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カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~  作者: 広田香保里
怪7 蛍火館の性悪
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相続するのは

 ボーンボーン。

時計が12字を告げ、食堂の空気は一変した。

既に席に座っていた星さん、雅さん、響さんはどこか表情が硬くなったように見えた。

そして俺、由佳、倉田さんは入り口に待機していた。

更には外側にも警官を1人配備してもらった。

犯人は、この状況からでも殺人を実行するつもりなのか。

気は抜けない。

いつ、どこから犯人が襲って来るのか分からなかったから。

時計の音が止むと同時に響さんは立ち上がった。

「時間ね……」

 時計の文字盤が開き、中には封筒が入っていた。

こんな仕掛けが施されているとは思わず舌を巻く。

響さんが手に取った封筒には『遺言書』と記されていた。

星さんは毅然と、雅さんは緊張した面持ちなのが良く分かった。

「お父様の遺言……」

「読んで下さい」

 響さんが封筒から手紙を取り出す。

狙うとしたらこの瞬間。

遺言の発表に弁護士が来るとしたら外部犯の可能性があったが、こうなったらもうこの3人の中でしかありえない。

「館華清の全ての財産は」

 あからさまに緊張下面持ちの雅さん。

微動だにせず、ただ真っ直ぐ前方に顔を向けている星さんは、対照的だった。

自分の弱さを認められない長女。

自分の弱さを見せ、それでも強くあろうとしている3女。

見たまま、自由奔放に生きてきただろう次女。

臆病な長男。

誰に遺産を相続させたいかなんて、誰が見ても明らかだと思った。

「全額寄付するものとする」

 意外だった。

てっきり星さんに相続させると思ったが……争いを避ける為かもしれないが、逆効果としか思えない。

「何よそれ!」

 でも、響さんの視線はまだ手紙だった。

続きがあると言う事か。

「だが、ある条件が達成されてしまっていた場合、寄付を取り止め……」

 言葉を噤んだ響さん。

条件?

「館華星に譲るものとする」

 雅さんがあからさまな表情になった。

視線の先には星さん。

「条件とは、館華雅、館華愛、館華岳、館華星。4名の内1名でも死亡していた場合である」

「何なのよ……今の……。 何なのよこれは星!」

 星さんに掴みかかろうとする雅さんを急いで俺と倉田さんが抑えつける。

「落ち着いてください!」

「お父様の意向だと思います」

 星さんは取り乱した雅さんの声を聞いているだろう。

でも、態度が変わる事は無かった。

「意向これが冗談じゃないわよ!」

 筆跡は確かに本人の字とは響さん。

でも、どう考えてもおかしい。

これじゃあ、まるで清さんがこうなる事を知っていたかのような……。

「兎に角、これで終わりました。何が起こるか分からない。離れましょう!」

 倉田さんの言葉を聞き、雅さんが俺達を突き飛ばして扉へと移動して行った。



 さっさと帰ろうとしてるの!?

星さんを乗せてきたのならせめて星さんを乗せてあげないと!

何を考えてるの?

「雅さん! 星さんも!」

 振り向いた顔は、憎悪に満ちていた。

「乗せたら殺してしまいそうだわ」

 何て人なの……。

結局自分が遺産を相続したいだけだったの?

「何つー人だ……」



 館華雅は怒りに満ちていた。

車のエンジンをかけ、目薬をする。

色々考える所はあるが、館華雅の考える事は1つだけだった。

急いで戻り、企業の独立手続きを進める事。

既にある程度勧めてある。

今から帰って契約さえ結んでしまえば簡単だった。

車は森を抜け、太陽が館華雅を照らした。

この時初めて異変に気がついた。

自分の目が霞んでいる事に。

目を擦るが、一向に治らない。

そして太陽を直接見てしまった時には遅かった。

目を開けられなくなっていた。

そしてカーブ。ガードレール。崖。

恐怖で身動きが取れなくなるのは、人間としての性なのか。

館華雅の悲鳴が木霊する中、車はガードレールを突き破り、崖へと転落して行った。



 遠くで聞こえるクラクションの音。

つい今し方聞こえた大きな爆発音。

車には雅さんしか乗っていなかった筈。

何が……何があった!

「現場に急げ!」

 殺害する方法があるとでも言うのか?

「今の爆発音は、何ですか?」

 その光景を音だけでは認識する事は出来ないのだろう。

星さんは見える筈の無い周りを必死に見ようとしていた。

パトカーが現場へ急行する中、俺はこんな状況でも平然と殺人を繰り返す殺人犯に怒りを抱かずにいられなかった。

追い討ちをかけるように倉田さんのスマホが鳴る。

「私だ」

 倉田さんがスマホを強く握り締めているのが分かった。

そして静かに怒りを燻らせ、言った。

「館華岳が、搬送中に亡くなった」

 ……。

「お兄様が……」

 ……。

嗚咽を漏らす星さんを、必死に由佳が励ます。

……。

沸点を超えた感覚がはっきりと分かった。

怒りがある程度まで行くと、その感情に慣れてしまう。

慣れさえも奪われると、人はこれだけ真っ白になる事を。

絶対に許さねぇ……。


 この不可能、俺が可能に変えてやる。



 翔太は、愛さんが殺された現場へ戻って行った。

マジで怒ってると思った。

でも、ついて行ったのなら今まで通りだった。

それで何も出来なかったんだから、別行動をあたしは迷い無く選ぶ。

爆発音のした現場へ倉田さんと向かった。

「こっちで良かったのか? 鮎川君」

 良いんです。

今のあたしは、まだ翔太の隣にいても役には立てないから。

でも、翔太の体は1つしかない。

だからあたしは翔太が向かわなかった所へ向かって、翔太の見ていない事を代わりに見れば良い。

あたしが翔太の目になれば良い。

それだけ。

倉田さんが笑い、あたしは死ぬほど恥ずかしかった。

「いやすまない。本当に女性は強いなと思っただけだ」

 強くなんて無いけど、悪い気はしなかった。



 俺は歩きながら考えた。

ここで起きた全ての事を順番に思い出す。

黒いノートの予告状。

やって来た車に乗っていた盲目の女性。

突然落ちて来た槍。

守れた命。

突然落ちて来た鎌。

切り裂かれた被害者。

それでも続けられる遺産相続。

階段から落ちた被害者。

公開された遺書。

怒りに満ちて出て行く被害者。

爆発音。

両小指を当て、手を口元に当て、考えろ。

……違う。

何か違和感があった。

この連続殺人の始まりに関わったのではないかと思われる何か。

何だ?

勘ではないし、勘は当てにはならない。

記憶に引っ掛かった。

スマホが鳴った。

きっと楓が気になる情報を教えてくれるのだろう。

スマホを耳に当てた。

「あんた、何やってんの」

 やっべ!!

すっかり忘れてた!

冷や汗が出る。

今までは連絡したからじゃれあい(かなり痛い)程度の仕置きで済んだ。

マジでヤバイ……!

どう言い訳しようか考えていると、意外な言葉を姉ちゃんは発した。

いや、意外な事を姉ちゃんが言った。

「有村君、最近見ないけど、何か知ってる?」

 ……。

姉ちゃんには秀介の事は何も言っていない。

言いたくなかったから。

だから言った。

便りが無いのは元気の証拠じゃないか? と。

「……ま、それなら良いけど」

 いきなりの事に、動揺が声に出ていないか不安だったが、気付かれてはいないようで助かった。

部屋を動物塗れにしておいた事を通話が切れる前に告げられ、絶望する。



 スマホの画面をジッと見つめた。

相変わらず嘘が下手だった。

あいつとずるずると知り合いが続いてしまっているのは、きっと純粋な所が翔太に似てるから。

きっと翔太がお金持ちの家庭に生まれたら(充分金持ちだったけど、ちょっと違う)、きっとあんな風に育ったのかもしれない。

そうならなくて良かった。

あいつみたいにはならないで欲しい。

翔太の反応である程度分かった。

楓が噂を調べてる理由は、多分本当の事だから。

お嬢様のお金を使って何かをしたのかもしれないけど、そこは分からない。

有村君が、殺人を……?

何で噂になったの?

スマホをジッと見つめた。

翔太はきっと知らない。

知ってるなら、噂の真相を何より先に調べると思うから。

そう躾けられてきたのだ。

2人とも。

爺と婆に。



 夜になる前に、現場検証を済ませなければ危険。

転落した車と、館華雅が乗っていた車は一致した。

そして変わり果てた館華雅の死体。

偶然の事故?

遺産相続がなされなかった。

その帰り道に偶然?

そんな訳が無い。

ならば、明確な殺意を持った何かしらの方法がある筈。

それは何だ?

車のブレーキ、ハンドル、ミラー。

悉く正常だったと言う報告を受け、いよいよ八方塞に陥る。

しかし、それでも何かあると探さなければならない。

……吉野君が解決してきた事件が、いかに難解だったかを思い知らされる。

だからこその不可能を可能に組み上げる作業の難解さ。

大変さ。

大胆さを痛感する。

状況を纏めて結論を出していては、そもそも成立しないのだ。

決め付ける何か芯を作る事から始めているのだろう。

この場合は黒いノート。

いつもここに戻らなくてはならない。

無理な理由ではなく、可能な方法を構築する。

言いがかりにも等しい推理も、一本芯が通ればそれは誰も介入の余地が無い。

それならば、見方を変えるしかないのだろう。

車自体の問題ではなく、館華雅自身の問題。

時間が掛かるかもしれないが、鑑識を急がせる。

私に危害が無いと、久遠に判断されたようで何とも言えない気持ちにさせられた。



 荒れた波は、気持ちを表しているようだった。

結果的に全員が死んだ。

空も雲に覆われ、何を思うのだろう。

そうならなければ、良かったのかもしれない。

だが、業を犯す中にしか、人が生きる道など、無いのかもしれない。

さて。

少しの時間潰しをしなければならない。

吉野、翔太。

君の推理を、待たなくてはならない。

暴かれない犯罪は、この世には無い。

言い換えるなら、暴かれる事でしか、犯罪は意味を成さない。

紐解かれるべき思いがある。

そうして初めて防がれる、未来の犯罪。



 翔太君から優子に話した可能性は無い。

さあ、考えるのよ。

有村秀介君が他人に話したとは思えない。

翔太君さえ知らなかったその殺意が、どのような経緯で噂になったのか。

普通に考えたら不可能な状況。

翔太君ならどうしたら可能に組み上がるかを考える筈だから。

妹さんに話した可能性はあるけれど、森田さんの情報がそれを否定する。

館華家の情報に、進展が無いからこんな事を考えるしかないのだけれど。

自分の立場に苛々した。

だけれど、苛々していても何もならないのも知っていた。

後私に出来るのは……。

秘密裏に動いている犯罪組織についてって所。

翔太君の前では、情報網でしか役に立てない、そう自分に言い聞かせ、進展の無い情報収集を続ける事にした。

それでも、気になる事がある。

有村秀介君は、翔太君にさえも何も話さなかった。

だけれど、話さなければ漏れる事は無い。

漏れたと言う事は、少なくとも誰かには話した可能性が高い。

なら、それは誰?

……可能性のある人間が。

1人だけいる。

所々抜けてた所があって、修正しております(汗

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