大宴
太和殿。
大燕で最も雄大な宮殿。
今、殿內には數多くの腳付きの膳が並べられ、人がぎっしりと座っている。
文官や武將、皇族や貴族、各國の使節が、黒山のようにひしめいている。
私は左側の三列目の席に案內された、皇子妃の席。
雲霓は本來なら自分の席に行くべきなのに、私の隣に座り。
「私が守るから」
周囲の高官や貴族たちはこぞって橫目で見るが、誰も何も言えない。
雲霓郡主、太后の『掌中の宝珠』、誰も逆らえない。
私はあたりを見回し、この人たちを値踏みした。
上座には太后が座っている。全身黒の禮裝、威厳と荘厳さを兼ね備えている。
太后の下座は淑妃、四十前後、手入れが行き屆いており、
顏にはプロの微笑みを浮かべているが、その目はずっと私の方に泳いでいる。
淑妃の向かいは第一公主蕭玉嬛。
彼女は今日、紫色の宮裝を著て、だらりと膳に寄りかかり、
手には酒杯をくるくる迴し、傍観を決め込むような表情だ。
さらに下座には各國の使節、大臣、そして——天極閣。
最も目立つのは北戎の使節団だ。
彼らは皮袍を著て、顎髭を生やし、がさつな座り方で、
周囲の大燕の官員たちとはまるで違う。
先頭は四十過ぎの大男で、顏中に肉がつき、目つきは陰険だ。
彼は私を一目見て、それから口を歪めて笑った。
その笑みは、見ているだけで不快になる。
雲霓が近づいてきて小さく解説する。
「あれが北戎の『左賢王』、阿史那骨篤禄っていう奴だよ。
去年、大燕には詩を詠める者はいないって挑発したのがこいつなんだ。
殘念ながらあの時は三兄がいなかったんだ!
めっちゃ気まずかった!」
私は頷き、この男を覚えた
——敵、しかも亡夫の生前の死敵。
宴が始まる。
まずは太后の挨拶、それから各國の使節からの獻上品、そして歌舞の披露。
すべては一見、ごく普通に見える。
でも——これは嵐の前の靜けさに過ぎない。
果たして、酒が數回まわったところで、淑妃が立ち上がった。
標的は私だ。
「第三皇子妃——念」彼女はにこにこと私を見ながら言った。「今日は先帝忌辰、景瀾殿下は國のために命を捧げられ、そなたは若くして未亡人、まことに気の毒なことです。しきたりでは、後輩は年長者に酒を獻じることになっております。そなたは嫁いで間もない身、まだ私に酒を獻じたことがありませんね?」
來た來た。
私は立ち上がり、杯を手にして、彼女の前に歩いた。
「淑妃様、わらわがお獻じいたします」
淑妃は笑って酒杯を受け取ったが、飲まずに私を見ている。
「この酒は私が特に用意させたものです。しっかり味わってくださいませ」
彼女は酒杯を私に差し返した。
私は下を向いて、酒杯の中の酒を見た。
色は澄んでいて、香りも良い。
でも私は知っている。この酒には問題がある。
前世でタレントを擔当していた時、こんな手口は數え切れないほど見てきた。
酒に薬を仕込み、公眾の面前で恥をかかせ、身を滅ぼさせる。
前世では、あの七人のクソどもにうかつにもやられて死んだが、
今世では同じ過ちは繰り返さない。
淑妃は私に恥をかかせたいのだ。
でもこちらは丞相の家の新入りの庶子なんかじゃない。
日本芸能界の神様だ!
私は杯を手にして。
「淑妃様のご好意、痛み入ります。しかし臣婦はただいま亡き夫のために喪に服しております。
しきたりでは、喪中は酒をいただけません」
淑妃の顏色がわずかに変わった。
「何が酒などですか。これは極上の桂花酒、差し支えありませんよ」
「わらわ、誓いを立てました。
喪中の三ヶ月間は、酒を一切口にしないと。どうかお許しくださいませ」
淑妃の表情は険しくなり、
彼女は橫にいる者に目配せをした。
その後ろにいた一人の妃がすぐさま言った。
「念妃、淑妃様が自らお酌されているの、
天下の前で、このようなお斷りは、禮を失するのでは?」
こ奴、目つきは鋭く、口調は意地悪い。
一目で事前に仕込まれているのがわかる。
そして私は無意識に周囲を観察、雲霓の手は既に刀の柄を握っている。
太后は無表情、彼女は見守っている。
七日前に私が三つの問題を解決できると大口を叩いた手前、
もし今、一人の側妃さえも満足に處理できなければ……
「それでは、お言葉に甘えさせていただきます」
私は酒杯を受け取った。
淑妃の目が輝いた、あれ、喜びの色。
「しかしこの酒は淑妃様から賜ったもの、わらわ、謹んでお受けいたします。ですから、」
私は杯を高く掲げ、できる限り優雅な足取りで窓辺に歩き、
皇陵の方角を向いた。
「この酒を以て先帝に捧げます。
天に在らせ給う御霊よ、燕の國泰民安をお守りくださいませ」
酒を地面に注ぐと、「じゅうじゅう」という音が。
地面に一片の焦げ跡が現れた。
その場が騒然となる。
「毒!」
「酒に毒が!」
皆の目が一斉に淑妃に向く。
淑妃の顏色は、極めて見苦しいものに変わり果てた。
私は振り返り、淑妃を見た。
表情はもちろん、無邪気そのもの。
「淑妃様、この酒の中には……何が入っていたんでしょう?」
淑妃の顏は赤くなったり青くなったり、しばらく言葉が出ない。
太后がゆっくりと口を開いた。
「淑妃、これはどういうことじゃ?」
淑妃は怖くなった。もし対処を誤れば、
欺君の罪で——斬首だ。
彼女は無意識にひざまずいた。
「こ、これは、わらわも存じ上げず……おそらく御膳房の者がうっかり……」
「存じ上げぬ?」太后が冷笑する。「そなた、自らが持ってきた酒じゃ。存じ上げぬと言うのか?」
淑妃の顏はさらに青ざめた。
おばあちゃん、やるな!
七皇子が立ち上がって、取りなそうとする。
「母上はきっと下賤な者に騙されたのでしょう。後でちゃんと調べればよろしい。
今日は先帝忌辰、お怒りになるのは控えられては」
淑妃はあの側妃に支えられて立ち上がり、
こそこそと自分の席に戻った。
太后は冷笑、それ以上は何も言わなかった。
しかしその目つきは、すべてを物語っていた。
私は優雅に自分の席に戻った。
雲霓が隣で興奮して私の腿を叩いている。
「姉さん!さっきの手、最高!なんで酒に問題があるってわかったんだ?」
「当てずっぽう」
「当てずっぽう!?」
「うん。毒が入ってるかどうかなんて知らない。
でも彼女が私に良いことなんてするはずないってことは知ってた。
もし毒が入ってなかったら、先帝に捧げるって言って、失禮にはならない。
もし毒が入ってたら、今みたいになる。
どっちに転んでも勝てるんだよ」
雲霓は私を見て、その目は憧れでいっぱいだった。
「姉さん、これからはもう『姉さん』って呼ぶ!……待てよ、
もし最初の一杯が無毒で、
次に毒の入った一杯をまた獻じられたらどうするんだ!?」
「そしたら言うの——二獻めは、
國のために命を捧げた亡き夫に捧げ、國家の武運長久を祈ると」
雲霓は一秒間ぽかんとして、それから親指を立てた。
「そ、それで三杯目に毒が入ってたら!?」
「三獻めは天下の民に捧げ、國土の風調雨順を祈る。
『三たびを過ぐるなし』って言うでしょ。
三回目で私が自ら飲めば、もう彼女に私を害する機會はない」
「姉さん、私は姉さんと三兄にだけは敵わないよ!」
「殘念だけど、私はあんたの義姉よ」
「違うたもん、あんたは私の実の姉だ!」
これはまだ前菜に過ぎない。本番は、まだこの先だ。




