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イチャイチャしないと爆発する異世界で、ぼっち最強勇者は今日も詰んでいる   作者: ああああ


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【第3話①】財布は一回しか鳴らない

 俺はギルドを出て、石畳を数分も歩かないうちに、懐の財布を取り出した。


 振る。


 ちゃりん。


 ……一回。


 一回しか鳴らなかった。


 中身は銅貨が数枚と、お守りだと思って拾った石ころが一個。


 以上だ。


 理由はふたつある。


 ひとつは、目立たないために初心者向けの依頼ばかり選んでいる俺の稼ぎ。


 もうひとつは――これから会いに行く、緑髪の金食い虫である。


「……今日こそは、一文もたかられない。絶対にだ」


 口に出した決意が、なんだか早くも遺言めいて聞こえた。


 そうこうしているうちに、ふっと視界が開ける。


 街の中央広場。


 露店の呼び込み。


 串焼きの煙。


 吟遊詩人の調子っぱずれな弾き語り。


 真ん中にはでかい噴水があり、その縁をぐるりと囲むように青いベンチが並んでいる。


 噂も依頼も、面倒事も、だいたいこの広場から転がり出てくる。


 さて、『話す』か、『移動する』か、『休む』か――。


 ……いや、選択肢を頭に浮かべるな、俺。


 完全にこの世界に毒されている。


 最近、何かしようとするたびに、脳内へ薄い半透明のウィンドウが立ち上がる癖がついて、本気で怖い。


 ためしに、心の中で呼びかけてみる。


 こんばんは、システム君。


 ――レディです。


「…………」


 今、何か聞こえた気がした。


 気のせいだ。


 たぶん。


 俺は深く考えるのをやめて、広場を見回した。


 探すまでもなかった。


 噴水前のベンチ。


 緑の髪。


 ぴんと尖った長い耳。


 広場には致命的に場違いな、フリルまみれのメイド服。


 堂々と足を組んで、日向ぼっこの真っ最中。


 手にはかじりかけの丸パン。


 隣には『メロン印のおやつパン』の紙袋が一枚。


 ……自宅か、ここは。


 お前の。


「よー、ああああ。元気にしてたか? 久しぶりじゃねえか」


 向こうが先に気づいて、ひらひらと手を振ってきた。


 にっと笑った口元から、サメみたいなギザ歯が覗く。


「……またサボってるのか、メロン」


「人聞きの悪いこと言うなよ。アタシはサボってるんじゃない。広場の平和を見張る、由緒正しき『広場担当警備員』。れっきとした任務中だ」


「そんな役職は存在しない。お前の雇い主、さっき血相変えて探してたぞ」


「げっ。マジか」


「嘘だ」


「……チッ。小賢しい嘘をつくようになったじゃねえか。右も左も分からない初心者マーク付きだった頃のお前は、もういないんだなあ。あーあー、かなしいよぉ」


 メロンは舌打ちして、どっこいしょ、とやけに年季の入った掛け声で背筋を伸ばした。


 見た目は可憐なエルフの娘。


 中身はこれである。


 一度だけ年齢を聞いたら、無言で耳を引っ張られた。


 以来、実年齢は知らない。


 知らないままでいい気がしている。


 表向きの肩書きは、飲食店『いこい亭』のメイド。


 “表向き”というのは、店で働いている姿をほぼ誰も見たことがないからだ。


 勤務地がベンチ。


 それでいて、この街の噂には誰よりも詳しい。


 俺がこの街に流れ着いたばかりの頃、世話を焼いてくれたのもこいつだった。


 恩はある。


 が、同時に、俺の財布を万年危篤に追い込んでいる主犯でもある。


「で? 今日はなんの用だ。アタシの麗しい顔を拝みに来たってんなら、鑑賞料としてそこの屋台で串焼きでも奢れよ」


「奢るか。こっちはお前のせいで万年金欠なんだよ」


「なんだよ、薄情なやつだな。あんなに手取り足取りやさしくお世話してやったのに、もうアタシの身体に飽きたのね。ひっどーい。じゃあ慰謝料だ。そこの屋台のメロンパン、一個ちょうだい」


「もう食ってるだろ! その手に持ってるやつは何だよ!」


「ん? これはツケだ」


「誰の」


「お前の。アタシ専属の、歩く公式サイフ様のな」


「俺のかよ!? しかも公式って何だ、公式って!」


 屋台のおっちゃんが、こっちに向かって両手を合わせて拝んでいた。


 ……あとで泣きながら払いに行こう。


 情報を得る前から、俺の財布はすでに敗北していた。


挿絵(By みてみん)

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