……一応書類に目を通してからサインお願いしますね」
そう言われ、書類に目をやる。先程説明された冒険者の責任問題、ギルドで受けられる恩恵、規則に禁止事項……ざっと目を通し、問題ないと感じた勇一、サインをする。
(……そういえば、今まで見た事も書いたこともない字なのに何故か読めずに書けるぞ)
ここでふと、過去の会話が彼の脳をよぎる。
『大丈夫です暗示です暗示! 脳をこじ開けたり、記憶を司る部分に機械を取り付けて改造したり、脳みそのデータを全部取り出して余計なデータを付け加えて戻したりなんかしてませんよー!』
あれはもしかして、こっちの言葉が分かるようにエルが手を回してくれたってことなのだろうか?だとしたら少しはあのナルシスト天使も人のためになる事を……
(んでもそれ俺結局脳いじられてねあれ?)
…………。
これ以上考えるのはやめて、サインを書き終えた。…………語り部さんからはノーコメントで。
「書けました」
「はい!ありがとうございます!あの、新人さんには登録記念として魔物討伐用の武器を渡す慣例があるのですが、ユウイチさんは剣などの力を使う武器と魔法用の杖、どちらが欲しいですか?」
「え?」
……ちなみに、勇一くんは武道経験者ではない。後は分かるね。
どの武器を貰うか決めるに決められず、数時間迷った挙句に後日出直す事となった勇一くんだった。
次回は武器選び編だね。




