7.商売人との出会い、あとヤシガニ
「武器……武器ねぇ……」
ぼっち軍団(仮称)、現在地は街中のベンチ。只今絶賛思考巡らせ中。
「勇者さんなんか使ったことないんですか?」
「ないから迷ってんだよ」
『希望する武器をおひとつサービスでお渡しします』というチャウダーちゃん……じゃなかったね、クラムちゃんの一言は、勇一を悩みに悩ませ既に1時間。彼、無駄に考えこんじゃうタイプなのでこういう時優柔不断なのだ。ちなみに語り部さんはなんも考えずに適当に決めて後悔するタイプだぞ。
「筋力にはそんなに自信がないし……近接系の武器はキツいか……?」
「とすると弓とか魔法用の杖とかですかね?」
「う、魔法……魔法かぁ……」
魔法。 勇一の頭をかすめるいやーな思い出。こっちにきた初日にエル直伝チート魔法をはちゃめちゃにぶっぱなしたあの記憶。魔法って言葉は、ほんなあんまりよろしくない記憶を呼び起こす一種のトラウマスイッチと化していたのだった。
(……でも、この先ここで過ごすにおいてそれは結構足枷になるよな)
……前言撤回。優柔不断っていうのは間違いだったな。考えすぎちゃう事はあるけど、きちんと前を向いて歩んでいける。そういう生き方、語り部さんは凄くいいと思う。はなまるだ。
「……魔法、始めてみようかな」
「魔法!いいじゃないですか!……あれ、でも勇者さん魔法の理論とか分かります?」
「いや、全然」
「となると魔導書を買って1から勉強する必要がありますけど大丈夫です?」
「あー……確かに杖を買うだけでハイ使えますってのにはならんか」
「それが出来るのは魔力の素質がヤバすぎる生まれながらの超天才ぐらいですね」
「……やっぱあのチート能力やばかったんだな……」
改めて実感するチート能力の凄さ、いやそれは今は問題じゃないね。魔導書をどうするか問題が二人の課題になりそうな予感。
「魔導書ってどこで売ってるんだ?」
「魔道具店とかで売ってますけど……ぼったくる業者も多いですから、きちんと話をして買わないと損しますよ」
「そういう知識のない俺には無理だなぁ……結界魔法使えるお前なら買った経験もあるだろうし交渉いけないか?」
「はっはっはあれはぼっちの先輩から教えてもらったやつなので交渉とかしたことも無いですし根本的に無理ですね!」
「ぼ……いや、何でもない。ダメか……」
ぼっちの先輩というワードが気になるが、首を突っ込むと面倒そうなのでやめた勇一。語り部さんも超気になるが、今はその時じゃないかもな。おいおい聞かせてもらうとしよう。盗聴だけどね!
「じゃあどうする……?信頼出来る業者かなんて見抜く目が備わってないし」
「そうですねー……ホワイトなお店が向こうから近づいてきてくれれば」
「話は聞かせてもらったよ!!」
「ひゃびゃー!?」
二人の前に颯爽と現れたのは、とある部位が特徴的な、大きな鞄を背負った少女。……あ、特徴的な部位ってのは胸じゃないぞ。実際おっきいけど。
その少女を見て、勇一は驚く。だって、その姿は……
「……た、狸の耳?」
「お、よく分かったね!そうそう、私は狸の亜人なのです!この辺じゃ亜人って珍しいからびっくりさせちゃったかな」
そう、亜人少女だったのだ……!!もうもっふもふ、耳もしっぽもふっさふさ!どうしよう語り部さんこういうのに弱いんだ、わしゃわしゃしたい!……いかん、我を忘れるところだった……話を戻そう。
「ごめんね、あっちの子びっくりして木の影に隠れちゃったね」
「いやあれは亜人に驚いてって訳じゃないと思うんだけど……おーい出てこーい」
「うぅ……急に出てこられたらぼっちのメンタルゲージは決壊ですよ決壊……メンタル決壊術師リーネですよホント……」
亜人ちゃんが出てくるのと同時、残像が見えるほどの速さで木の影に引っ込んだリーネが恐る恐る帰ってくる。
「えーっと……なんか、ごめんね?」
「いやとんでもないですこういう体質なんで……私の事はその辺のヤシガニ程度に思っておいて極力話しかけない方向性でお願いします……」
「……この辺じゃヤシガニなんて見なくない……?」
ていうかこの世界にも居るのヤシガニ?と心の中でツッコむ勇一、このままリーネワールドを展開させ続けてると話の腰がウルトラ粉砕骨折なので少女に質問を試みる。
「……ところで、話はきかせてもらったって?」
「……はっ、そうだった!すっかりそこのヤシガニちゃんのペースに飲まれちゃってたよ」
……ちゃんとヤシガニ扱いしてもらえて端の方でリーネが喜んでいる。カニ顔ダブルピースだ、いや何だカニ顔って。泡でも吹いてるのか?
そして亜人ちゃんは一つ咳払い、自分の正体を告げ始める。
「わたしはチャット!しがない旅商人だよ、よろしく!魔導書を探していると聞きつけて売り込みに来たってワケですっ」
「な、なるほど商人……狸で商人か……」
……狸。勇一にとってその動物のイメージは、人を化かす狡賢い動物だった。商人と言う肩書きに、悪徳というイメージがついてまわる。
「じゃあ自己紹介も済んだところで、はいこれ!」
(いきなり押し売りか……!?)
咄嗟に身構えた勇一の前に差し出されたのは、やたらめったら分厚い本。明らかに高いであろうその書籍、チャットから飛び出してくる一言は果たして「ヤシガニちゃんに友達作りを強制させられたくなければこいつを買ってね♡」系の一言なのかッ……!?
「えーっとこのページだったかな……あ、ここだ!こちらをご覧あれ!」
「……えっと、これは?」
「この辺の魔道具店と取り扱い商品、その価格をまとめたページだよ!割とこの街魔道具店多いんだよねぇ……うちはここの店よりちょっと高い位の値段で売ってるけど、アフターサービスは他のどこよりもばっちりだよ!」
目を落としてみると、写真付きで魔道具店の名前、商品、価格、その他特筆情報らが綺麗な字でびっしりと書かれている。ヤシガニも覗き込んでびっくりしているようだ。
「……なんでこれを?」
「んー、わたしの商品は品質も価格もバッチリの自信があるんだけどね……店ごとに色々特徴もあるし、他の店と比べた上で満足してお客さんに買い物して欲しいじゃない?だから訪れた街の店の情報は全部記録してお客さんに提示してるの。まぁ、わたしの流儀ってやつだね」
プロフェッショナル!
ページに載っていた魔道具店が勇一の視界内にあるが、そこで店頭に展示されている看板商品の値段は本に書かれている値段と同じ。……いや、それがなくともこれ以上は書けないと紙が悲鳴をあげていそうな程に書き込まれたページを見れば、疑いようなんかない。この娘、プロの商売人だ。
「すごいな、これ」
「ふっふーん、力作だからね!他の店が良ければ案内もするけど、どう?」
「……リーネ、予算的にこれで大丈夫そうか?」
「大丈夫ですこれならいけます」
「よし、じゃあ買わせてもらおうかな」
「えへへ、まいど!」
そしてチャットは背負った大きなカバンから五冊の本を取り出した。その表紙にはそれぞれ「炎」「水」「土」「風」と書かれている。
「初心者用の魔導書っていうとこんなところかな。どれも同じ値段だから、お好きなのをどうぞ」
そこで勇一、気付く。
属性とか全然考えてなかった。
いや、そりゃそれぞれ原理も違うだろうし、まずは一つの属性からだよねと勇一、けれどもどれがいいのかさっぱりわからない。
「……初心者向けの属性ってあります?」
「初心者向け?うーん……どれも難易度的には大差ないし好みで選んでいいんじゃないかな。……ごめんね、わたしは魔法使わないから実体験に基づく話は出来ないや」
はて困った。
「ヤシガニちゃんに聞いてみたら?」
「なんかおすすめある?」
「……水魔法とかいいんじゃないですか?」
リーネからでてきたのは、そんな言葉。意外だな、リーネなら『土魔法とぼっち魔法て似てるから土で』とか言いそうだと思ってたのに。
「土魔法もぼっち魔法に似てるのでオススメしようかと思ったんですけど……」
「おい」
あやっぱり。
「炎魔法なんかは失敗して暴発したら大惨事になるかもですし、土も風も割と危険です。その点水は暴発して喉を詰まらせかけても二人いればなんとか対処できますし、威力が上がってくる頃にはコントロールも出来るようになってると思うので」
「……真面目に考えてた……!?」
「ケンカ売ってるんですか?なら買いますけど結界魔法使える私に傷をつけられますかね??」
「あはは、ヤシガニちゃん彼氏の前だと楽しそうだね?」
「かかかかか彼氏ぃ!?違います違います勇者さんはまさに勇者さんだから勇者さんというかなんと言うか!」
「なるほど、さしずめ私の勇者様♡ってことかぁ」
「いやだから違くてですねただの肩書きであってそういう意図で呼んでる訳じゃあわわわわわわわ」
コミュ障+耐性のない男女関係いじりにより泡を吹き始めたリーネ、名実ともにヤシガニ。
「……あの、そろそろこいつ死にそうなんで程々にしてもらって」
「あはは、ごめんごめん。ヤシガニちゃん反応が可愛いからつい、ね?」
「かわ」
「あ、限界迎えた」
「可愛い」という単語を認識した瞬間、キャパオーバー。リーネ、白目をひん剥いた年頃の女の子にあるまじき顔で気絶。
「……ほ、本当にごめんやりすぎちゃったかな……」
「いや、暫くしたら目を覚ますと思うんで大丈夫。それよりこれ、代金」
「あ、どうも!……うん、ばっちりお代は頂きました!あとお大事に」
「起きたら伝えときますんで」
代金と引き換えに魔導書を受け取る勇一。これから魔法を使えるように鍛錬していくんだなぁ……と、期待に胸膨らます彼に、チャットは立ち上がり別れの挨拶。
「じゃあ、どうも!商売人の勘なんだけど、なんだか君達とはまた会えるような予感がするなぁって思うの。だから、その時はまたよろしくね!バイバイ、ヤシガニちゃんにその勇者くん!」
再開の予感を残し、次の商売に向けて去っていくチャットなのであった。
……結局ヤシガニもといリーネは翌朝まで目覚めなかった。
次回から勇一くん魔法修行編ですってよ。




