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カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~  作者: 広田香保里
怪7 蛍火館の性悪
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ノートの意味

 噂が出た原因を調べていると桜庭さんは言った。

真偽は分からないと。

でも、その後にどうしたいのかを考えるなんて言うのだろうか。

でも、肝心の真相は、私が納得するまで調べる。

それは変わらない。

ズキン。

また。

刺すように頭が痛い。

翔太さん達が帰って来たら、どうやって情報を引き出そうか考える。



 気になったのは遺言。

どうしてあんなおかしな条件にしていたのか。

「確かに……」

 最初から全て寄付するつもりだったのではないか。

あの歪な文章が、そうではないかと思った根拠。

だからこう考えた。

本当は仕掛けた本人達に戒めを与えるのが目的だったんじゃないか。

だが見当違いに鎌が落ちただけだと、仕掛けた本人達は失敗したと思うだけ。

それだと意味がない。

「……そう考えると、確率は100%の仕掛けでなくとも十分と」

 依然として星さんは表情を変化させる事が無かった。

俺はそうですと、伝えた。

鎌を自動的に落とすのはそう難しくは無い。

輪っかにした紐で鎌の柄を固定し、愛さんの部屋に通してカッターの刃か何かを紐に接した状態にしておく。

リモコンを押せば、カッターの刃が動き、糸が切れて鎌が落ちる。

紐は自動で巻き取られるようにしておけば、証拠を残さずに回収する事は可能。

俺も実際にその方法を使って鎌を落とした。

愛さんの部屋に残っていた証拠を使って。

例え見つかっても、計画したのは殺された3人。

証拠にはならない。

「でしたら、一応筋は通っているのかもしれません」

 偶然に見せかけて殺そうとした3人。

計画をそのまま利用した星さん。

果たしてどちらが酷いのか、俺には分からなかった。



 目が見えない人が、連続殺人を実行したなんて、誰が信じるのだろう。

殺人計画を立てるように仕向けた。

それを利用した?

頭の中がぐちゃぐちゃで、整理も出来てないけど。

それでも殺人教唆をしたと言う久遠に、怒りだけは存在した。

でも何で?

そんな事を星さんがしたんだろう。

無理矢理やらされた?

自分をちゃんと持ってるようにしか見えなかった。

それが偽りだったのかと思うと、複雑な気持ちになった。

「それだけではダメですよ。翔太さん。岳お兄様、雅お姉様はどうやって手を下せたのですか?」

「……一つだけ、確認したいです」

 でも、一番信じたくないのは、翔太かもしれない。

翔太が。

事件が起こる前に。

初めて助けた人が犯人だったなんて。

「どうぞ」

「一昨日の食事中、岳さんが落としたのがどうしてフォークだって分かったんですか?」

 ……思い出す。

そうだ。

フォークを落として、星さんは私のをお使い下さいと言った。

岳さんは、フォークを使って食事を再会した。

確かにおかしい。

「食器を落としたと言っていただけなのに、どうしてフォークだと?」

「落ちた音が、フォークの先の物だと思ったので」

 星さんは一歩も引く事無く、翔太の質問に的確に答える。

星さんの言葉、仕草を思い出す。

何が本当で、何が嘘?

「本当は薬物が塗られたフォークを受け取るのは、星さんのはずだった。前もってすり替えられていた」

「目が見えない私が、どうやってですか?」

「その前に。岳さんが仕掛けた薬を星さんが摂ってしまい、愛さんが仕掛けた鎌が落ちて来て星さんを殺害。ここでわざと失敗し、雅さんが星さんを病院へ運ぶ。その途中で事故死って計画だったんだろう。岳さんがフォークを落とす。そして星さんは、性格上自分のフォークを渡してくれる。そこへ雅さんが星さんに薬物が塗られたフォークを渡して完了の筈だった」

 と言う事は……。

あの時はあたし達が手伝ってフォークを星さんに渡したんだから……。

岳さんの用意したフォークって、まだどこかにあるの?

「そう。だとすると、あのフォークはいつ用意されたのか」

「大至急調べろ」

 倉田さんは刑事さんにそう告げた。

「雅さんは焦っただろう。岳さんが用意したフォークが、まさか岳さん自身が摂取するなんてと、思った筈。実際は星さんが予め用意していただけ」

 星さんは拍手をしていた。

この感覚、覚えがある。

心の底から嫌悪する感覚。

笑顔の星さんが不気味に思えてしまった。

でも、直ぐに印象を変えてしまうあたしは、もっと酷いのかもしれなかった。



「凄い推理力ですわね。翔太さん。凶器の準備や殺害実行のリスクと言った、私のような人間に出来ない事。自分を殺害させるように仕向け、そしてそのまま利用する事で可能にしてしまうと言う事ですね」

 相手の心を掌握する事で、行動さえも操ってしまう悪魔のごとき方法。

久遠が考えた。

悪魔さえも生温い。

残虐そのもの。

普通は思いつきもしない方法を、いとも簡単に計画立ててしまう。

「でしたら、雅お姉様はどのように殺害したのでしょうか? ……確か転落死とお伺いしています。私に、意図的に転落をさせる事が可能だったと仰るのですか?」

 奴が何をしようとしているかなんて分からないし、理解する気も無い。

俺は星さんに1歩詰め寄った。


 言ったろ?


 犯人はあんただって。


「でしたら、続けて下さい」

 尚も星さんは笑顔を絶やさない。

肝が据わっている。

そしてかなり、頭の切れる人間。

雅さんの目から、目の瞳孔を開かせる薬品が検出された。

「遺留品の中から目薬を押収している。館華雅の目から検出されたものと同じものだ」

「……自己主張をなさるお姉様でしたが、そう言った所は繊細でしたわ」

 その目薬は、いつも車の中に置いてたのか。

「それが一体何なのですか!?」

 響さんが叫んだ。

いつも使うものに特別な薬品を入れておく訳が無い。

「それさえもすり替えたと仰るのですか?」

 雅さんはここに来てから外出はしていないだろう。

車の鍵は勿論掛けられていた。

普通に考えたら不可能。

車の中ででも、常に雅さんが運転をしている状況。

でも、そんな状況で、1度だけチャンスがあった。

「え……?」

 だから俺達を招待した。

星さんが僅かに、表情を硬くした気がした。



 あたし達は、黒いノートの殺人予告を見てここに来た。

途中で雅さん達が乗っている車に乗せて貰った。

荷物を入れたりするかもしれない。

でも、星さんは目が見えない。

車から出るのは必然的に雅さん。

あたし達があそこにいなければ、すり替える機会なんて無かった。

「俺達がここに来る事さえ、計画を実行可能にする為に必要な事だった」

 翔太の性格さえも利用して殺人を行った。

「車の中から人影が見えれば、雅さんとは言え反応する。 ……例えば星さんが車から出ようとすれば、雅さんは仕方無く車から出るように仕向けられる」

「証拠はございますか?」

 翔太を利用する事に、何の躊躇もしなかったの?

何の関係も無い人を利用して行う殺人が、本当に正義なの?

「私がその仕掛けを利用したと言う、物的証拠を伺いたいです」

 それで本当に、何もかもが大丈夫になるって、思ってるの?

「今の状態では、お姉様方が仕掛けた証拠は何か出て来そうな状況ですよね。 ……それを私が利用したという証拠は、何もございません」

 翔太はそんな星さんを、どう思っているの?

「ある……としたら?」

「本当に、証明できるのか?」

 倉田さんの言葉に翔太は頷いた。



 久遠らしい方法だと思った。

俺の性格まで把握して、それを殺人計画の一部に組み込んでしまう。

俺を利用するよりも、星さんを利用して殺人を行わせたのだけは許せなかった。

俺は倉田さんに勿論と言い、再度星さんを見た。

「是非、お伺いしたいですわ」

 証拠は、星さんが生きている事。

良く考えてみれば、天井から槍が落ちて来た。

俺が助けなければ、星さんはどうなっていたのか。

間違い無く死んでいたのだ。



 生きている事が証拠?

吉野君は館華星を救った。

それが何故……。

「全て実行可能にする為には、最初の事件で星さんが生き残る事が必要条件」

「確かにそうかもしれません。しかしそれは、私が犯人である事が前提でのお話ではないですか?」

「もう一度聞く。俺がいなかったら、あんたはどうなっていた?」

 吉野君の声色が変わった事に、少なからず私も、館華星も驚いているようだった。

「確実に死んでいた。そして回避出来ると確信していた」

 どう言う事か、まだ飲み込めなかった。

確信していたとしても、そもそも館華星が殺人を犯した証拠がどこにも無い。

「星さんが死んでいたら、そもそも岳さんは死ななかった」

 ハッとした。

そうか。

薬物反応が出るフォークさえ見つかれば。

「何故? 俺が助けるって分かっていた?」

 だが、それだけでは館華岳が仕込んだと言う可能性が残ってしまうし、実際この推理が正しければ、それが事実。

「由佳さんと手助けをしてくれたではありませんか。それだけで心優しいお方だと、判断する事だけは可能です」

 だから、それ以外の立証が必要……と言う訳か。

それに必要な証拠が、館華星が生きていると言う事。

「違う。困ってる人を助けるからと言って、いきなり落ちて来る槍から守ってくれるって考えはおかしい」

 なら、何故彼女は生きている事が出来たのか。

それは吉野君が助けると、確信していたから。

「分かる? 星さんは久遠から、俺の事を前もって聞いていないと、あんな仕掛けはしないって事」

 何故確信出来たのか。

ここに来る途中で、初めて出会った筈の相手の筈なのに。

誰かから教えて貰ったから。

「それじゃあ……」

「巧妙だったよ。目薬をすり替える時間を作る。そして星さんを助ける為の単なるキャストとして俺達を呼ぶ為に。あんな殺害予告状まで準備した。黒いノートを送れば、俺達が来ると久遠は確信していた」

 これだけのロジックの組み立て、繋ぎ合わせ。

時間をかければ結論に辿り着けるだろう。

だが、こんな短時間で。

尚且つ自分が助けた人間を犯人だと前提して組み立てる。

……純粋に、凄いと思った。

なのに、優越感にも。

達成感にも浸っていない。

ただジッと、館華星を見ている吉野君。

「それが、星さんと久遠に繋がりがあるって言う、決定的な証拠を残す事になった」

 館華響は呆然としていた。

鮎川君は、ただ館華星を睨んでいた。

「まだ言う事はある? ……館華星!」

「警部! 薬物反応が出たフォークが見つかりました!」

 館華星は、大きく深呼吸した。

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