2話 男すら、落としかける男
アルクス・フォルージャ。
ルージュと同じAランク冒険者の肩書きを持ちながらも、そのことを一切鼻にかけない謙虚さ、誰にでも分け隔てなくなく接する温和な性格。
そこに持ち前の顔面偏差値が加わり、アイドル的存在へ昇華している。
「おー、アルクス! 今日は依頼を受けるのか!」
「うん、最近はダンジョン探索ばっかりだっからね」
「また飲みに行こうぜ!」
「そうだね、ガナートさん。でも、今度は潰れないようにしないと、また奥さんに怒られるよ」
アルクスに話しかけているのがほとんどが男だ。
女の冒険者は、うろうろとしていたり、足を出そうとして止めていた。
その理由は火を見るより明らかであり、視線は後ろのパーティメンバーへと注がれている。
不安感、あるいは劣等感を感じているのか。
はたまた別の感情なのか。
なんにせよ、彼女たちの存在によって話しかけられないのは見てて良く分かる。
「相変わらず凄い人気だね〜。アルクスは」
本当にね。
同じAランク冒険者なのに、なんでルージュの周りには全然人が寄ってこないんだろうね。
「あ、また失礼なこと考えたでしょ」
「いや? 全然」
平静を装っているが、内心かなりドキドキしている。
こんな嬉しくないドキドキがあるだろうか。
なんで俺の考えを当ててくるんだよ。
勘が鋭くて怖い。
あー、どうせ絡まれるなら、こんな人の嫌がらせ顔を見て喜ぶようなサディストじゃなくて、もっとお淑やかで女の子らしい子に絡まれたい。
やっぱり、優しい子がいいよね。
「あの〜、ルージュ、さん?」
「ん〜? なぁに?」
「なんで、いきなり頬をつねるんです?」
「なんか、ヨウルがムカつくことを考えてそうだったから、かなぁ」
勘だけで俺の頬は千切られそうになってるのか。
すげー痛いんだけど。
だが、これは仕方のないことだ。
俺は確かに失礼なことは考えていた。
ここはパンみたいにむしられないようにだけ、祈りながら耐えるとしよう。
「や、ルージュ」
頬から痛覚がなくなり始めたところで、引っ張られていた頬が帰ってきた。
おかえり。
「やっほー、アルクス。久しぶり〜」
「そうだね、会うのは随分久しいね」
「ねー? 三ヶ月くらい?」
「うーん、僕もあまり自信はないけど、それくらいなんじゃないかな」
じんわりとした熱を持った右頬をさすっていると、アルクス一行がやってきた。
なにやら、楽しげに会話が弾んでいるな。
誰も意識が俺に向いていない、つまりこれはチャンスだ。
「そういえば、なんであの人の頬を引っ張っていたんですか?」
あの場から離れて受付に並んでいるが、アルクス一行とルージュの視線がこちらへ向いているのが分かる。
当然ながら、無視だ。
聞こえてないふりをしてクエスト書を眺める。
「はーい、ヨウルくんこっち来ようね〜」
俺の都合などお構いなしに、ルージュに服を掴まれてズルズルと引きずられていく。
うん、分かってたよ。
お前はこっちの事情なんか考慮するような心を持ち合わせてないよな。
「はい、こちら私のおも……友達のヨウルくんです!」
こいつ、絶対におもちゃって言おうとしたよな?
「ほら、頑張って!」
何をどう頑張れと?
自己紹介でもしろってか?
ぼっちでロクな会話術など持っていないC級冒険者がA級冒険者相手に?
隣のルージュはすごく良い笑顔で親指を立てていた。
一発くらいグーで殴ってやろうかなと、結構真面目に考える。
「僕はアルクス・フォルージャ。よろしく」
「え、あ、どうも。ヨウル・ライアンです。よろしくお願いします」
爽やかな笑顔に見惚れてしまった。
気がつけば、アルクスと俺の右手が握手をしていた。
え、すごい。
こんな自然に握手ってできるものなのか。
「ヨウルは今からクエストに?」
「まぁ、はい。そうですね」
「今日はソロなのかい?」
「………はい。今日はというよりはずっとソロですけど」
笑いを取ろうと自虐してみたんだが、効果はない。
と、思ったが効果はあった。
後ろの三人組がすごく微妙な顔をしている。
マイナスの方面に働いてしまった。
「ずっとソロなんてすごいね!」
「え?」
「僕も何度かソロでダンジョンに潜ったりクエストを受けてみたから分かるんだけど、ソロで活動するなんて中々できることじゃないよ」
「いやいや、それは俺がC級で楽なものばっかり選んでるから」
「そんなことないよ。ソロは一人で全部をやらなきゃいけない。それをずっとなんて凄いことだと思う」
え、すごい褒めてくれる。
めっちゃ嬉しい。
「僕なんてリーダーでありながらみんなに助けてもらってばかりさ」
「いやいや、絶対にそんなことないでしょ」
「あはは、ヨウルは優しいね」
肩をすくめて苦笑いを浮かべるアルクスは外見も仲間もイケメンである。
ときめきそうだ。
俺が女だったら恋に落ちてたかもしれない。
みんなに好かれる理由がよく分かる。
「あ、そういえば。ヨウルは今からクエストだったよね?」
「え?」
「あ、そういえばそうだったね。すまない、大切な時間を奪ってしまって」
ルージュのせいで、なんか終わりそうな雰囲気になった。
何してくれとんじゃあ!!
せっかく楽しく会話ができて、もしかしたら友達になれたかもしれないのに、こいつはぁ!!
「また暇な時にで良いから、話してくれたら嬉しいな」
「あぁ、今日はありがとな」
俺は受付に並び直した。
そういえば、なんか自然と砕けた口調になってしまった。
恐るべし、アルクス。
「私もそろそろダンジョンにでも潜ろうかなー」
「ルージュも気をつけてね」
「うん、じゃねー」
そのままギルドを出るのかと思いきや、ルージュは俺の方へ駆け寄ってきた。
来なくていいのに。
「良かったねー、私がいて」
「うぐっ……」
「感謝してくれてもいいんだよ?」
確かにそれはそうだ。
こいつがいなければ、俺はアルクスと話す機会なんてなかった。
そこは素直に感謝するべきところだな。
「あ、ありがとう」
「はい、どういたしまして! あ、でも途中で会話切っちゃってごめんね? わざとじゃないから許してね?」
やっぱわざとだよな?
可愛くウィンクしたつもりなのだろうが、俺の殺意が増すだけだぞ?
さっきまでは二割くらいは感謝していたが、今ので消えてしまった。
アルクスとはまた話したいが、しばらくルージュとは会いたくない。
また来る時間ずらすか。




