音天照
それでも信じていたかった星さんは。
自分の仕掛けで死んで行く姉と兄に、何を思ったのだろう。
蛍は飛び、綺麗だった。
同時に、闇の部分にどうしても目が行ってしまう。
目を見開いた星さんから、深過ぎる闇を見た。
ここで星さんが何を見ようとしてたのか、何となく分かった。
きっと、本当に何も無かった昔に見た風景を見ていた。
きっとまた見れると思っていたのか。
もう見れないと思っていたのかは分からない。
「性悪説が正しかったのかもしれません」
星さんの表情は。
もう、何もかもどうでも良いと言っているようだった。
「どこに、善はあるのでしょうか」
俺達と出会っていたら。
何てifはもう無い。
星さんは空の方を向き、涙を零した。
「……結局、何もかも無くなれば良いのかもしれませんね」
でも、その言葉は嘘だ。
誰かに伝えるのではなく。
自分自身に言い聞かせているかのよう。
実際に星さんを殺そうとした。
俺には信じられない。
だけど。
その事実を受けてさえ。
まだ何かを信じているのではないのか?
だから言った。
本当にそう思っているのかと。
翔太さんと由佳さんからは、音しか感じませんでした。
それは今も変わりません。
私にとって、声は悪意。
音は善意。
ヴァイオリンの音と同じ。
弾いている間だけ、私に気持ちが向いています。
他の人とずれていて構いません。
私にとって、一番重要な事ですから。
「殺された3人がやった事を許せとは言わないし思わない」
ほら。
翔太さんの言葉は、まさに音。
私の事を、只管思って下さっています。
「でもさ、星さん言ってたじゃねーか。目が見えなかったからこそ手に入れたものもあるって」
もう少し早く出会えていたらと言う話は、出来ません。
翔太さんが事件を解決していなかったら、私と出会えませんでした。
「それは、星さんにとって無くなって良いものじゃねーだろ」
……そうでした。
手に入れたものもありました。
声と音を聞き分けられます。
それと、少なくとも、私にとって良いと思える人が3人はいる事を知れました。
「貴女は、翔太を利用して、嬉しかったの」
……。
由佳さんの声が、ズキリと痛みました。
あたしも、星さんの境遇は悲惨だったと思う。
だけど、翔太を利用して連続殺人をしたのは、違うと思った。
何が違うのかなんて分からない。
それでも、あたしは殺人の為に翔太の気持ちを利用した星さんを、許せない。
「私は、もう悪に染まってしまいました。翔太さんを、分かってて利用しました」
違う。
そんな事はどうでも良い。
どんな理由があっても許されないけど、それしか方法が無かったのも理解してるから。
納得はしない。
「由佳さん。翔太さん。すみませんでした」
星さんは目を見開いた。
星さんの闇に比べたら、あたしが言ってる事なんて小さい事かもしれない。
だけど、そのせいで殺人を犯した人を知ってるから。
「俺は別に……」
翔太は詰めが甘い。
それが悪い所であり、良い所。
「翔太さんを、大切にしてあげて下さいね」
……。
翔太はそっぽを向いた。
あたしは……分かってますと怒鳴った。
響さんは、何を思っていたのだろう。
「行こうか」
倉田さんが手錠を持ち、星さんに1歩詰め寄った。
盲目の連続殺人が、静かに幕を閉じようとしていた。
ヘリの轟音が響いた。
空を見上げた。
縄梯子?
誰かが捕まっているのだけは辛うじて分かった。
「館華星」
拡声機でもつけているのだろうか。
忘れもしない声が響いた。
一瞬の出来事だった。
考える暇も与えられず、星さんは声の主に抱かれ、気付いた時には星さんは久遠によって空中を漂っていた。
必死に手を伸ばしたが、届かなかった。
星さんが手を伸ばしかけて、止めた。
「翔太さん。貴方のような方だけなら、絶対に犯罪なんて起きなかったと思います」
久遠正義。
お前は一体何がしたい?
盲目の人間に犯罪を犯させて。
それがお前の望みなのか!
「そんな世界をいつか見たいです」
「また会おう。吉野、翔太」
久遠はそう言い、見えなくなった、
ただただ、歯を食い縛った。
「私だ。急いでヘリを出してくれ。 ……指名手配犯久遠正義を追うんだ!」
お前だけは許さない。
絶対に許さねえ!
盲目少女は泣いていた。
私はただ、どうだったかと尋ねた。
「貴方の仰る通りでした」
……そうか。
現実を突きつける。
必要不可欠の過程。
だが、それがしばしば、仇になる。
私は盲目少女に賭けた。
「そんな世界でどうして貴方は? 何をなさるおつもりなのですか?」
盲目少女は尚も、泣いていた。
全てを突きつけ、少女の全てを壊した。
言うのは義務と考える。
君のような人が。
笑っていられる、世界。
「私のような?」
いい加減。
憎しみの連鎖に疲れ果てているのだ。
人類は。
だから必要なのだ。
0の、世界。
「0の世界?」
私は少女を救い切った。
だからこれから先は、少女の自由。
選択肢を与える為に告げた。
君も、来るかな?
少女は、ただ泣きながら頷いた。
「1つだけ、お願いがあります」
何なりと。
少女は目を開いた。
闇が詰まり切った、その目が良く見えるように。
「この世界を、自分の目で見たいです」
まだ、少女は信じているのかもしれない。
私はただ、頷いた。
「人の善悪は、簡単に、変わってしまう。今回の事件は。果たしてどちらが善か。果たして悪なのか。吉野翔太、考えると良い」




