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冥婚から始まる皇妃戦略 - 棺桶で叩き起こされた最強の妻  作者: 白狼九音
第一卷 冥婚から始まる鎮魂歌
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23/28

江雪

淑妃の一件が終わった後も、宴は続いた。

しかし雰囲気は明らかに変わっていた。

あれまで私にまったく関心を示さなかった連中が、

こっそりと私を値踏みし始めた。

各國の使節もひそひそ話をし、私の來歴を探っている。

淑妃はずっと仏頂面で、周囲の貴婦人たちももうひそひそ話はできなくなった。

太后が私を一目見た。その目には、わずかな満足の色があった。

分かった。

これは合図だ、今がその時。

私は立ち上がり、太后の前に歩み出て、禮をした。

「太后様、わらわ、一品の羹を獻上したく存じます。

先帝に捧げるとともに、御列席の皆様にも召し上がっていただきたく」

太后が頷く。その目にわずかな好奇心が宿る。

「よかろう。持って參れ」

私は殿の中央に歩いた。既に女官が盆を捧げて來ている。

盆の上には青磁の碗が載せられ、中には薄茶色の汁が入っており、

その上に數枚の若綠の茶葉と數粒の赤い実が浮かんでいる。

一碗の茶漬けだ。

——正確に言えば、改良版の茶漬けだ。

「これは?」

「わらわが自ら作ったもので、

『相思羹』と名付けております」

太后が碗の中のものを見る。

「『相思羹』……これはとても簡素に見えるが、何か由緒があるのか?」

私はほのかに笑みを浮かべ、説明を始めた。

「この羹は、極上の碧螺春茶の茶湯をベースに、

少々の塩と梅、それに數粒の小豆を合わせております。

茶湯の清らかな苦みは人生の苦しみを表し、

梅のほのかな酸味は戀い焦がれる想いの切なさを。

そして小豆は紅豆……」

私は一瞬間を置き、用意していた詩を吟じた——


「玲瓏骰子 安紅豆,入骨相思 知不知。」


その場が靜まり。

針が落ちる音さえ聞こえそうだ。

そして、拍手が巻き起こった。

太后が最初に拍手。

彼女は私を見て、その目は稱賛に満ちている。

「良い詩じゃ!」

彼女は興味津々で一口食べた。

場內は割れんばかりの拍手。

私は下がり、自分の席に戻る。

詩の余韻に浸る太后がさらに問い続ける。

「実に見事!『骨まで染み入る想い、知るや知らずや』じゃ!

良い、褒美を取らす!これはそなたが自ら作ったのか?」

私は首を振った。

「功を貪ることはできませぬ。

これはわらわの知るある詩人の友が作ったもので、

ただお借りしたまでにござる」

「借りて良いのも、實力じゃ!

我が大燕は二百年前、詩都と呼ばれたものじゃが、

惜しいかな、今は優れた詩人が少なくなってのう……」

隣の第一公主が突然口を開いた。

「この詩、わらわは一度も聞いたことがないわ。

弟妹のその詩人の友とやら、お名前は何というの?」

しまった。著者は唐王朝の詩人だ。

この世界にはそもそも唐なんて存在しない。

しかし私は表情一つ変えずに言った。

「無名の隠士でございます。わらわも偶然、彼の著書で目にしただけで」

蕭玉嬛が私を一目見た。

その目は意味深長だったが、それ以上追及はしなかった。

雲霓が近づいてきて小さな聲で言った。

「姉さん、この詩、めっちゃいいな。私だけに教えてくれない?

この友達って名は?」

「温庭筠」

「そうか、温庭筠っていうのか!紹介してくれよ!」

私は彼女を見て、真剣な顔で言った。

「その人、千年前に死んだよ」

「うわ、その友達、けっこう複雑な関係なんだな」

この子はとてもかわいい!

「それにしても、あの北戎の連中、図に乗りすぎじゃない?」

雲霓が隣でぽつりと零した。杯を傾けながらも、その目は使節団の席を鋭く睨んでいる。

「ああいうのはな、放っておけばいいんだよ」

私はそう言って、目の前の点心をつまんだ。

熱々のうちに食べないと、せっかくの美味しさが台無しだ。

「でもさ……」

「雲霓」

蕭玉嬛が低い声で制した。その目は、太后のほうを見ている。

太后は何事もないかのように、隣の淑妃と何かを話していた。

──そのときだった。

「おい、大燕の文官ってのは、いつもそんな無駄なことばかり言ってるのか?」

響き渡る大声。北戎の副将だ。

ぎこちない漢語で、立ち上がって酒を勧めた文官に向かって叫んでいる。

「去年、我らが可汗がお前たちに詩を所望したら、

三日三晩うなってようやくひねり出したのが何だ?

『北風が雪を巻く』だの『南の国に花が咲く』だの?」

彼は詩を詠む調子を真似て、大げさに首を振った。

「ふんふ~ん、ふーんふん~」

わざと間を引き延ばし、聞くに堪えない奇妙な節回しだ。

北戎使節団の席が、どっと沸いた。

その文官は、顔を真っ赤にして立ちすくんでいる。

杯を持つ手が震えていたが、一言も言い返せない。

「ははは!やっぱり今年も変わらんようだな!」

阿史那骨篤禄が立ち上がった。杯を手に、会場を見渡す。

「太后様、大燕の皆々様、わし一つお伺いしたいことがございます」

太后が彼を見据えた。その声は淡々としている。

「左賢王、申してみよ」

「昨年、わしが大燕に参った折、皆様は大燕こそ礼儀の国、

その詩文は天下無双だと自負しておられた。

その場で教えを乞うたところ、どういう結果になりましたかな?」

彼は口元だけで笑った。

「そちらの翰林学士殿が、線香一本分ほども悩んだ末に、

ようやく捻り出したのが『雪花ひらひら』という詩だった。

我ら北戎の羊飼いの歌のほうが、よほど味わい深かったというものだ」

誰も反論できない。何人かの官员がうつむく。

拳を握りしめている者もいる。だが、立ち上がる者はいない。

「去年は確かにやりましたよ」

雲霓が隣で付け加えた。声は小さく、しかしはっきりと。

「うちの文人は負けました、それもさんざんに」

「雲霓!」

蕭玉嬛が鋭く制したが、もう遅い。

阿史那骨篤禄の耳に届いた。

彼の笑みが深くなる。

「今年もまた教えを乞いたいものだ。

今年の大燕には、新しい詩人が現れたのか?それとも──」

彼はわざと言葉を切り、会場中の者を見回した。

最後に、太后を見据える。

「大燕の詩才も、そちらの軍隊と同じで

——三皇子が死んだ後は、役立たずばかりが残ったというのか?」


──ドン!

誰かが机を叩いて立ち上がった。

雲霓だ。

顔は真っ青、手は既に刀の柄にかかっている。

「もう一度言ってみろ!」

「郡主、ご落胆なさいませ」

阿史那骨篤禄は微塵も動じない。

「わしはただ事実を述べたまで。三皇子は確かに英雄であった。

彼が生きておった間は、我ら北戎も確かに一歩譲っておった。

だが今はもうおらぬ。そちらの軍は負けた。

それを我々に隠せとおっしゃるのか?」

雲霓は怒りで全身を震わせている。

しかし、ここで刃に手を掛ければどうなるか、彼女にもわかっている。

ただひたすら刀の柄を握りしめ、一言も言い返せない。

「さあ」

阿史那骨篤禄は杯を掲げた。自らの使節団に向かって。

「大燕に一杯献じよう。彼らに捧ぐ──詩を諳んじることのできる文人と、死せる戦神に」

どよめきが起きた。

──そのときだった。


私が立ち上がった。

「姉さん?」

雲霓の驚いた声が聞こえた。すべての視線が私に集まる。

太后、第一公主、淑妃、七皇子、列国の使節、満朝の文武。

阿史那骨篤禄の視線が私を捕らえた。面白い獲物を値踏みするかのように。

「おや?お前は──」

側近が小さな声で説明する。

「第三皇子妃でございます」

彼の目つきが変わった。見るからに、値踏みから嘲笑へ。

「第三、皇——子——妃?はは!ははははは!」

彼は声を上げて笑った。

「あの棺桶から這い出た未亡人か!?」

使節団の者たちまでが、私を嘲笑う。

私は一身の白衣をまとい、満殿の華やかな衣装の中で、

最も目立たない存在だ。しかしそこに立つと、なぜかは分からないが、

すべての視線が私に釘付けになった。

私は、この蛮族どもに向かって微笑んでいた。

「第三皇子妃、何かお気に召さぬことでも?」

「左賢王は先ほど、大燕の詩才に教えを乞いたいとおっしゃったな?」

「その通りだ!」

「では、私からも左賢王に一つ質問をさせていただきたい」

「申せ」

「出口成章。」

「なに?」

「北戎の国に『出口成章』、すなわち『言葉を発すれば即座に詩となる』という者はいるのか?」

「言葉を発すれば即座に詩となる?妃殿は笑わせる!そんなことは不可能だ!」

「よろしい。では、左賢王は、今日外に降り積もるこの大雪を、何に例える?」

阿史那骨篤禄は一瞬間を置いた。それから大笑いした。

「何に例える?塩だ!麦粉だ!天から落ちてくる白灰だ!

お前たち大燕の詩人が好んで使う比喩だろうが!」

「そうだそうだ!」

使節団の者たちが囃し立てる。

私は静かに彼らの笑い声が収まるのを待った。

「なるほど、左賢王のおっしゃるものは、確かに誰かが書いたことがある。

しかしそれらは、いずれも俗なるものである」

「俗なるものだと!?どういう意味だ!」

「塩は俗なるもの。麦粉も俗なるもの。白灰もまた俗なるもの。

そして、あなたも、私も、俗なるものだ」

私は言った。

「本当の雪は、それらに比すべきものではない」

「面白い!ならば、何に比すべきと言うのだ?」

私は窓の外を見た。雪は激しく降っている。

ひらひらと舞い散り、天地は一面の白だ。

「ならば──」

私は口を開いた。

「千山 鳥飛絶」

会場が一瞬静まった。

誰かが小さく繰り返す。

「千山……鳥飛び絶え?」

「万径 人蹤滅」

蕭玉嬛の目が一瞬輝いた。太后が手にしていた杯が、宙で止まる。

「孤舟 蓑笠翁」

阿史那骨篤禄の笑みが、完全に消え失せた。

「独釣 寒江雪」

──沈黙。

太和殿が、水を打ったように静まり返った。誰も話さない。誰も動かない。息遣いさえ聞こえない。人がひしめき合っているのに、誰もいないかのようだ。

大殿の中には──

ただ雪があるだけ。ただ江があるだけ。

ただ一人の孤高の釣り人がいるだけだった。

どれほどの時が過ぎたか。

パチン。

太后の手にあった杯が、そっと案の上に落ちた。

かすかな音だったが、死の如き静寂の中で、一声の雷のようだった。

皆がはっと我に返った。

──そして。

誰が最初かは分からない。拍手が起こった。

最初はまばらに。

次第に密度を増し。

最後には津波のように押し寄せた。

「良い詩だ!」

「絶句だ!」

「こ、こんなものが女に作れるはずがない!」

「不可能!」

「違う!詩だけじゃない!」

「どういう意味?」

「『出口成章』のだ!」

「まさか!そんな——」

「その通り!この妃は、『言葉を発すれば即座に詩となる』のだ!」

興奮して立ち上がる者。呟くようにあの四句を繰り返す者。目を赤くしている者さえいた。

第一公主が私を見て微笑む。口元の笑みを隠しきれない。

雲霓が隣で、あごが外れそうになっている。口を開け、目を大きく見開き、しばらくしてようやく一言絞り出した。

「姉さん……お前、人間か?」

私は答えず、ただ阿史那骨篤禄を見ていた。ついさっきまで傲慢不遜だった顔は、今や悔しさだけが残っている。

彼はうつむき、片膝をついた。

私に対してではない。太后のいる方向に向かって。

「大燕の文才、見事……わし、心服いたしました」

その後ろで、北戎使節団の者たちは皆うつむいている。叱られた小学生のようだ。

私は彼を見下ろして言った。

「左賢王、大燕の詩才は、決して消えてなどいない。

ただ、ある者は普段はあまり語らないだけだ」

彼が私を見る目には、驚愕と、警戒心と、

それから言葉にできない何かがあった。

それが何かは──知ったことか。

「お粗末!」

私は太后に向かって礼をし、自分の席に戻った。

後ろではまだ拍手が続いている。

雲霓が近づいてきた。目が星のように輝いている。

「姉さん!マジでかっこよかった!

あの北戎の蛮族の顔!犬の糞でも食ったみたいだったな!」

「あいつがまだ何か言うなら、豚の糞でも食わせてやるの」

「そうだ!そうだ!」

彼女ははしゃいでいたが、急に真顔になって私を見た。

「あ、姉さん!お前、なんで何でもできるんだ?料理もできて、詩も作れて、人を罵ることもできて、人をひざまずかせることもできて、しかも唐辛子で人を殺せる……お前、まさか天女じゃ?」

「違うよ。ただの普通の人間だよ」

「じゃあ、前は何をやってたんだ?」

私は彼女を見て、ごく普通の調子で答えた。

「人のケツを拭く仕事を専門にしてたんだ」


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