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カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~  作者: 広田香保里
怪7 蛍火館の性悪
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 帰って来た翔太にエルボースマッシュをかましたけど、反応が返ってこなかった。

あいつと何をしてるのか。

色々聞きたい事はあったけど、何かあったのだろう。

あろう事か由佳ちゃんまで連れて行って。

昔とは逆だと思った。

爺と婆が死んで。

立ち直るまで、由佳ちゃんには感謝してもしきれなかった。

だから後で聞こう。

有村君の事についても。



 学校での翔太さんは、元気が無いように見えた。

明らかに何かあったと言っていた。

けど、聞けなかった。

兄さんについて聞きたい事が山ほどあるのに。

無理にでも聞こうとすると、由佳さんに止められた。

むぅ……。

ガードが固い。

翔太さんから話を聞かないと、何も分からない。

物陰から覗いている先にいる翔太さんは、小さく見えた。



 自分で助けたと思った人が連続殺人を犯した犯人だった。

俺を利用されたのは別に良い。

それでも、言い切れないやり切れなさが残った。

犯罪を防ぎたい。

これから先も利用される可能性が高い。

目の前の犯罪を防ぐ。

それだけじゃダメだった。

落ち込んでる訳じゃない。

あいつを捕まえるって、秀介に誓ったから。

だけど、気持ちだけで実現出来る程世の中は甘くない。

ましてや相手はあらゆる学問においての専門家。

その肩書きを捨ててまでやろうとしてる事は分からない。

でもただ止める。

望みじゃなくて義務。

そんな気がする。

それでも、やりきれない気持ちになってるのは。

星さんが犯した罪を、心の底から悪い事だと思っていなかったから。

色々な証拠が出て来た。

岳さんのPCのデータには殺人計画書。

雅さんが行おうとしていた会社の独立。

星さんが川に落ちた事故については証拠も無かった。

俺は姉ちゃんを本気で殺そうと思った事なんか無い(冗談で言った事は何百回もある)。

家族を。

姉弟を殺すってそれ程の事だと思ってるから。

なのにそれを当たり前のように計画し、実行してしまう。

……理解など出来る訳が無かった。

広げた弁当はどれも旨そうだった。

姉ちゃんが珍しく(初めて)作ってくれた。

好みを良く理解された献立。

食べる気が起きなかった。

「食べないの?」

 うるせー。

そんな憎まれ口を叩いてしまう。

それを由佳も分かってるからだろう。

怒りはしなかった。



「なあ」

 翔太はあたしに話し掛けてきた。

「何が良くて、何が悪いんだろう」

 あたしが翔太に言った事。

他にも色々と考えてる事があるんだと思う。

情報が、色んな人の気持ちが。

だから結論が出せないでいる。

「星さんの事、悪いと思い切れない」

 うん。

あたしだってそう。

星さんに何があったかを知ってしまった今。

星さんの立場にいたらどうしたかなんて分かんない。

「……そっか」

でも、これだけは言えると思った。

正しいか間違っているかは分からないけど。

法で裁かれないといけない。

そうでしょ? と翔太に言った。

「法で裁かれるのと、良いか悪いかは別……か」

 それさえ、正しいかなんて分からない。

殺人を犯すだけの想いを知ってしまったから。

「それが星さんの為にもなるか」

 翔太の表情は、少しだけど元気が見られた。

それで良い。

深く考えて動けなくなる位なら、とにかく歩いた方が良いと思うから。

スマホの着信音が響いた。

「俺のか?」

 翔太はスマホを取り出し、画面を見た。

「知らない番号」

 首を傾げながらも翔太はスマホに出る。

「もしもし」

 翔太は目を見開いた。

あたしには何が起こったのか、分からなかった。

『指定の場所に、来てくれるかな』



 光を遮られた暗い中、1人歩く。

犯罪を犯すのであればこう言った場所が好都合ではあるが、今の時代。

誰も通らないのが普通。

だからこそ堂々と歩く事ができる場所である。

呼び出した相手は、大分前から待機している事だろう。

警察を呼ぶ時間を用意したのはその為だ。

しかし、本気で捕まえるなら、現場待機は一番非効率なやり方だ。

だから吉野翔太を呼び出した。

警察にとっての。

切り札と倉田拓也も分かっているだろうに。

ゆっくりと外への蓋を開け、そして気付かれないように焦らず素早く、目的の有料駐車場へ向かった。



 辺りを見渡した。

まだ誰も来ていない。

久遠は何を考えている?

「吉野、翔太」

 ハッとした。

振り向くと、呼び出した張本人。

久遠正義がそこにいた。

真顔の筈なのに。

悪意が。

残虐さが。

滲み出ているように見えた。

考えを振り払い、何の用だと聞いた。

久遠は拳銃を出した。

構えてこそいない。

周りをけん制する為だろう。

「何、君と話を、したくてね」

 怒りがこみ上げて来る。

平然と全てを利用して殺人を繰り返すこいつに。

そして捕まえると言いながら、動けないでいる自分に対して。

「ドライブでも、しようじゃないか」



 拳銃を出した理由は、恐らく我々へのけん制だろう。

吉野君を警察が囲んでいては奴は来ない。

だが、待ち伏せていては吉野君を人質に出来る。

他に方法が無いか考えるが、久遠は来ないだろう。

引き金から指を離し、拳銃を強く握り締めても、状況が変わる事は無かった。



 吉野、翔太。

車に乗っても警戒を解く事は無かった。

それで良い。

相反する存在であるべきだ。

そんな敵に聞いた。


 いかがだったかな? 盲目少女の、連続殺人は。


「……」

 後味が悪いように見える。

後味など、関係無いのだ。

盲目の少女は、あのままでは殺されていた。

そして少女は、この世に必要とされるべき存在。

理解する必要は無い。

「殺したのか?」

 意外な言葉に笑いそうになってしまった。

殺す訳が無い。

その言葉を、信じていないようだが。

「生きてんなら良い」



 そんな話をしに来たのか?

これがお前のやりたかった事なのか?

車が走る音だけが響く。

てめえの目的は何だ。

「良い具合に、未来の犯罪を防げて。嬉しい、限りだ」

 ふざけんじゃねーよ!

実の家族に殺し合いさせてこんなのがてめーの望んでる事なのか!?

「なら彼女は殺されて、良かったと?」

 ……。

あのまま行けば、死んでたのは星さんだ。

そして俺が行かなかったら。

そんな事実さえも漏れる事は無かった。

「今、考えたのではないか? もし。私が君に、予告状を出さなければ」

 ドアに拳を叩きつけてしか、怒りを静める方法が思いつかなかった。

「君に何と言われようと、止めない」

 てめえ……。

「止めて、みるか?」



 ここ……ね。

私は現地に赴いていた。

烏が不気味に飛び交う。

冬には激しく天気が変わると聞いている。

「呪恨館でございます」

 枯葉が踏まれたような跡が、比較的新しい。

だとしたら、少なくとも館への出入りがある可能性は高い。

久遠正義が目をつけたのは、ほぼ間違い無さそうね。

中までは調べられそうも無かった。

所有者も分からない。

……一体誰が?

不気味に鳴く烏が、館の屋根に集まっている。

何としても止めたい。

舞って来る一枚の黒い羽が、掌に落ちた。



 止めてみる?

車から降りた橋。

ただ真っ直ぐに久遠は俺を見ていた。

お前を止めるんじゃない。

お前は捕まえる。

1歩歩くと、拳銃を構える。

何も用意しないで捕まえられるような相手ではなかった。

「今、私を捕まえるのは無理、だろう?」

 星さんを利用するつもりだったのか?

最初から?

「呪われた者を、救っただけ」

 救ってはいない。

死を回避しただけ。

お前のそれは違う。

「反対ならいくらでも、してくれたまえ。しかし、君をここでは、殺さない」

 パトカーのサイレン音がようやく聞こえて来た。

一応盗聴器を服の裏に仕掛けて貰ったが、どこまで役に立つかは分からない。


「重要なキャストだ。吉野、翔太」


 何?


「0の、世界」


 0の世界?

どう言う事だ。


「また、どこかで」


 俺が捕まえようとすれば発砲するだろう。

倉田さんは間に合わない。

全て分かっている。

そして久遠が乗り込んだ車は走り去って行き、計算されたかの如く、遅れて倉田さんがやって来た。

0の世界?

殺人を犯した先の世界なんて馬鹿げてる。

救った?

死ななかっただけ。

お前は救ってなんかいない。

そんな奴に何も出来なかった自分は、もっと馬鹿げている。

でも、これだけは言える。


 てめーだけは許さねえ。


 水平線に沈む、太陽が見えた。

奴が何をするにしても、先に見えるのは暗闇に思えてならない。

そんな事は許してはいけない。

「すまない。吉野君」

 倉田さんは悪くない。

それを分かって久遠はこんな茶番を仕掛けた。

弄んでる。

奴がそう来るなら。


 不可能犯罪を以って俺に予告状を送って来るのなら。

その不可能、俺が可能に変えてやる。

 いかがだったでしょうか。

怪7。蛍火館の性悪。

1年とちょっと前に脚本として既にあがっていました。

ですが、昨年12月にタイトルは忘れましたが、盲目の殺人鬼?

みたいなタイトルの映画が公開され、ちくしょーと1人で唸っていました(笑

蛍は殺人トリックには何の関係もありません。

個人的に、他の動物とかを使って殺人を行わせる方法は嫌いです。

理由は、人間同士の争いに。

他の動物巻き込むんじゃねーよって思うからです。

ずるいとは思いません。

演出があれば良いと思います。

個人的には使う予定はありません。


なので今回は、登場人物が持つ願い。

心。

みたいなものを表したいと思っていました。

もし期待していた方がいらっしゃいましたらすみません。


長くなってしまいましたが、次回作は少々お待ち下さい。

お盆期間に引越しを控えています。

落ち着いたら次回作を投稿しようかと思っています。

次回作も宜しくお願い致します。

それではまたノシ


2017/08/13 追記

『カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~』に纏めさせて頂きました。

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