異様なまでの食事会
何食わぬ表情で食事をしている久遠に、あたしは何を感じたのだろうか。
今までの緊迫感。
それらさえも何も感じなくなるような。
嫌な感じ。
どうしてその問いに、メイドは直ぐに準備が出来るのか。
「それで? さっき言ってた本来の目的って言うのは何だい?」
翔太を真っ直ぐに見ている人が、有村君と瓜二つの顔をしていなければ。
もう少し冷静になれたかもしれなかった。
次々と運ばれて来る料理を、久遠はジッと見ていた。
「佐久間さん殺人の不可能状況を演出するため」
不意に、久遠はメイドを見て笑顔を見せていた。
「ご安心下さい。毒は入っておりません」
「ああいや。ただ、感謝を、していただけだ」
心底おかしそうに笑う久遠は、どこまでが本当なのか、もはや分からなかった。
翔太はゆっくりと久遠の正面に座り、両小指を絡め、手を口元に当てた。
「不可能状況を演出する為? ……良く分からない僕に、分かるように説明をお願いしても良いかな?」
佐久間さんが死亡と偽ったのだとしたら、あの死体は恐らく久遠の妻だった可能性がある。
だが、それならノートを密室に仕掛けた方法がネックになる。
しかし、その前に仕掛ける意味が無い事に気付いた。
だから佐久間さんは本当に殺されていたと仮定する。
しかし、佐久間さんが首を吊っただけだと、彼女以外の全員が食堂にいたりした時点で久遠に疑いが掛かる。
転落死に見せかけるなんて、誰でも思いつくから。
だから全員に疑いが掛かり、且つ何かしらの方法を使ったと思い込ませる事が必要だった。
その為に機械声でのアナウンスも。
全員を特定の場所に集める上で重要な役割を果たしていた。
久遠は表情を変えるでもなく、ただ食事を続けていた。
気が狂いそうな現状。
「アナウンスか。確かに不気味な音声だったな。まさかこんな事になるとは思っていなかったが」
だからノートを密室に入れると言う一見不可能な状況を作る事によって、疑いの目が全員に向くように仕向けた。
「……ノートを入れる事が出来ないって言い訳が出来れば、殺人の立証は出来ないってわけか」
いや、選択肢を俺達に増やさせる為。
選択肢さえ出来てしまえば、一つに絞るのに時間がどうしても掛かる。
連続殺人を最後まで実行する為の手段として。
「ちょっとお粗末じゃないかい? ノートは入れられないけど殺人が行えたのなら、ノートなんて無視するよね。普通。そんな方法で、後から来るだろう警察、誤魔化せるのかな?」
いや。
警察を誤魔化す必要なんか無い。
全ての殺人が終われば、ただ逃げれば良いだけなのだから。
それにな。
言ったろ?
犯人はあんただって。
久遠は少しだけ笑みを浮かべると、再び食事を再開した。
他の人間が口を挟むのは憚られる、純粋な恐怖。
「じゃあ、ノートを密室状態の部屋に、どうやって入れたんだい?」
密室状態の部屋に入れる必要は無い。
最初からノートは引き出しに入っていたのだから。
どう言う事かしら。
鍵が入っていない事は、翔太君自身が確認した筈。
「鍵が入った封筒がストッパーの役割をして、見えなかっただけ」
「……見えなかった……の?」
「ノートを外側から死角になる引き出しの部分に、数ページだけ固定しておき、その下に封筒を縦にして置いただけの方法」
「そんなに簡単に出来るものなのかな?」
「ノートの背表紙が引き出しの手前側に来るようにし、封筒を引き出しの奥の方に入れておく。そうすれば引き出しの上の隙間にノートが入り込んで、封筒を取っても見えない。そしてその状態で引き出しを閉めれば、ストッパーを失った固定されていないノートのページが引き出しに落ちる。 ……次に開ける時には引き出しの奥に引っかかってノートが外れ、出現する」
なるほど……。
最初に引き出しを開けた時は、多分だけれど鍵を探す為に開けた。
そして封筒が見つかってしまえば引き出しを覗き込んでまで中を調べる必要は無い。
「次に引き出しを開けた時にはノートが出て来る。そしてノートが引き出しに閉じた状態で入っていても、作り上げた心理誘導によって、ノートを開いて中を確認するだろう。 ……こうしてノートが閉じていた事を気にも留めず、この方法は気付かれにくくなるって事」
本当に凄い人ね。
翔太君。
貴方は。
こんな状況にも拘らず、興奮しているのが分かった。
「ちょっと待って下さい。あの時、佐久間さんは直前まで生きていたじゃないですか。その後にノートを見に行ったらその時に佐久間さんはいなくて、部屋で首を吊って……いたんですよね?」
久遠は待っていたのか、直ぐに口元を吊り上げた。
秀介は、生きていたらそんな顔を俺に見せたのだろうか。
「へー? だとしたら、例えノートを入れれたとしても、そんな芸当、出来るのかな? 話を総合するとつまり、放送で集まった時に佐久間って人がいなくなった。だとしたらその人にしか分からないような放送の内容になっていたって事だよね? そんな事、果たして出来るのかな?」
出来るんだ。
2人なら。
「どう言う事かしら?」
「僕と殺された人が組んだとでも言うのかな? 言っておくけど妻以外は全員初対面だよ」
あんたの奥さんと組めば良い。
良く考えれば、そう考えてしまえば一番納得が行った。
ノートは不可能に魅せる演出。
そして機械声での放送と由佳が襲われたのは、全員の居場所を指定する為。
そんな事をする必要があるのは、居場所の指定が必要な人間かつノートを入れるのが不可能だと判断せざるを得ない人物。
1人しかいないのだ。
「ま、まさか、2人とも生きてるのか?」
残念だけど久遠が1人でいると言う事は、奥さんは既に殺されているだろう。
だが、佐久間さん殺害前後までは、生きていた。
「じゃあ、首を吊っていた人が久遠さんの、奥さん?」
それだと久遠の部屋のノートを見に移動した時、佐久間さんが別の場所に行ったであろう意味が説明できない。
だから導き出される答えは1つ。
由佳が襲われた時にやって来た佐久間さんだと思っていた人物が、久遠の奥さんだった。
そして由佳が襲われた時には既に、佐久間さんは殺されていた。




