異常の中の不自然
「もう誰も殺させない」
御堂、華村、今野は一斉に押し黙る。
どこまでも強くないのに、それでも惹かれてしまう魅力。
私も確信する。
翔太君は私にとって必要な存在だと。
「今日はゆっくり寝ましょう。皆ろくに寝てない筈です」
翔太君は黒いノートを見開いて見せた。
なるほど。
分かったわ。
例え貴方が死ねと言っても、そこには意味がある。
「……分かった。仕方が無い」
と言う事は。
あれ?
あたしはあそこに戻んないとダメなの?
窓ガラスが割れてるのに?
「私の部屋を使うと良いわ」
……はぁ。
ありがとうござ……ちょっと待って。
嫌な予感しかしないですそれ。
楓さんも勿論自分の部屋に戻るんですよね?
「勿論。私は翔太君と寝るわ」
おい!
質問に答えてない!
「楓も自分の部屋で寝なさい!」
「翔太君といないと眠れない体なのよ私は」
それお茶の間の誰かが誤解するような言い回しをわざとしてるでしょ貴女は!
やめなさい翔太から離れなさい!
「あら。私の勝手じゃないかしら? 私が誰と寝ようと」
違いますそうだけど違います!
じ、じゃ、じゃああたしだって翔太がいないと眠れませーん!
ええ寝れません!
「どう言う理屈だよ!」
うるさいわよ何よ楓さんにはデレデレするくせにあんたは!
「痛い痛い痛い死ぬ死ぬ!」
翔太、由佳、楓がぎゃあぎゃあ言いながら食堂を出て行く姿を、由布佐貴子は黙ってみていた。
この連続殺人かどうかも分からない事件を、解決?
そんな事を、本当に高校生が出来たとしたら世の中まだ捨てたものでは無い。
まだここは地獄ではないなんて、自分に言い聞かせているに過ぎない事を、確信に変えても良い気にさせられる。
寝静まったのを確認した。
残りは毒殺。
転落、首吊り、刺殺、毒。
どれも手軽に出来る殺人方法ばかりを使った。
青酸カリを手に入れる方法など、この世にはいくらでもあるのだから。
これだけの時間的猶予を仕掛けたのも。
全員の体力、気力が限界に近い事を知っていたから。
そうなるように仕向けた。
精神的にも極限の状態で、良く皆耐えたものだと思った。
その辺りに於いては、吉野翔太を褒めるべきなのかもしれないが、生憎求めたものは期待出来たものではなかったのかもしれない。
「来たな」
唐突に明かりが点いた。
なるほど。
気付いたと言う訳か。
吉野、翔太。
油断を、したかも、しれないな。
「どうして犯人がノートを使ったか」
どのような切り口から推理を話すのか。
誰が犯人なのか分からない。
逆に誰が犯人だと決め付けても矛盾が残るこの連続殺人を、どのように解決して行くか。
さあ。
見せてくれ。
それこそが一番重要となる点と言うものだ。
「ノートにも理由があったと言う事なのね」
桜庭、楓。
財力伴う不確定要素。
それに吉野翔太を財力に頼らない手法で支援している。
外殻的な役割。
「この連続殺人を成功させるための、最も重要なアイテム」
「それで、どうしてノートを使ったのよ。翔太」
鮎川、由佳。
吉野翔太と永い時間を過ごして来た。
そしてその中で様々な事を乗り越えて来た。
糸が半分。
内殻的な役割。
しかし吉野翔太と鮎川由佳は、様子がおかしい。
「まず招待状代わりにノートが使われた事。それぞれ別の理由で呼び出し、俺達をここに集める目的。その他にもう一つ、重要な役割」
3人がそれぞれの役割を果たした上で。
聞こうか。
「全員の意識の片隅に、ノートと言うアイテムを植えつける」
そして、まるで予告通りに殺人を行ったかのように見せかけるために、ノートに死ぬまでの状況が記されていた。
全ては、俺達にある動作を確実に行わせる為。
「ある動作?」
奴は微動だにしなかった。
ノートを開き、文章を確認すると言う行為。
考えてみれば、誰かのノートが落ちていたとして、その中身を見て確認って言う事自体が不自然。
見る人もいるかもしれないが、見ない人も多いのは事実。
「……言われてみれば……」
この異常な状況であれば、正常境界なんか意味が無い。
だからこそ普段の生活での常識を一時的に忘れさせられてしまう。
その不自然な行動を自然に見せるために、ノートを招待状代わりに送った後、最初の事件で文章が書かれたページを開いた状態で、ノートを窓に貼り付けた。
そしてノートを見るという行為を俺達に行わせる事によって、本来の目的を誤魔化そうとした。
そうだろ?
全員が部屋に入って来る。
そして俺はボロボロの格好の人物を正面に見て、拳を握った。
久遠正義。
あんたがこの連続殺人事件の犯人。
考えるのを無意識に避けていた。
秀介と見た目が同じ事を。
そんな人間が死ぬのを間近で見た現実から目を逸らす事で、辛うじて何かを耐えていたのかもしれない。
再び痛む肩の傷。
「ちょっと待ってくれないか? ホラ。僕はやっとの思いでここに帰ってきたんだ。 ……妻を助けられなくて参ってるんだ。止めてくれないか」
そっちがそのつもりなら、全てを暴く。
久遠は頭を振ると、イスに腰をゆっくりと落ち着けた。
「食事をさせてくれないか?」




