4.そして、ぼっちと出会う
「……さっき城の裏からとぼとぼ出てきたってことは……貴方がウワサの勇者さんですね!?」
勇一と目が合ったのは、頭に付けたリボンが目立つ金髪ロングの女の子。
勇一の目は死んでいる。
脱色勇者だってことは誰にも知られずにひっそりと生きる……そう願った瞬間バレた。流石にフラグ回収が早すぎて語り部さんもビックリだ。勇一くんフリーズしてるぞどうするんだこれ。
視線を合わせてしばらくのち、一言。
「……人違いです」
「人違いって事はないでしょ私貴方が城の裏口から出てきたのこの目でくっきりはっきり見ましたよ!普段周りばっか見てるぼっちの観察力は伊達じゃないんです!」
通用しなかった。
「……じゃあそういう事でいいんでほっといてくれさようなら」
これには勇一もたまらず、重い腰を上げてその場から逃げ出そうとする。だがしかし、
「あちょっと待ってください困ります!話だけでも聞いてくださいよ!」
逃がしてくれるはずもなかった。
「現在進行形で困ってるのは俺なんだけど……」
「なんですって!それだったら困ってる問題の解決を私が一緒に解決してあげますので話を聞いてください」
「いや原因そのものが何を……」
勇一の中に湧き上がる、『なんだこいつ』という感情。早く逃げ出したかったが、逃げたら余計しつこくされるかもしれない。そう考えた勇一は、もう一度腰を下ろした。
「……本当に話聞くだけだからな」
「ありがとうございます!」
娘は椅子の後ろから前に回り込む。そして……
「ではまず自己紹介を!私の名前はリーネ、ぼっちの中のぼっちです!!」
人差し指を空高く突き上げた「1」のポーズと共に、彼女はそう名乗った。
「……はぁ」
「私は今までモンスター討伐などのクエストをこなすぼっち冒険者として過ごしていました。当然ぼっちなので友達はいませんでしたが、一人で日銭を稼ぎながらぼっち生活していたんです。ぼっちとして!」
(コイツどれだけぼっちを強調していくんだ……)
定期的に挟まれるサブリミナルぼっちのせいでリーネに関する情報が全く脳に入ってこない勇一なのであった。……え、語り部さん?勿論ちゃんと聞いてるぞ、ぼっちとして相撲部屋で薄力粉を売ってたんだよな。あれ違う?うっかりうっかり。
「ところが!ところがですよ!!大問題が発生したんです!!」
「はぁ……」
そこでリーネはオーバーリアクションで崩れ落ちるポーズをしながら。
「最近危険なモンスターが出没し始めたから討伐はパーティを組んで出かける決まりになってしまったんですッ!!」
泣きそうな声でそう告げた。
「……へー」
一方の勇一の態度は氷点下。全く興味のない時の『へー』だったぞ、今の。まさに死んだ魚の目。
「……え?何でそんなリアクション薄いんですか……?勇者さんならきっと『なんて事だッ!!』って同情してくれると思ってたんですけど……」
「……いやそれただ普通にパーティを組んで活動すればいいだけなのでは……?」
うん、語り部さんもそう思った。そんな至極真っ当な疑問に、リーネは屈託のない澄み切った瞳で。
「自分ぼっちなので!パーティとか無理無理の無理ですね!心停止する自信があります!あっはっは!」
澄み切った涙をだばだばと流しながら、悲しく笑っていた……。
そんなこれまでのリーネの言動、行動を見て勇一の中に浮かんできた思い。
やっぱ関わらん方がいいだろコイツ。
という訳で再び立ち上がり、背を向けての別れの一言。
「じゃあ別の仕事でもしてお金稼いでもらって……俺はこれで」
「あ待ってください!本当にお願いです後生ですから!話を最後まで聞いてください!お願いしま……うっぐえっぐすっ」
「ちょっやめ……って鼻水!鼻水付くから離れて汚いな!」
脱色してからずっと低めだった勇一の声のトーンがここでようやく上がる。ただ悲しいかな、それは立ち直りとかではなく怒り。この状況下で怒りの感情を呼び起こすって普通にリーネは天才なのでは?ウザ絡みの。
「話を最後まで聞かずに行くというのなら涙と鼻水でべっちょべちょにしてやります……だからちゃんと聴いてください」
「あーもう分かった!しっかり最後まで聞くから早めにどうぞ!」
ヤケクソ気味に放たれたその言葉を聞いて、リーネはやっと泣きやみ、 続きを語り出した。
「パーティを組むのが義務化されてしまったのは先程話した通りでして……そこで転職も考えていたところ舞い込んできたのが勇者さんの噂だったんです」
「はぁ」
「能力を失って一般人となってしまった勇者さんの話を聞いて私は思いました。そう……勇者さんは私と同じぼっちの土俵に立ったのだと!」
「はぁ?」
「それに気づいていてもたってもいられなくなった私は勇者さんとぼっちパーティを組むために城の周辺を一週間張り込みしてました……そして今日ようやく、勇者さんに出会えたわけです!」
「えぇ……」
絵に描いたようなドン引きの態度を見せる勇一。顔にもうドン引きって書いてあるねこれは。何なら私が勇一くん達を見てるモニターの上から顔にドン引きと書いてあげよう。かきかき……あっ動かないで文字がずれる!……完成したのは空中に浮かぶドン引きの文字だった……ホラーかな?
「なので勇者さん!私と一緒にパーティを組んでモンスターの討伐などに勤しむとしましょう!」
「いや普通に嫌です」
「なんですとーっ!?」
……こっちもこっちで顔に『断るのは想定外でしたマジですか!?』って書いてあるな……よく顔に出る二人だこと。普通にお似合いだと語り部さんは思うのだが、勇一くんは拒絶か。ううむ難しや人間関係……。
「え、何故!?断る理由がないですよね!?ぼっちとぼっちが出会ったときたらぼっち同盟を組む以外ないでしょう!?」
「同盟組めた時点でぼっちじゃねぇだろうがそりゃ!」
「勇者さんは何も分かってないですね……陰キャがいくら集まっても陽キャになれないようにぼっちがいくら集まろうがコミュ障ぼっち集団に変わりないんですよ……!」
「いや意味わかんないし……ぼっちと組みたいのは分かったけど生憎と俺は無理だ他を当たってくれじゃあな!」
もう苛立ちが抑えられなくなってきた勇一は吐き捨てるようにしてその場を立ち去ろうとする……が、
「……ここで私と組まずに行っちゃって本当にいいんですか?勇者さん」
尚も食い下がるリーネ。しつこさグランプリが存在したのなら即刻優勝だろう、これは。
「……何、まだなんかあるの」
「勇者さんは姿こそ知れ渡ってないとはいえ『脱色勇者』の名は広く知られた身……今後それが何らかの原因で露呈した時、貴方は居場所を失ってしまうのでは?」
「…………」
泣き喚いていたあの姿とは打って変わって、彼女は非常に説得力のある語り文句で勇一を引き止めた。……確かにそうかもしれない。現にその肩書きが原因で居場所を失って彼はここにいるのだから。
足を止めた勇一に、リーネは続ける。
「その点私は貴方が勇者さんだって事を知って尚パーティを組みたいと言っているわけで、それは即ち勇者さんに少なくとも一箇所は拠り所が出来るって訳です」
「…………」
勇一は振り向かない。
「…………まぁ、ここまで話してダメだって言うのなら無理強いはしないです。というかこれ以上踏み込んだ交渉はぼっち同士とはいえダメです既に震えが」
……締まらないなぁ。……え、語り部さんも締まってない?そんな事ないぞー私は締まりはいい方なんだぞーどこがとは言わないけど。言わないけど。
……話を戻して、ぼっちの守護領域を越えかねない言葉責め……じゃない交渉に身体が耐えられず産まれたての子鹿と化してきたリーネ。勇一もそれを見て呆れ……
……って、あれ?「見て呆れ」って事は、つまり……
ずっと振り向かずに話を聞いていた勇一が振り返っている。勇一とリーネ、目が合った。これは……?
「……とりあえず今回だけだぞ」
「……え?」
「その先どうするかは俺が決めるとして、今回だけはお前と一緒にパーティをとやらを組むって事だよ。言っとくけど俺、全然この世界のこと知らないからナビゲートは任せたぞ」
「つ……」
「つ?」
つ……
「ツンデレですこの人!!」
「はぁ!?」
ツンデレだァーーーーーッ!!
え勇一くんこれは紛うことなきツンデレじゃないかその直前のちょっとギスギスした態度から言葉に感銘を受けて歩み寄りたいけど先程のやり取りから気まずい気持ちが勝って普通に声をかけられずに精一杯ひねり出した言葉がつっけんどんな印象を与えながらもその言葉の裏に隠された優しさが誰にでも分かるほどに滲み出ていて
「完全にツンデレじゃないですか!ぼっちツンデレってなんですか、禁断のミックスですかぼっちの世界に新たな風穴を開けるんですか!?やはり勇者さんは逸材ぼっち……!!これからよろし」
「気が変わったさようなら」
「待ってーーッ!!」
ぶっきらぼうが故の愛おしさとでも言おうかそういったオーラが発されていて少し残っているトゲトゲしたオーラすらもその可愛さを享受する時のアクセントになるというか頬を掻く仕草などのステレオタイプにハマったツンデレらしき動作も更にそれを際立てるのに一役買っていて更に少し涼しいこの場所で何故か結構かいている汗も恥ずかしさに震える勇一くんの心情が如実に現れていてさ
……語り部さんだぞ。録画しておいたデータを参照して話すんだが、あの後リーネが勇一くんを説得し直すのに30分かかっていたぞ。ちなみに語り部さんはツンデレについて3時間語ってたんだけど流石に長すぎるのでカットした。仕方ないね。以上ッ!また次回ッ!!




