【第3話②】謎の衰弱事件とバグ発言
ふざけた要求と、勝手に成立した既成事実をひとまず全部無視して、俺はギルドから剥がしてきた依頼書を突きつけた。
「仕事だ。情報収集。『謎の衰弱事件』――若い男が次々ぶっ倒れてる、って噂。知ってるか」
依頼書を見た瞬間、尖った耳の先がぴくりと跳ねた。
だが、顔に驚きはない。
怯えもない。
あるのは「ああ、アレね」とでも言いたげな、気の抜けた表情だった。
「なんだ、そんなことか」
「そんなことって……被害者は全員、記憶を失って、ひどく衰弱してるんだぞ。倒れてた場所も、路地裏だったり、街外れだったり、妙にばらばらでさ。まだ何の共通点もつかめてない」
「そりゃそうさ。魔物の仕業でも、流行り病でもないんだからな」
「……知ってるのか?」
「あのな。この世界じゃ、そいつは『事件』ですらない。ただの自業自得、もしくは自然の摂理ってやつだ。……いや」
メロンが、一瞬だけ宙を見た。
「アレはむしろ、神サマの想定外の『バグ』かもな」
「バグ?」
「女だと思って手を出した相手が、システムの想定してない例外だった。そういうこともある。――ま、こっちの話だ。気にすんな」
「いや今、ものすごく重要そうなことをサラッと流しただろ」
「それより、だ。おやおや?」
メロンは強引に話をぶった切ると、ぐいと身を乗り出して、俺の顔を覗き込んできた。
ふざけた気配が、ふっと消える。
値踏みするような、妙に静かな目。
こいつは時々、こういう目をする。
「お前、隣町の護衛依頼で一週間、出っぱなしだったよな」
「ああ。今朝帰ってきた。よく知ってるな」
「で? 向こうで女の子と、よろしくやってきたのかよ?」
「は? してない」
即答だった。
我ながら悲しくなるくらいの即答だった。
一週間でやったことといえば、夜営の見張りと、壊れた車輪の修理と、依頼主の長ったらしい自慢話への相槌。
それだけだ。
メロンが顔をしかめた。
信じられないものを見る目になる。
「……じゃあその間、『抜いて』もねえのか」
「ぶっ――は!? な、何言ってんだお前、真っ昼間の広場で!」
「バカ、デカい声出すな、ヘタレ。こっちが恥ずかしいだろ」
「お前が変なこと聞くからだろ! 俺は事件の情報を聞きに来たんだぞ!」
「……おいおい、マジかよ。お前のソレ、大丈夫か? このままだと――爆発すっぞ」
「……は?」
「だから、爆発するって言ってんだよ。お前の、股間が。ドカーン、ってな」
噴水の水音だけが、やけに大きく聞こえた。
爆発。
股間が。
ドカーンと。
「……どういうことだ。詳しい説明を求める」
「文字通りの意味だっつの。一回しか言わねえからな、よーく聞けよ」
メロンが人差し指を立てた。
「この世界の男はな、定期的に女とイチャイチャして、体に溜まる『汚染値』ってのを下げなきゃいけねえんだ。手を繋ぐ、抱きしめる、キスする――触れ合いが濃いほど、よく下がる」
「下げないと、どうなる」
「限界を超えると、男はアレがドカン。もれなく女の子デビューだ」
「それは困る!?」
「ちなみに、女のほうも汚染値を浴びすぎると、理性を失って魔物化するらしいぜ」
「神は正気か!?」
「アホで理不尽だから神サマなんだよ」
「!?」
名言風に締めるな。
いや、待て。
待て待て待て。
情報収集に来ただけのはずなのに、俺はいま、この世界の根幹に関わるクソ仕様を聞かされている気がする。




