先帝忌辰
先帝忌辰。
大燕帝國で一年で最も重要な日。
この日は、京城中の高官や貴族が宮中に集まり、各國の使節も謁見に訪れるという。
皇帝は病が重くて自ら臨むことはできないが、太后が取り仕切り、その盛況はお正月以上だとか。
私は皇子府の門前に立ち、目の前のこの豪華な馬車を見つめながら、
頭の中は一つのことでいっぱいだった。
第三問。これだけの人の前で「お墨付き」を得て目立つこと。
私を闘技場に送り込もうってわけ?
「王妃様、どうぞお乗りください」陳執事が腰を折り、顏にプロの笑みを貼り付けている。
深く息を吸い込み、馬車に乗り込んだ。
車內には既に一人座っている。雲霓だ。
彼女は今日、赤い宮裝を著て、腰にはなんと雙刀を差している。
「今日は先帝忌辰よ。あんた、赤いのを著てるの?」
「大丈夫。太后のばあちゃんは私にうるさく言わないんだ。私には赤が似合うって、おめでたいし、厄も払えるからってさ」
この子、後ろ盾があるってだけでやりたい放題だな。
皇宮中でいつでも武器を持てるのは、下の者の話では、
皇帝が雲霓だけに與えた特権らしい、
彼女が十六歳の成人宴の時、刺客が皇帝を襲い、
彼女が飛びかかって相手の武器を奪い取っただけでなく、
五人もの刺客を殺し、
皇帝の命を救ったのだという。
雲霓は私を見て、目を輝かせた。
「姉さん、今日すごく綺麗だよ!」
私は下を向いて自分の姿を見た。
未亡人の最高裝備。
真っ白な宮裝、裝飾は一切なく、腰に月白の腰紐を締めているだけ。
髪は高く結い上げ、一本の白玉の簪だけを挿す。
顏は薄く化粧を施し、清楚で優雅、そして威厳もある。
先帝忌辰、夜が明ける前に私は青児にベッドから引っ張り出された。
「王妃様、早く起きてください!今日は遅れられませんよ!」
暗殺対策に、必死の手紙書きに、軍營での冒険……ここ數日、私は疲れ果てていて、久しぶりに早く寢たのに、朦朧としたまま化粧臺の前に座らされ、青児ともう二人の侍女が私の周りをぐるぐる回り、髪を結い、眉を描き、服を選ぶ。
一時間後、鏡の中の自分を見て、自分だと気づくのに苦労した。
「似合う?」と雲霓に尋ね。
「似合うよ!天女が舞い降りたみたい!」
「今日はやけに口が甘いね?昨晚、甘いもの食べ過ぎたんじゃない?」
「なんで分かったんだ!」
「あんたの考えくらい、お見通しだよ!」
雲霓はにへらと笑い、近づいてきて小さな聲で言った。
「うちの嬛姉さんが言ってたんだ。今日、姉さんは絶対にみんなの注目の的になるから、私がちゃんと守れって」
「うちの嬛姉さん?で——蕭玉嬛のこと?」
「そうそう!今日は絶対に誰かが姉さんに絡んでくるって、淑妃とかさ。彼女が私に、一瞬たりとも姉さんから離れるなって」
そうだよね。「棺桶から這い出た第三皇子妃」は、絶対にみんなの注目の的だ。しかも、穴が空くほど見られる。
よし。前世で記者に追いかけ回されても平気だったんだ。
古代人相手に、これ以上難しいわけがない!
雲霓の笑顔を見て、この子は本気で私の味方になる決心をしたのかも。
「いいわ。じゃあ、よろしく頼むわね」
雲霓は腰の刀を叩いた。
「任せといて!あんたは私の義姉で、しかも姉さんでもあるんだ!誰かがちょっかい出したら、その場でぶった斬ってやる!」
馬車が動き出し、皇宮へと向かう。
道中ずっと、雲霓はぺちゃくちゃと喋り続ける、
「姉さん、知ってる?今日は北戎の奴らも來てるんだぜ」
「姉さん、あの北戎の使節って奴がめちゃくちゃ嫌な奴でさ、去年なんか公衆の面前で大燕には詩を詠める者はいないって嘲笑ったんだ」
「姉さん、淑妃は今日絶対に何か仕掛けてくるよ。あの女、目立ちたがり屋だからさ」
「姉さん、七兄も來るんだ。気をつけろよ。奴、表面はニコニコしてるけど、腹の中は真っ黒だからな」
彼女のおしゃべりを聞きながら、私は別のことを考えていた。
先帝忌辰。
第三皇子の祖父であり、太后の夫。
もし彼が本当に生きているなら、こんな日、彼は來るだろうか?
それともまだ棺桶の中に橫たわっているのだろうか?
馬車が宮門の前に止まった。
私は降り、顔を上げてあの高い宮門を見た。
朱塗りの門、金色の鋲、入り口には二列の禁軍が立ち、その目つきは刃のように鋭い。
雲霓が私の手を引いて中へ歩く。道すがら、たくさんの人とすれ違う。
「見ろよ、あれが第三皇子妃だ」
「棺桶から這い出たってあの?」
「聞いた話じゃ、庶子で、正妻に身代わりに出されたんだと」
「まあまあの顔ね、殿下がなぜあんなのを娶ったのかしら」
ひそひそ話が蝿のように耳元でぶんぶんと鳴る。
私は表情一つ変えずに前に進む。
雲霓の顔色はどんどん黒くなっていく。
ついに、命知らずな貴婦人が「夫を死なせた疫病神」と口にした時、彼女が爆発した。
私はようやく目の当たりにした、いわゆる「雲霓式お守り」というものを、
これはまさに皇帝待遇だ。
彼女は「シャッ」と雙刀を抜き放ち、左右からその婦人の首に当てた。
「もう一言でも言ったら、その首を大叔父様の墓前に供えてやるからな!」
その場は水を打ったように靜まり返った。
婦人は顔を真っ青にし、唇をわなわなと震わせ、
まともな言葉一つ出てこない。
雲霓の袖を引いた。
「雲霓、刀をしまいなさい」
「命拾いだな!」
雲霓は不満そうにその婦人を睨みつけ、刀を鞘に収めた。
「姉さんは優しすぎるんだよ。私だったら、舌を切り取って犬にやるのに!」
「雲霓、あんたは護衛なのか、それともヤクザなのか?」
雲霓は刀を鞘に収め、首をかしげた。
「『ヤクザ』?なんだそれ、なんか強そうだな!」
そして急に目を輝かせる。
「よし!今日から俺はヤクザだ!姉さんを守るヤクザだ!」
私は彼女の頭を軽く叩い。
「行こう、本題に行くわよ」
雲霓は「おう」と頷き、素直について來る。後ろのあの連中はまだその場で震えている。
この子は、どうやら昔は本当に彼女の三兄にしか従わなかったらしい。




