5.パーソナルスペース系術師
「という訳でまずは手頃なモンスターから仕留めていきます。勇者さんはとりあえず隠れながら見ておいてください」
「はいはい」
やぁやぁ前回はお恥ずかしい所を……という訳で語り部さんだぞ。まぁ名乗り口上はどうでもいいとして勇一くん達の話だな。うん。
勇一を必死で説得し直して、一時的にパーティを組んで活動してみる事にした二人、いわば体験版。ここから二人の仲は進展するのか!?開幕、「ドキドキ☆男と女の共同もんすたぁ退治編」……いや趣旨を履き違えたな。忘れてくれ。
「……ところで……リーネだっけ?何かあった時のためにお前が何を出来るのかを把握しておきたいんだけど……ちなみに俺はほぼ何も出来ないぞ」
「あ、そうですね。能力の共有は咄嗟に頼る時にも必要ですよね……忘れてました。私はですねぇ……」
リーネちゃんの得意分野が何なのか期待が高まるところ。え、語り部さんの予想?そうだなぁ……うどん作り。へらで敵をだな、こう、スパァン!ってしばくやつ。まぁそんな予想をした所で、正解を聞いてみようじゃないか。どれどれ……
「一応結界術師やらせてもらってます」
「なるほど、結界術師……んん!?結界術師!?」
「はいそうです!こう、結界を、バーンって!」
まさかの強そうな肩書きの登場!そして語り部さん大ハズシ。これには勇一くんは勿論、語り部さんもビックリだ。実際お茶こぼした。拭かなきゃ……。
「えお前それめちゃくちゃ優秀なやつなのでは……?わざわざ俺とここまでしてパーティを組もうとしなくても引っ張りだこだろ」
「ははは!そういう勧誘してくる人は総じて陽キャさんなので誘われる度に私のぼっちメンタルがキャパオーバーして気絶するから勇者さんみたいなぼっち以外は無理ですね!ぼっちなので!!」
「そのぼっちに対するこだわりは何なの……」
リーネのアイデンティティとしてのぼっち要素の押しの強さに若干引く勇一。……しかし、結界術師とあればいざという時自分を守ってくれるだろうし戦闘面はある程度安全に進められるだろう。そう思い至り、とりあえずぼっちについては置いておくことにした。
「……じゃあ、襲われた時は頼むぞ」
「善処します!」
こうして、二人の初めての共同作業が始まる……ッ!
……こう言うとケーキ入刀みたいだな。
◆◆◆
「……お、あそこにいますね」
「何処だ……?あ、あれか。あれは……ゴブリン?」
「そうですね、ゴブリンです。何処にでもいる奴ですね」
茂みに隠れて様子を伺う二人、その視線の先には棍棒を持ったモンスターが。リーネの言う通り、小型のゴブリンのようだ。
「……でも、あれに殴られたら痛いよなぁ」
「死にはしないでしょうけど数週間の療養は覚悟するべきでしょうね……喰らわないように仕留めていきましょう」
「じゃあまず、戦い方とか何も分からないから手本を見せてくれないか?脱色の前はなんか唱えたら消し飛んでたから本当にどう対峙していいか分からなくて」
「了解です!伊達に長年一人でやってないですよ、あれぐらいちょちょいのちょいです!」
自信たっぷりのリーネ、勇一を茂みに残して前に出た!
「ギャ……?グギャギ!」
その姿にゴブリンも気付いたようで、棍棒を掲げながら走ってくる!
「…………ごくり」
息を飲む勇一、そしてリーネは魔法を唱えた!
「結界展開!」
その瞬間、リーネを淡い黄色の光が包み、膜のようなものが形成された。ゴブリンの棍棒はその膜に振り下ろされ、
「グギッ!?」
防いだ!
「おぉ……!」
ぼっちぼっちうるさかったリーネの凛々しい姿に視線が釘付けになる勇一。この先どうなるのか固唾を呑んで見守っている。語り部さんも気になるぞ、守ってるだけじゃ勝てないこの状況でリーネちゃんがどう打って出るのか……!お茶請けが止まらない!
「ちょいや!」
「ギッ!?」
棍棒ごとゴブリンを弾き飛ばし尻もちをつかせる絶好のチャンス!
「おぉ……!!」
どう出るのか気になって仕方ない勇一と外野の語り部さんの興奮はマックスへ!ここからどう出る……!?
「よしチャンスです!」
リーネは辺りに展開した結界を収縮させ、光を手元に集めた!そしてッ……!!
「トドメですーッ!!」
彼女の手元に集まった光は槍と化し……え槍?
「ん?」
…… 結界が槍になった。
そして。
「はぁーッ!!」
「ギィーーーーーッ!?」
刺した。
グサッと。
「え……」
胸の辺りを貫かれたゴブリン、血を撒き散らした後にピクリとも動かなくなった。……当然の絶命だ。
「ま、ざっとこんなもんですね! 見てましたか勇者さん!?」
予想していたものを遥かに超えてきた戦い方に勇一は困惑する。そりゃそうだ、結界術師の戦いと聞いて心臓ぶち抜きに行くとは思わないだろう。この世界に来て間もない勇一にグロテスク耐性が身についていないのも困惑ぶりに拍車をかける。
「…………いつもそんな戦い方なの?」
「……?そうですけど……何か?」
「いやその……まさか刺すとは……」
「ふっふっふ……結界とは相手の攻撃を防ぐものであるからしてカチカチなので、意外と攻撃に転用できるんですよ」
……何物にも貫けない最強の盾と何物をも貫く最強の矛の両存。辻褄が合わない事の例えの代表格だが、それに対する答えは「最強の盾を削って尖らせたものが最強の矛です」だったんだな……語り部さんここまで存在してきて初めて知ったよ……。
「という訳でこれが私の戦闘スタイルなんですが……参考になりました?」
「いいえぜんぜん」
勇一くんがあれを再現しようとしたら、枝を拾って攻撃を防ぎ枝を使って相手を貫く枝マスターになるしかない。当然無理。なんだ枝マスターって。園芸師か。
「そうですかー……じゃあ別の戦い方を考える必要……が……」
そこまで言ってリーネの口が止まる。次第に顔は青ざめていき……って、まさか!
「勇者さん後ろ!!」
「え?……うわっ!?」
語り部さんも見逃していた、後ろから先程よりも大きなゴブリン!気づかないうちに距離を詰められていたらしい……!棍棒を振り回しながら迫ってくる!
「避けてください!!」
「いやこの距離からじゃ無理だ結界を頼む!」
「あっその手が!待っててください今展開します……ちょいさー!!」
……咄嗟に他人を結界で守る選択肢が浮かばなかった事に、彼女のぼっち生活の長さが見て取れる。そして語り部さん気付いちゃったぞ、他人を守った事がないって事はもしかして
「ごふっ!?」
「あーっ!?結界は張れたけど勇者さんぶっ飛ばしちゃいましたーっ!?」
ですよね。
リーネの結界は確かに勇一のいた場所に張られた……のだが、勇一を中に入れることはなく、勇一の場所を奪う形で展開。つまるところ、突き飛ばした。その先にはゴブリン……って、まずいのでは!?
いや待て、ゴブリンも突然の出来事に戸惑って棍棒を構える手を下ろした!このまま行けば勇一の頭がゴブリンの腹部に……
「へぶーッ!!」
「勇者さーーーーんッ!!」
直撃!!
……そのまま、両者ともに気絶した。
◆◆◆
「…………さん!勇者さん!」
「うぅ……」
両者気絶の後、リーネがゴブリンにザクっと結界を突き立て命を絶ち、勇一を介抱すること数十分。ようやく目を覚ましたようだ。
「あっ起きました!?大丈夫ですか!?」
「……大丈夫、全身は痛むけど……。それより記憶が確かなら結界で守ってもらったと思ったら吹き飛んでたような気がするんだけど頭打って混乱してるのかな……」
「……残念ながらというか非常に申し訳ないんですがそれで合ってます……」
「えぇ……」
「あれから何回も試して見たんですがやっぱり他人を結界の中に入れるのは私にはどうやっても出来ませんでした……なにしろぼっちなので……」
「……えちょっと待って明らかに打った覚えがある頭以外も痛むと思ったらお前まさか気絶してる俺を吹っ飛ばしたの?」
「あ」
「おい」
「……失言でした……」
……そう、語り部さんは見ていた。リーネちゃんは確かに介抱はしたけれども、その前に急いでて間違えて結界を張り間違えたのかどうかを検証するために勇一くんに何回も結界魔法を試していた光景を……!何回も勇一くんぶっ飛ばしたのは面白……こほん!やりすぎだったと思うな語り部さんは。うん。
「本当にすみません……私がいなければ怪我もしなくて済んだのにごめんなさい……」
「本当だよ何で気絶した後に人体実験紛いの事してくれてんの」
「うっ……返す言葉もありません……」
「……まぁでも、助けようとしてくれたのは……」
「これはぼっちという要素でも庇いきれない失態です……本当にごめんなさ……うっ、ぐすっ……」
「お、おい泣くなよなんか俺が悪い事したみたいじゃん!落ち着けって!」
感情が昂ったリーネは、ぽろぽろと涙を零しながら謝罪する。
「ぼっちの私でも同じぼっちの勇者さんとならやれると思ったんです……勇気を出して話しかけてみたんです……でもそのせいで同胞の勇者さんに迷惑をかけて……友達どころかぼっち仲間さえこのザマじゃ夢のまた夢ですよね……あはは……ティッシュティッシュ……ずびっ」
「…………」
リープスの城で悪意に曝されていたからか、勇一は感じ取れた。リーネは本気で反省している。
そういえば、今回も何もしていなかった。出来なかった。城にいた時と同じ。
「何も出来なくなったくせに」
「何故アイツのために動かないといけないんだ」
「まだこの城に居るのはどういうことだ」
「どうして」
「なんで」
「アイツが」
直接浴びせられたわけでもない言葉、しかし脳内にこびり付いて仕方の無い言葉がちらつく。心の痛いところを的確に突いてくる言葉だ。
……だが、リーネはどうだろうか。
「ぼっちですから」
「申し訳ないです」
「迷惑かけて」
……リーネは、自分を責めることしかしなかった。勇一がゴブリンを倒せれば、リーネは勇一を吹っ飛ばさずに済んだ。……しかし、彼女は原因となった勇一ではなく、自分を責めている。
「……だな」
「……ふぇ?」
「……俺の事は責めないんだな」
「……え?な、何でですか?」
「……いや、元はと言えば俺が後ろを取られたからこうなったのにって思ってさ」
その言葉に、まだ目尻に涙を溜めながらもきょとんとした顔で。
「……?いやだって、勇者さん戦うのほぼ初めてみたいなものですから反応なんてできっこないですよ。それに今回は私の落ち度がめちゃくちゃ大きいですし……そんな事で責めてられませんよ、調子乗ってやられたとかだったら私もキレてたかもしれないですけど……」
「…………」
「あはは……その、すみません……余計な事言ったかもしれないです……本当に何言ってるんでしょうね私……」
ここで、気付いた。
リーネは……この子は、ぼっちぼっち言ってるちょっと、いや大分おかしい子だけども。
……いや、だからこそ至らない者の気持ちも分かってくれるいい人なんじゃないかって。
……語り部さんも同じ気持ちだ。少し、いやかなりズレてるけど……芯が通っていて、真っ直ぐだ。
「これ以上迷惑かけるのはぼっちのプライド的にもダメだと思うので……他のぼっち仲間探し、不安ですけど頑張ってみたいと思います。付き合ってくれてありがとうございました、勇者さん」
溜まった涙を拭いもせず、リーネはなんとか笑顔を作り立ち去ろうとする。
「……田中勇一」
「……え?」
「……いや、ずっと勇者さん勇者さんって呼ばれててそういえば名乗ってなかったなって思って。パーティを組むなら自己紹介はしとかなきゃだろ」
「……!そ、それって……」
「あぁ、お前は俺の事をバカにしたりしないし……その、一緒にいた時間は悪くなかった。だから、その……今後も、よろしくな」
「…………っ!」
決壊した涙腺から大粒の涙を零しながら、勇一の胸にリーネが飛び込んでくる。
「わあああああああああ勇者さああああん!!嬉しいですぅぅぅぅずびずっうぇっ」
「うわだから鼻水つくからやめろって!替えの服あんまり持ってないんだよ!」
「これから……これからよろしくお願いしますぅぅぅぅぅ!!」
「……はいよ、よろしくリーネ」
……よかった、上手くいかないかと思ったけど語り部さん嬉しいよ……。めでたいねぇ……。
……こうして、脱色勇者とぼっち、異色のコンビが結成されたのであった、と今回は締め括っておこう。




