3人で1人を殺害する
吉野君は、翌日の朝、館華星と館華響を食堂へ集めた。
食堂には、既に2人が向かい合って座っていた。
「吉野さん。急いでここを離れるのでは無かったのですか? それなのに後1日ここにいて欲しいって言われて、今度は何ですか?」
館華響は怯えているようにも見えた。
館華星は毅然としていた。
「……その前に、一連の事件について。2人に聞いて貰いたかった」
「と、申しますと?」
館華星が口を開いた。
盲目は病気。
病気から儚さを連想する人は多い。
だが、目の前の館華星からは力強ささえ感じた。
「今回の事件、俺達に予告をしたのは、あるパターナリスト犯罪者、久遠正義。経緯は知らないが、殺人の方法を犯人に伝授した」
「殺人教唆、ですか」
奴が何をしようとしているのか。
殺人教唆までして。
吉野君が言っていた0の世界は何なのか。
推論だけでも立てなければいけない。
事件は今から吉野君が解いてしまうから。
「奴はただ計画するだけでは不可能だと判断した」
どう言う事だろう。
何がどう不可能なんだろう。
「一連の事件を実行可能にする為の下準備から始めた」
「……準備?」
倉田さんの言葉に翔太は目を閉じた。
あたしはそんな翔太を見るだけだった。
今のあたしにやれる事は全部やった。
このままじゃダメだって、思ってるけど。
「遺産相続の為に、星さんを殺させる計画」
「何ですって!?」
信じられなかった。
殺す計画が立てられていたなんて。
……でも、最初に狙われたのは星さん。
考えたくないけど、可能性としては充分に考える事ができた。
「吉野君。それはおかしい。仮に3人が計画を立てたとして、どうして3人が殺される事になるんだ」
倉田さんが言う事は最もだった。
仮に3人が殺害計画を立てて、だから何だと言うんだろう。
計画を立てる=殺害可能になるが、今の段階では全く繋がらなかった。
「今回の事件はそこが重要。皆に聞きたい。遺産相続の為に人を殺す計画を立てるとする。こんな場合、まずは何に気をつける?」
そんなの分かる訳無かった。
そんな中、可能な限り考えてみる。
目的は遺産相続。
それなら、例え殺人が成功しても、掴まっちゃったら意味が無い。
倉田さんがハッとした。
「事故に見せかける」
そう。
今回の事件に当て嵌めて考える。
遺言の発表がこの館。
外部の人間の介入は極めて難しい。
そんな状況で星さんを殺害する。
普通なら不可能。
だけど、それを可能に組み上げる方法があるとすれば。
事故、或いは偶然に見せかけて殺害するしかない。
それを踏まえて掘り下げる。
愛さんは落ちて来た鎌で切り裂かれた。
そして岳さんは薬物により階段から転落。
雅さんは崖から転落。
3つの事件を並べ替えて繋げてみると、果たしてどうなるか。
食事中に、星さんが薬物を飲み、体が麻痺する。
館華雅、岳のどちらかが星さんに手を貸し、階段を下りた所に鎌が落ちて来る。
間一髪で避けるが、最後には館華雅が運転する車で事故に遭い、死亡……。
想像でしかない。
だが、証拠はある。
3人が立てた、星さんを偶然に見せかけて殺す、恐ろしい手段。
全員が息を呑んでいた。
遺産の為に。
これほどまでに非道で残忍な方法を実行しようとする必要があったのか。
もう、その問いかけに意味は無かった。
「そんな……」
響さんは頭を抱えていた。
親の立場になった事が無い俺には、響さんの気持ちを理解する事は出来ない。
雅さん達の心情を理解する気は無い。
「待って翔太。 ……星さんを殺す計画を、殺害された3人に立てるように仕向けたんだよね」
そして犯人はその計画を利用し、結果として3人を殺害した。
俺は全員を見た。
ついて来て。
女の人は、私から見ても綺麗だと思った。
優雅な仕草。
ただ、私に微笑みかけていた。
森田さんは部屋から出て行って、何故かこの女の人と、私の家で2人きりになっている。
「申し遅れてごめんなさい。私は桜庭楓と言います。宜しくね? 有村華音さん」
されるがままに、桜庭さんと握手した。
状況が何1つ飲み込めないでいた。
「有村秀介さんの妹さん。ある噂話の真相を確かめる為に、わざわざ転校をして来た」
……森田さんから聞いたのだろう。
「森田さんは私専属の執事。聞いたのよ」
財閥のお嬢様、なのだろうか。
桜庭財閥は、有名だから。
兄さんの事は、知られる分には構わないと思っていた。
これは私個人の問題だし、聞かれたら答えられる事だ。
「私も、その噂について調べているのよ」
桜庭さんの表情を見た。
嘘は、ついていないと思った。
「どうしてお兄さんのそのような噂が広まったのか、心当たりは無いかしら?」
あるならここに来ていません。
きっぱりと言った。
嘘じゃないから。
「貴女が入院している間も? 本当にお兄さんから何も聞いていないのかしら?」
ズキン。
頭が痛む。
「大丈夫?」
桜庭さんが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
最近、良くこうなる事を告げると、桜庭さんは残念そうに溜息をついた。
「今日はもう帰るわね」
落ち着いた私に水を差し出し、桜庭さんは立ち上がった。
「1つだけ、良いかしら?」
何だろう。
私はどうぞと促した。
「私も噂の真偽は分からないけれど。その後に貴女がどうしたいのか。それを考えて欲しい」
え?
「結論を追い求めて、それが叶ってしまったら、きっと何もならないと思うのよ」
……私は、兄さんの噂の真相を知りたい。
今もそれは変わらないし、これからも変わらない。
その後の事なんて考えてもみなかった。
でも、今の現状でそんな事を考える余裕は持てなかった。
「また来るわ」
楓さんは少しだけ私を気にして、部屋を出て行った。
普通の学校生活?
私には、想像がつかなかった。
階段傍にある、天使の大きな絵。
血塗れの鎌が固定されていた。
「事件当時の状態にして貰った」
翔太が立ち止まり、釣られて全員が立ち止まる。
翔太はここにいないと危ないからと、合図した。
警官達も避難を始める。
「2階の階段傍の部屋は、愛さんが使っていた部屋」
「……ええ。確かにそうです」
「良く見て」
翔太が取り出したリモコンのスイッチを押すと、大きな鎌が落ちて来た。
大きな音を立て、床に落ちる鎌を見た。
「この方法を使って、薬物によって自由を奪われた状態の星さんを、偶然に見せかけて殺そうとした」
「で、ですがこの方法では、後から調べられれば殺人事件と気付かれませんか!」
「そうはならない」
愛さんの部屋から見つかった小さな穴は証拠にならない?
どう言う事だろう。
「実際は、これを愛さんが押す筈だった。壁越しに開けた小さい穴は、何かで塞いでしまえば良い。今回は愛さんがこの仕掛けで逆に殺されてしまったが、本来なら証拠が残らない筈だった。でも仮に残ったとしてもあんたが警察の介入を防ぐ」
聞けば聞く程に、怒りが湧いてくる。
「こうして3人の計画では、秘密裏に星さんだけが、偶然に見せかけて殺害される予定だった。そこに俺と由佳が来て、計画は大きく狂った」
「……実の家族に、何て事を」
「で、ですがそれを実行した証拠が何も無いじゃないですか! 言いがかりはもう止めて下さい!」
「殺人が実行された事が証拠なんだ! それに愛さんの部屋の壁に使われた穴も見つけた!」
震えながら響さんはへたり込んだ。
やっと気付いた。
ここまでが、想定内の事だった。
だけど、普通に殺人を犯すだけなら誰かを殺させる計画なんて、立てさせる必要が無いんだ。
「そして3人に星さんを殺させる。こんな大掛かりな仕掛けをし、それを利用して3人を殺害した犯人は」
だから、その必要があった人……。
「館華星」
妹さんは何も知らない。
それは幸せ?
それとも不幸?
それは分からない。
妹さん自身の問題。
誰が何の為に噂を流したのか。
ここでまた振り出しに戻ってしまった。
後はどこから?
例えば有村君が殺人計画を立てていた時。
薬品の入手。
誰かと話をした可能性はあるかもしれない。
普段は目にも触れられない部分を調べないと、分からない事が多過ぎた。
或いは、有村君に恨みのある人物。
そこに焦点を当てて、今度は探してみる途方も無い作業。
それでもやる。
やっと自分の描く目的の為に、自分の意思で動けるようになったのだから。
私は逸る気持ちを抑えながら、リムジン越しに外を眺めた。
「翔太さん?」
まんまと殺害計画を利用し、3人を殺害した。
3人が1つずつの仕掛けをし、偶然を装って一人を殺害。
しかし、条件が変わってしまうと、それぞれが殺人装置となってしまう。
3人で1人を殺害する為には、3つの手法を用いる必要が出て来る。
計画は館華雅達が立てたのだろう。
それをそのまま利用した。
盲目の人間が連続殺人を犯すなんて、通常は無理だから。
その為の下準備。
「お待ち下さい。愛お姉様が何故鎌の元へ来る事が分かるのですか? 翔太さんが仰られた方法であれば、必ず愛お姉様が鎌の近くにいないと不可能だと思います」
確かにそう。
いくら仕掛けられたとしても、それをいつ実行すれば良いのか分からない。
更に言えば、仕掛けた本人が、その近くに立つ事は考え難い。
「無理がありすぎると思います」
普通に考えたら不可能。
それを可能に組み上げる為の方法がある。
俺は星さんを真っ直ぐに見た。
星さんは尚も毅然としていた。
だから最初の事件を起こした。
盲目の人間が、殺人を?
確かに3人に自分を殺害させる計画を立てるのが下準備だとするなら、館華星以外には準備する意味が無い。
「最初の事件?」
だが、だからと言って殺人が実行できるとは限らない。
「星さんの頭上に槍が落ちて来た仕掛けだけは、久遠自身が恐らく仕掛けた。星さんに仕掛けるのは不可能」
自分を狙う仕掛け?
何の為に?
偶然に見せかけた殺害計画を立てた3人からすれば、計画外のもの。
……なるほど。
「殺された3人があの仕掛けを見てどう思ったのか」
ハッとした鮎川君も、気が付いたようだ。
「誰かが裏切った?」
「自分自身の頭上に槍を落とした理由は、自分自身が容疑者から外れると共に、明らかに殺人だと見られるような証拠を作り、3人を動揺させる為」
そして動揺した3人は、誰が仕掛けたのかを考える。
何か細工をされているかもしれない。
館華愛はそう考えたのだろう。
そして、誰にも気付かれずに仕掛けを確認出来るのは、寝静まった深夜。
吉野君は頷いた。
「少なくとも、夜中に愛さんが夜中に来る事だけは予想可能。そして自動で落ちるように作られたリモコンは、予め摩り替えられていた」
「100%には、なりませんよね?」
無理のある話だと思ったのだろう。
仮に深夜、館華愛が仕掛けを確認する為に絵の前に来たとしよう。
それでも、確実に館華愛を狙うには不確定要素が多過ぎた。
「仰られたような仕掛けを使用できるのは1度きりです。そのような不確定な仕掛けにして、一体外してしまったらどうするつもりだったのでしょうか?」
吉野君は怒っているでも、哀れんでもいなかった。
ただ、館華星を真っ直ぐに見ていた。
「100%じゃなくて良かった」
どう言う事だ?




