2.そして勇者は伝説となるwithせんべい
今週もやって参りました世界の境界縦断ウルトラクイズ、正解者は出るのか!? 要約するとつまり、前回の答え合わせだな。それじゃあ......見ていこう。
突然異世界へすっ飛んだ勇一、天界では途中中断されたその一言の全容は......!
「てへじゃねぇよてめぇ何してんだなーにが天使エルちゃん最高だ好物のてんぷらキメたくなってくるわちくしょう!!」
……なんと。
せ、正解はまさかの全部だったな……。語り部さんもビックリだぞこんなの。
というわけで全員正解者なので素敵なプレゼントと洒落こみたい所だが、いかんせん君達に物理的に干渉する術がない。褒め言葉で我慢してくれ。すごいぞー!えらい!
「……えー、コホン」
取り乱していた勇一は、後ろから聞こえてきた咳払いで我に返る。え今までの全部聞かれてたの恥ずかしな感情はとりあえず抑え、何事も無かったかのように、
「えーっと......どちらさまでしゅっ.....~ッ......!」
盛大に噛んだ。落ち着け勇一。それはそれとして私は常時音声を録音しているので何度でも勇一くんの痴態を堪能できるぞほらこんな感じで「えーっと......どちらさまでしゅっ.....~ッ......!」いいね。最高。いつかうっかりコレクションでも作って郵送しよう......!へへん。
「私は宮廷魔術師のレーベンと申します。以後お見知りおきを」
「は、はぁ、レーベンさん……あの、俺は」
「ユウイチ様ですよね、ご存知ですよ」
名乗るより前に自分の名前を口にしたレーベンを見て、勇一は驚く。そしてここでふと、先程の会話がフラッシュバックした。
「異世界の人から請われて、人材を別の世界から呼び出す魔法の対象に勇一さんが選ばれてしまった……そんな感じです。今回は……あ、魔物への対抗策っぽいですよ。まぁざっくり召喚の話を言い換えれば、全世界の人類のうちランダムで一人に送り付けられる赤紙がクリーンヒットした感じです」
なんか勢いで押し切られた気もするが、そういえば自分は召喚されたんだと思い出す勇一。……召喚。召喚だぞ?召喚といえばもうアレしかないだろうアレ。君も分かっているはず。さぁ言いたまえ勇一くん、貴方が私のマ
「えっと……俺を召喚したのが貴方、という解釈で合ってます?」
言わない!残念!
「ええ、概ねその解釈で間違いありません。増え続ける魔物、その裏に潜むであろう巨悪への対抗策として貴方をお呼びしたのです」
「巨悪への対抗策……」
「貴方をこの世界へお招きした魔術は数十年もかけて術式を組み上げ、神の加護も受けて行使したもの。本来交わるはずのない他の世界からの来訪者にしか適用できないのは難点ですが、対象者には無敵とも言える加護を授ける大魔術。ご自覚がないかもしれませんが、貴方は今この瞬間からこの世界の人類で最強の存在、無敵の勇者となったのです」
……真面目なやり取りが続いて正直ボケが挟めなくて暇だな、おせんべいでも食べながら事の顛末を見届けるとしよう。
「無敵の勇者……ですか」
「そうです。貴方が会得した能力はずば抜けた魔力、筋力、体力……様々な分野を極めたもの。一纏めにして呼称するとすれば……『英雄色』とでも称しましょうか」
「英雄色?」
へいふーひょく。ほふほふはふほほ。
「はい。そのような力を手に入れた貴方は、後々さぞかしおモテになる事でしょう。そこで、『英雄色を好む』という言葉に掛けましてその能力こそが英雄の色、『英雄色』と呼ぶことにしました。なんと貴方をお呼びになる前日夢の中で天使から告げられた名前なんですよ、凄くないですか」
「な、なるほど……その天使間違いなくあいつだろ……」
「……?どうされました?」
「あいえ、なんでもないです」
ほーはんはへへほへふはほーはー。ほははほはへひふはふは。
もぐもぐ……ぷはー。……んぇ?何言ってるか分からない?ふっ……いつだって自由、それが語り部さんなのだよ……!という訳で聞こえなかったぶんはフィーリングでどうぞ。君たちとは長い付き合いになりそうだからこっちもかしこまったりはしないという事で。自然体の語り部さんもカワイイだろう?姿は見えないけどなあっはっは!
それにしてもこのおせんべい美味いな、君たちにも分けてあげたいくらいだ。なんかこう……硬いながらもしっとりとした感じがするというか。いや……美味……!君たちはどんなお菓子を食べながら私の話を聞いているのかな?え仕事中?働けよぅ。
「私からの説明は以上だ。早速お試しの実践に赴いてもらおう」
「は、はい、王様」
ん……?あ、やば!雑談に夢中になりすぎて状況を語るの忘れてた!なんかめちゃくちゃ話進んでるじゃないか王様まで出てきて話も一段落したみたいだし!やべぇぞやべぇぞ……懲戒免職はイヤだぞ私は!落ち着け私、こういう時は二進数の数字を唱えるんだ、0、1……終わりじゃん!どうしよう、全然落ち着かん!
……あそういえばバックログ取ってたな!どれどれ……よしばっちり映ってる!これを見て語り部さんが語り損ねた展開をざっくり解説しちゃうぞ。
えーとなになに……よし概ね理解した、遅れを取り戻すために掻い摘んで話そう。これから勇一はとりあえず肩慣らしに近隣のモンスターの殲滅、明日から本格活動開始!よし完璧追いついた!……よし、それじゃあモンスター駆除風景でも語っていくとしようか。
勇一達がたどり着いたのは街の外の草原、そこにある大きめの岩。……あ、街と言っても君達には分からないよな。よし、ここは語り部さんが一肌脱いで解説してあげよう。
この世界に存在する街、リープス。リープス城を中心に存在する城下町で、かなり栄えた都。そこの王様の命により召喚されたのが勇一と言うわけだな。近くにはそんなに力の強い魔物も生息しておらず、冒険者の旅立ちの拠点としても人気のあるホットスポットだ。
「ささ、勇者殿。魔法を撃ってみてください。あちらに手頃な岩がありますので」
そして勇一達に視線を戻すと、たしかレーベンとか言う奴が、勇一に魔法を撃つよう促している。試し撃ちと言うやつだなこれは。チート魔法……語り部さんもどんなものか気になってきたぞ。わくわく。
「え……でも俺使い方とか全く知らないんですけど」
「ご心配なく。力を込めて念じれば放てるはずです。ええおそらく。多分撃てます」
(適当だなぁ……)
そう思いいつつもやはり魔法を撃つと言うのはちょっと気になる勇一。とりあえずのフォームとして手を前に突き出し、構える。
「すーっ……」
息を吸い。
そして。
「ファイヤー!」
弾けた。
『ドカァァァァァァンッ!!』
「……え」
「……なんと」
ファイヤーと唱えたからに、発動したのは火の魔法。でもそれは火の玉なんて生易しいもんじゃない。そうさな……例えて言うなら今のは上級呪文じゃない下級呪文だで語り草になるアレレベル。
その威力に目標の岩は砕け散り、辺りの草むらはぺんぺん草も生えないような焼け野原。オーバーキルだ。これがチート魔法……テンション上がってくるな!お茶うけが進む進む。あ、今度は実況忘れるみたいなポカはしないぞ?語り部さんは学習するオンナだからな。
「は……え……?何だこれ……こんなに火力出るもんなの……?」
「それが、それこそが勇者殿が神より賜りし力。この世を救うための力なのです」
「神から賜りし力……」
その言葉に一瞬エルの事が頭をよぎる。……が、忌々しいので速攻で無かったことにした。うん、これは神からもらった力。誰がなんと言おうと神からもらった力なんだ。自分の力を神からもらった力だと思い込んでいる一般人(勇者)。
その思い込む姿がレーベンには自分の力の強大さに思慮を巡らしているように見えたらしく、更に褒めちぎる。
「流石は勇者殿。強大な力をもってしてもそれをあからさまに振るう事無くその力の脅威について考えているのですね……素晴らしいです」
「あっいえそういうんじゃ…………いや、そうかも……です」
「貴方は正に人間の鑑とも呼ぶべき存在ですね」
あっ、褒められたい欲望に負けたぞこいつ。そこは否定しとけよぅ。仕方ない、代わりに私が罵倒してプラマイゼロにしてやろう。ばかー!ざーこざーこ!包○ー!……こんなもんだろう。惜しむらくは本人に直接伝えられないことだな。
そしてそこからはもう、凄かった。
場所を変え手を変え魔法の試し撃ち。風魔法を使えば地面がめくれ上がり、土魔法を使えば誕生するはそびえ立つ巨大なゴーレム。光魔法に至っては大分街から離れたところで撃ったにも関わらず街でその光を見たものがいるほどだった。ちなみにそれを直視した勇一は目の強烈な痛みに襲われた。レーベンはグラサンをかけていた。いや貸してやれよ。
……とまあそんな訳で粗方魔法を試してみた勇一。その様子はカメラを回していたレーベンの手によって城に伝わっていたため、勇一が帰った時には城内は大騒ぎ。クラッカーの飛び交う祝福ムードの中、豪華な食事を経て勇一の一日は終わろうとしていた。
「それではおやすみなさいませ、勇者様。明日の民への勇者様お披露目式の前には起こしにまいりますね」
城になれない勇一のお世話をしてくれたメイドも部屋を退室し、一人になる。
「……チート能力、か」
こちらの世界に来てしまった代わりに手にしたモノ。未だに実感が湧かないが、昼に撃ったものは正しく本物。寝転がりながら勇一は考える。この世界で勇者として生きていくことと、それはどうなのかということの葛藤……。
「それもまぁ、悪くないのかもな……」
向こうの世界にいたら、絶対こんな体験は出来なかっただろうと勇一は思う。そりゃそうだ、こんな褒めちぎられてお世話される場面なんて、現代日本じゃ風俗くらいしかないだろう。勇一の心が揺れるのも分かる。……あら失敬ちょっぴり下品な例えが。語り部さん反省。
まぁそれはともかくとして、この手の問題は考えていると頭が痛くなってくる。勇一はとりあえず、勇者として流されてみることにした。正直言って、褒められるのは気持ちよかったから。
そんなことを考えているうちに、睡魔はやって来る。勇一はちやほやされることの心地良さとともに、気持ちの良い眠りへと落ちた。
……これが、転生して最初の一日の終わりだった。




