刺客 & 書斎の秘密區畫
皇子府に戻った時には、すっかり夜が明けていた。
陳執事が出迎え、私が無事なのを見て、明らかにほっとした様子だ。
「王妃様、お夕食の支度が……」
「急がないで」と「まずは薪小屋に連れて行って」
「薪小屋で?」
「ええ。お客様をもてなすのよ」
陳執事はきょとんとしていたが、それでも私を薪小屋に連れて行った。
薪小屋では、あの刺客がぐるぐる巻きにされて地面に放り出され、まだ気を失っている。
陳執事を外に出させ、扉を閉めた。
そしてしゃがみ込んで、その男を見た。
二十歳そこそこ。痩せて小ぎたない、いやらしい顔つきだ。
黒裝束をまとい、腰には天極閣の札が下がっている。
彼をひっくり返して、手首を調べた。
入れ墨はない。
昨夜の刺客とは違う。
昨夜の刺客の手首には、北斗七星に模様がついた入れ墨があったが、この男にはない。
さっきの男は天極閣の者じゃない?
それとも、さっきの男はもっと上の者だということ?
そう考えていると、その男が目を覚ました。
彼は目を開け、私を見て、一瞬間を置いた。
それから彼はもがき始めた。
「無駄よ。二十一世紀の縛り方、あんたにはほどけないわ」
彼は私を睨んだ。「お、お前は、いったい誰なんだ?」
「あなたたち、私を殺そうとしてるんじゃなかったの?」
彼の顔色が険しくなった。
「お、お前は……第三皇子妃?」
「うんふふ」
彼の私を見る目は、ゴジラを見るかのようだ。
「さあ、いくつか質問するわ。正直に答えれば、楽に殺してあげる」
彼は歯を食いしばり、何も言わない。
私はため息をついた。
「あんた、私が誰だか知ってる?コードネーム、鈴木彩夏。日本帝國で最強PR女王よ。PRが何をするか知ってる?人に本当のことを言わせる専門家なの」
彼がPRとは何かを知っているはずがない、たが、本能的に後ずさった。
私は袖から一つの包みを取り出し、彼の目の前で振ってみせた。
「これが何か分かる?」
彼は首を振った。
「胡椒と粗塩よ」と「傷口に振りかけて、その上から蜂蜜を塗るの。そうすれば、すぐにでも死にたくなること請け合い!試してみる?」
「お前、正気か!」
今度は彼の私を見る目は、閻魔大王にでも會ったかのようだ。
「さあ、試してみようか!」
「わ、わ、話す……」
一時間後、私は薪小屋から出てきた。刺客は知っていることをすべて白狀した。天極閣は確かに七皇子の配下であること。昨夜の刺客は天極閣の者ではなく、誰かは知らないこと。今日の矢の刺客は天極閣の者で、任務は「探り」だったこと。
何を探る?
私が本当に第三皇子の庇護を受けているかどうか。
敵も笑っちゃうね!
第三皇子の庇護?
あの死人、自分さえ庇えないのに、よく私を庇えるなんて?
でもこの言葉は口にしなかった。
ただ陳執事に刺客を京兆府に送るように言い、それから正院に戻った。
青児がもうお湯を用意してくれていた。
私は桶に浸かり、目を閉じて、今日得た情報を整理した。
第一に、三皇子は生前に確かに多くの伏線を殘していた。あの冊、あの手紙の折り方、あらかじめ書かれたあの手紙たち、すべてが証拠だ。
第二に、誰かが私を殺そうとしている。それも複數の勢力だ。昨夜の刺客と今日の奴は、一味じゃない。
第三に、雲霓あの娘は、本当に私を守っている。
第四に、あの軍需官は、口にしたことより多くのことを知っている。
第五に、三皇子……
目を開け、天井を見た。
お前は、いったい死んでいるのか、生きているのか?
入浴を終え、私は書斎へ行った。
軍需官の話では、書斎に秘密の區畫があるはずだ。
しばらく探したが、最後に本棚の後ろに一つの凹んだ場所を見つけた。中に一冊が入っている。
あの老人が私にくれたのと同じものだ。
開くと、中にはやはりあの兵士たちの名前と家族のことが書いてある。
でも一ページだけ増えている。
最後のページに、一行の文字がある。
「もしお前がこの冊を目にしているなら、それはお前が軍營での祭奠を成し遂げた証拠だ。おめでとう。次にお前は、真の敵に直面することになるだろう。天極閣に用心しろ、淑妃に用心しろ、七弟に用心しろ。そして、第一公主に用心しろ。彼女の知っていることは、お前が考えるより多い」
この一行の文字を見て、心臓が一瞬止まった。
第一公主に用心?
彼は何を知っている?
さらに読み進める。
「敵ではない。だが、彼女の知る秘密は、彼女を敵に変えかねない。彼女を守れ、雲霓も守れ。彼女たちは、この世で私が最も心安らげない者たちだ」
「最後に、もしある日、お前が私が死んでいないことに気づいたとしても、怒るな。私は本当にお前に會いたいのだ」
最後のその言葉を見て。もしある日、お前が私が死んでいないことに気づいたとしても?
彼は何かを暗示しているのか?
それともただの気まぐれな言葉か?
書斎を出ると、月がもう昇っていた。
庭に立ち、月明かりを見つめながら、頭の中はぐちゃぐちゃだった。
その時、暗衛が現れた。
彼は屋根から逆さまにぶら下がり、私の前に現れ、手に一通の手紙を持っている。
「王妃様、主君がお屆けするよう命じられました」
私は手紙を受け取り、開けた。
中には一枚の紙切れ。
「今日はやったな。特にあの『彼は直接言えなかった、皆に軟派だと思われるのが怖かったから』って台詞。実際、私は言えなかった。だからお前が代わりに言ってくれて、すごく満足してる。、口数の少ない男より」
本気かよ、私が彼を「軟派」って罵ったことまで当てるとか!すごすぎる!
紙切れを見て、思わず笑いがこぼれた。
「口数の少ない男」?
今日だけで二通目なんですけど。
紙切れをしまい、顔を上げて暗衛を見た。
「彼は本当に百三十七通の手紙を書いたの?」
「はい」
「殘りはあとどのくらい?」
暗衛は少し考えた。
「このペースでいくと、あと三ヶ月は持ちますかね」
三ヶ月で、百通。この人……
「そうだ、あの刺客、あなたたちが処理したの?」
「はい」
「京兆府に送った?」
「いいえ。雲霓郡主様が途中で奪われました」
「彼女が何のために?」
暗衛の表情が微妙に歪んだ。
「彼女が言うには……自分で尋問すると。王妃様にご安心いただけるよう、暴力は使わず、王妃様を見習って唐辛子パウダーと塩で対処する。尋問が終わったら情報を共有すると……」
唐辛子パウダーと塩……あいつ、可哀想に!
この子、本当に私の「子分」になりたいのか?
目が覚めると、外はもう明るくなっていた。
青児の聲が外から聞こえてくる。
「王妃様、雲霓郡主様がまたいらっしゃいました!」
ため息をついて、起き上がった。
この子、私のことをチェックインスポットか何かだと思ってるのか?
上著を羽織り、扉を開けた。
庭に、雲霓が腕を組んで立っている。興奮した面持ちだ。
「姉さん!尋問終わったよ!」
彼女は走ってきて、私の手を取った。「あの刺客、天極閣の奴だったんだ。でも一つ言ってた――昨夜の刺客は彼らの仲間じゃないって。別の勢力の人間だって!」
私は彼女を見て、続きを待った。
「あの勢力の奴は、手首に入れ墨があるんだって。北斗七星に一圈の模様がついてるやつ。それは、」
彼女は一瞬間を置き、聲を潛めた。
「それは摂政王の印なんだ」
摂政王?第三皇子の実の叔父で、三十萬の北境軍を掌握している親王?
雲霓は私を見て、真剣な顔で言った。「姉さん、気をつけて。摂政王って奴は、七兄より百倍悪いんだ。あいつがもしお前を殺そうとしたら、お前は本当に死ぬぞ」
彼女を見て、胸の中に不思議な感覚が湧き上がった。
攝政王、淑妃、七皇子、天極閣。そしてあの棺桶に橫たわる私の夫。
この連中は、いったい何を爭っているんだ?
皇位?それとも別の何か?
深く息を吸い込み、言った。「行こう、第一公主のところへ」
雲霓がきょとんとした。「私の姉さんのところへ何しに行くんだ?」
「お茶を飲みに」と「彼女は三日後に行こうって約束してたけど、今日行ってもいいかなって」
雲霓はぱちぱちと瞬きした。意味がわかってないようだ。
でも私の心ははっきりしていた。
第一公主の知っていることは、私が想像するよりずっと多いかもしれない。
そして彼女が三日後にお茶を飲もうと言ったのは、もしかしたら私が自ら彼女のところに行くのを待っていたのかもしれない。
服を整え、雲霓に言った。
「案內して」
雲霓はにっと笑った。「まかせとけ!」
彼女は先に走り出し、腰の雙刀が揺れ、背中の銀の槍が陽光を受けて輝いている。
彼女の背中を見て、急に思った、
この子分がいるのも、悪くないかも。




