見落とした可能性
夕食を終え、いつも通りの洗い物。
やっぱり冬と言えば豆腐鍋。
異論は認めない。
因みに、肉はだしが入ってるだけなら避けさえすれば他の物が食べられる。問題無い。
姉ちゃんは今日も明日も仕事。
風呂に入り、後は寝るだけの時間帯。
洗い物をしながら考える。
秀介の噂話について。
他の学年の間で流れているらしい噂。
しかも華音ちゃんが前に通っていた学校でも同じような噂が流れていた。
何の為にを考えても結論が出そうにないから、どのような経緯で伝わったのかを考える。
楓が調べた情報では、あの時館(怪1参照)にいた全員が知らないと言ってたし、情報規制もかけられた。
だからあの場から噂に発展した可能性は低い。
であるなら。
握り拳を握っているのが自分でも分かった。
秀介が犯罪を計画し、準備をしている最中にどこかから漏れたと考えるのが妥当。
水の流れる音だけが響く中、1つの可能性を思いつく。
……秀介の遺書は、間違い無く本人が書いたものだろう。
そして、秀介は俺を誘った時、キラークイーンとメールのやり取りをしていたと言っていた。
実際はそれが嘘だから、メールの履歴を見られないように。
だから秀介はスマホを持っていかなかったと思ってた。
遺産の事も、華音ちゃんが回復したから事実。
……でも、秀介の噂が流れた事実を重ね合わせると、1つだけどうにも気になる事がある。
今の所、それ位しか思いつかないけど、どうにも的を得てるような気がしてならなかった。
秀介とメールのやり取りをしていたキラークイーンが、本当にいるのではないか。
だとしたら。
キラークイーンは、誰なんだ?
倉田さんと楓に、頼んでみるか。
洗い物を再開しようと思った矢先、インターホンの音が鳴った。
由佳か?
丁度風呂からあがった姉ちゃんが『由佳ちゃんねー待っててー』と大声で言いながら玄関へ向かった。
と思ったら姉ちゃんがやって来た。
何だ?
「翔太。あんたにお客さん」
え?
コタツで最近やってるアイスを食べに来るんじゃなくて?
姉ちゃんに案内され、やって来た華音ちゃんに目を見開いた。
俺に良く見えるように、黒いノートを持っていた。
チャンスだと思った。
翔太さんがどのように事件を解決しているのか、とても興味があったし何より。
邪魔が一切入らない状況で翔太さんに兄さんの事について聞けると思った。
けど、あくまで目的は殺人を防ぐ事。
邪魔をする気は無い。
以前、翔太さんに届いたものと同じ、ですよね?
単刀直入に聞くと、お姉さんは翔太さんを意味深に見た。
……失敗したと思った。
前回翔太さんの元に黒いノートが来た時は、お姉さんが来る前にノートをどこかに仕舞ったのを思い出した。
お姉さんは何を言う訳でもなく翔太さんを真剣に見て、翔太さんは色々考えているように見えた。
そんなお2人は兎も角、私は兄さんの噂の真実を知りたい。
「噂は噂だよ。華音ちゃん」
それなのに、翔太さんの表情を見ると。
「それより黒いノート、見せて」
嫌です。
はっきりと私は拒絶した。
兄さんはもう戻らないのは知っている。
だから空白を取り戻りたいと願った。
それだけのただ、独りよがり。
翔太さんは押し黙り、お姉さんはただ黙って話を聞いていた。
私の意志は、簡単には曲がらない。
例えノートの文章通り、翔太さんが死んだとしても。
「詳しく話しなさい」
お姉さんにも話していなかったのは意外だった。
文面を今一度見た。
桜庭楓 忠告をしておく。
吉野翔太君が何らかの依頼をして来た場合、断る事をお勧めしよう。
彼は必要不可欠なピース。
殺しはしない。
……が、君が来ると言うのならその限りではないだろう。
コピーでもしているのかしらと思う程の、同じ文章が書かれていた。
……翔太君に出来る限りの情報を伝える位しか役目が無い事を悔やむ間にも。
確実に動いてくるものがあるから。
傍から見たらただの引きこもりねと、笑う余裕がいつまであるのか。
今は何も起こっていない。
そう考えても、胸の内にどうしようもなく沸き起こる嫌な予感。
翔太君に場所だけを聞いておく。
私を連続してノートによって牽制する理由は、恐らくだけれど調べられたらまずい情報を持っているからかもしれない。
だからここで久遠の思惑を上回らないと、翔太君が殺人を防ぐ事が出来なくなる可能性が高い。
そんな方法があったら良いのにと思いながら。
今年は珍しく、朝から雪が降っていた。
この状況では、嫌な予感しかしなかった。
カーテンを開け、もう出発しただろう翔太を室内から見送った。
気をつけなさいよ。翔太。
翔太さんが、迎えが来るからと、待っていたら来たのは何と森田さんと桜庭さんだった。
そんな迎えのリムジンの中、桜庭さんは只管翔太さんといちゃついていた。
「楓、離れて……」
言葉とは裏腹に、翔太さんの表情は満更でもない様子。
「由佳ちゃんがいない時位良いじゃない」
……翔太さんの女性関係が良く分からなかったけど、由佳さんじゃ嫌だと言う事なのだろうか。
「そう言う問題じゃなくて!」
けど、そんな事はどうでも良かった。
「どうかしたのかしら?」
昨日は眠れなかった。
本当に、兄さんが?
人殺しをしてしまったなんて。
ズキン。
頭が痛むのは、きっと眠れなかったと言う事実に対するものだった。
噂の真相を確かめたいなんて、嘘だったのかもしれなかった。
本当じゃなければ良い。
違っていたって言う願い。
翔太さんと桜庭さんは、真顔で私を見ていた。
本当に、兄さんは人殺しをしてしまったのですか?
桜庭さんにも聞いたのは、それは違うと言って欲しかったからかもしれなかった。
ただ目を閉じ、言い難そうにして欲しくなかった。
「……ええ。事実よ」
翔太さんがここまで来て嘘をつくなんて思えなかった。
それでも……。
ズキン。
頭を無理にでも切り替える。
問題は、その事件がきっかけで、噂がたったと言う事なのだろう。
「それは違うわ。外に情報が漏れないようにしたのだから」
「それに。事件関係者は全員噂話を知らないと、楓が確認してる」
……なるほど。
事件を知っている知らないに関わらず、噂が何故流れたのかは分からない。
刺されるような痛みに、思わず頭を抱える。
「話さなかった事はごめん」
翔太さんのお気遣いが、胸に刺さった。
以前に来た時は枯葉が散っていたけれど、今は綺麗な雪景色と化していた。
何者かが調べ回っているこの館で、連続殺人予告。
……なるほど?
予想はしていたけれど、これで確信に変わったみたいね。
人1人が通れる幅の橋は、来る者を拒んでいるのかしら。
大雪の中でも羽ばたいている烏の鳴き声は、変わらず不気味だった。
そして、ぽっかり開いた大きな森の穴の中央に建っている孤島のような場所にそびえ立っている館。
まるで宮殿を思わせるような外装。
針のように鋭い槍が無数に突き出たような高い塀は、閉塞感が溢れているよう。
謎めいた呪いがあるらしい、その館が見えて来た。
私達が来れるのはここまで。
そしてその先は翔太君。
貴方に預けるわ。
リムジンが止まり、呪恨館がより大きく、より不気味に見えた。




