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カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~  作者: 広田香保里
怪7 蛍火館の性悪
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必然ではない

 館華愛、岳、そして雅。

3人が死亡した。

しかし、死因が鎌、薬物、事故。

これだけ死因がバラバラだったけど、すべてに共通点がある。

薬物により、岳さんは階段から転落。

全て事故に見せかけたような方法。

だが、薬物の調達を久遠に手配したとしても、こんな失敗するかもしれない方法を選んだ理由は何だ?

両小指を絡め、手を口元に当てる。

歩いて来る足音。

眠れないのか?

由佳はうんと返事をした。

「翔太にとってさ」

 由佳が見上げるように俺を見ていた。

身長が、俺の方が高くなったのはいつからだっただろう。

「良い事って何?」

 考える間も無く、由佳は捲し立てた。

「人を守れば悪? 何かを奪えば悪?」

 視線を逸らす事が許されない、そんな錯覚に陥るように、由佳の視線が俺を離さない。

「どうしても今知りたい」

 今知りたがるのは、館の人間との違いに触れたから?

それとも星さんに恐怖を抱いたから?

俺にだって善悪が何かなんて、分からない。

でも、俺は悪いと言えたのだろうか。

今まで、殺人を犯した犯人達を。

秀介を。

心から悪いと、思えただろうか。



 翔太は言葉を選んでくれていた。

館華家が、純粋に怖かった。

あたしの家族は、喧嘩だってする。

それでも一緒にいて、それでも家族って良いなと思わせる何かがあると思ってる。

でも、この家族に、温度と言うものをまるで感じなかった。

翔太は顔を上げた。

答え辛い事、聞いてごめんと心の中でだけ謝罪した。

「俺達が良いか悪いかって判断してるのは、多分、法律で裁かれるか、裁かれないか」

 あたしは黙って翔太を見ていた。

「でも、本当の善悪って、法律と違う所にあるのかもしれない。俺はそう思ってる」

 ……。

「……俺は秀介を憎めない」

 うん。

そうだよね。

あたしにも分かんない。

大人になったら、無理矢理にでも納得出来るのかもしれない。

でも、納得しちゃいけない。

何となくそう思った。



 部屋が暗かったのは、光が意味を成さなかったから。

目の見えない館華星にとって、光は心の中にのみ存在する希望以外に無かった。

そんな暗闇の中、館華星はただヴァイオリンを弾いていた。



 こうやって殺人事件を防ごうと思ってから。

事件を解決しても。

俺には何一つ分かった事があったのだろうか。

由佳に話した今でさえ、本当にそれは正しいのか。

迷いは止まなかった。

全くお粗末な話だった。

「あんたはそれで良いと思う」

 由佳は何故か笑顔だった。

今の話で何を納得したんだろう。

俺には理解出来なかった。

「あたしも分かんないけどさ、きっと翔太が答えを見つけたなんて言ってたら、殴ってたと思う」

 何だそりゃ……。

結構気を遣って、言葉を選んで話したと言うのに、酷い仕打ちだ。

「あんたはただのバカな高校生」

 ……。

「分かんないけど、優子さんだってきっとそう言ってたと思う」

 ……。

ホント勝手な事言いやがって。

お前が俺の何を知ってんだ。

たまらなく嫌で、癪で。

少しだけ嬉しかった。

お互いにそっぽを向いたが、それで良い。

「ヒントに必然を求めちゃダメじゃない?」

 そっか。

……え?

必然を求めちゃダメ?

両小指を絡め、手を口元に当てた。

全ての事柄を思い出す。

ここに来てから今までの記憶。

黒いノートに必然を求めた。

なのに殺害方法が全て偶然に頼り、たまたま成功したものと思い込んでいた。

違う。

偶然さえも、必然?

倉田さんに、急ぎ確認する事がある。

俺は倉田さんの元へ走った。



 蛍が輝く光景は、まるで銀河のようだと思った。

朋歌さんに見せてあげたいと思った。

彼女はどういう反応をするのか。

喜んでくれるだろうか。

思いを馳せた。

……冗談はさておき。

どうしてここが蛍火館と呼ばれているのか。

蛍を殺人に使ったものと思っていた。

だが、人間の起こす殺人と言うものに、他の生物を巻き込まない方法でまだ良かったと思った。

人間の中で完結しているのは、せめてもの配慮か。

或いはただの気まぐれかは分からなかった。

「倉田さん」

 吉野君と、追ってきた鮎川君が走って来た。

何か分かったのか、吉野君の表情は少しばかり晴れているように見えた。

「館の部屋割って分かりますか?」

 部屋割?

そんなものを詩ってどうするのかは分からないが、吉野君の推理力は何度も見てきた。

なら、それを見たい気にさせられるのは、きっと隣にいる鮎川君だって同じだろう。

「やっぱりそうだ」

 吉野君はさっさと館へ戻って行ってしまった。

吉野君を追うように鮎川君も。

やれやれ。

あの2人はいつになったら……。

何て、私が言える義理でもないのだが。

そんな事を思っていると、鑑識からの連絡だろう。

スマホが鳴った。



 左手にある大きな絵に。

血塗れの床に恐怖を抱き、翔太を追いかけた。

階段を上がり、直ぐ左手にある部屋に翔太は入っていった。

明かりがついた室内は、あたし達が使っている部屋と間取りは変わらなかった。

翔太は向かって左手の壁をジッと見ていた。

「……あるとしたら、ここらへん……」

 壁に何があるんだろうか。

考えた。

壁の向こう側には……。

そっか。

翔太が探そうとしてるものが何か、分かった。

あたしも探そう。

「ありがとな」

 翔太は笑った。

あたしはにへらした。

「気持ち悪りーな」

 翔太にバックドロップをかました。

失礼な!

翔太が突っ伏している間に、見つけた。

小さな穴。

翔太は頷いた。

「……これだ」



 倉田さんがやって来た。

「館華雅の目。瞳孔が開き切っていた事が分かった」

「だから俺達を……」

 翔太は両小指を絡め、手を口元に当てた。

あたしには分からないけど、翔太は分かっている。

それで良い。

雅さんの現場から、あたしが分かった事は無かったけど、翔太が何か分かったから。

「黒いノート……落ちてきた鎌……遺言……そして偶然……」

 翔太は喜んでいる訳でも、怒りに満ちている訳でもなく、ただ無表情だった。

「可能は組み上がった」



「……ないんだ」

 何も見えない。

真っ暗な空間に、声だけが響く。

誰の声か。

聞いた事がある気がするし、聞いた事無い気もする。

「……れない」

 ドクン。ドクン。

心臓の音が聞こえる。

私の心臓?

「華音」

 私の名前が呼ばれるのに、返事が出来ない。


 手を伸ばした先には天井しかなかった。

頭がずきずき痛む。

見に覚えが無い夢。

心臓がまだ鼓動早く訴えている。

私に記憶障害があるという話は、陸田さんからは聞いてない。

いつの間にか忘れてしまった記憶?

コン。コン。

扉をノックするのは、森田さんだろう。

私はどうぞと言った。

「お邪魔するわね」

 森田さんと一緒に入って来たのは、女の人だった。

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