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カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~  作者: 広田香保里
怪6 終録帳の覚醒
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パズル

 翔太に掴みかかろうとする御堂さんを必死に止める。

それでも翔太は立ち上がった。

「だったらどうすれば良いのかな!」

「ボウガンの本体を探そう。 ……後は新藤さんのノート」

「取って来るわ」

 走って行く楓さんを見送り、あたしも辺りを見回した。

ボウガンの矢は、新藤さんに向かって正面から刺さっていた。

なら、その近辺に必ずある筈。

あった。

「で、ですが座る席は特に決めていなかったですよね」

「窓の外は崖。外側からの侵入は不可能」

 って事は、この中に犯人がいるって事?

余計に怖い。

「誰がどこに座るかが分からない。だから多分、座った後にボウガンを撃ってここに固定したって考えるのが自然」

「わ、我々の中に犯人がいるって事か!?」



 集団心理を操作する事が目的だとしたら。

これまでの状況は全て説明がつく。

恐らく機械声でのアナウンスも。

最終的に建物の中の人間を1箇所に纏める狙いがあるのかもしれない。

なら、逆にバラバラになれば?

無理だ。

佐久間さんはあの短い時間でいなくなり、そして首吊り死体で発見されたのだ。

バラバラになっていようが関係無く、残る断罪の1つは遂行されてしまう事は明白だった。

「遅くなったわ」


 新藤克人 8時5分 1階食堂にてボウガンの矢に刺されて死亡。


 やはり死ぬ人間だけ、ノートにメッセージが書かれるのは間違い無かった。

「ノートは閉じたままの状態で机の上に置いてあったわね」

 そしてボウガン本体は、食堂の中。

今までの事件もそうだ。

転落した久遠夫妻。

首を吊られた佐久間さん。

誰もが怪しく見える。

華村さんは本当にただの観光なのか。

メイドさんは何の為にここに来たのか。

御堂さんが慌てている理由は何なのか。

今野さんも同様。

佐久間さんの死体は何故消えたのか。

久遠夫妻は遺産相続でここに来たのか。

……。

両小指を絡め、手を口元に無意識に当てていた。

ノートは何故使われたのか。

密室の中にどうやってノートを入れたのか。

ボウガンはどうやって撃たれたのか。

誰もが犯人に見える。

誰もが怪しくないように見える。



 さあ、吉野翔太。

残る断罪は後1つ。

せいぜい頑張ってくれたまえ。

最も。

君が最高のタイミングで止めてくれないと意味は無いのだが。

いよいよ、始まってくれ。



 久遠夫妻の部屋に来た。

引き出しを開けた時、確かに鍵が縦に入っているのを見た。

そして久遠夫妻が転落。

由佳の部屋の窓ガラスが割られ、再び久遠夫妻の部屋に入るまで、部屋は密室だった。

引き出しに入っていたノートを開くと殺人予告、その時まで一緒にいた筈の佐久間さんがいなくなり、3階で絞殺死体となって発見……。

取っ掛かりも何も掴めない。

誰も彼もが怪しく思える。

こんな悪魔じみた方法。

良く思い出せ。

探せども他に手掛かりは無い。

だとしたら、殺人の方法の中にしか無い。

両小指を絡め、手を口元に当てる。

思い出せ。

普通じゃない状況。

この中には何一つ普通は有り得ない。

今までだってそうだ。

何一つ常識で考えられた方法じゃなかった。

まずは全てをただの事実として捉えろ。

そしてそこに常識を当て込め。

そして思い出す。

違和感。


 ノートを開けると?


 そうだ。

意味不明なノート。

例えば落ちていたノートを拾って、中身を確認?

する人もいるかもしれない。

だが、100%じゃないのは確実。

俺は少なくとも開けない。

でも、確かに引き出しのノートを取り出した時、ノートを開けた筈。

それは何故……。

招待状代わりにノートを受け取り……そして最初の事件の時だ。

ノートが開かれた状態で窓に貼り付けられて……。

……なるほど。

だからノートが必要だった。



「御堂さん。本当に心当たりは無いのですか?」

「無いって申し上げているでしょう!」

 楓さんは少しでも翔太の役に立とうと、殺害動機を問い詰めていた。

さっき犯人が言っていた。

次の標的の話。

だとしたら、他の人は違う……とも取れるのかな?

その前提で話を考えてみよう。

「気のせいでしょうか? 先程から落ち着きが無いようにお見受けしますが?」

「それはお互い様じゃないか? 君達だって、言いたくない事の1つや2つあるだろう!」

 確かにある。

集中しよう。

でもそうだったら、皆が初対面なのも頷けると思う。

でも、それなら、殺された人達同士は知り合いじゃなくても、殺された人と犯人は知り合いって事なんじゃないのかな?

でも、多分初対面って言うのは嘘じゃない……言いようの無い恐怖を覚えた。

「質問を変えましょう。御堂さんのノートには、御堂さん自身の事について書かれていましたか?」

「いや、遺産相続とだけ」

 あたしが考えている事が本当なら、異様な恐怖の理由も、何となくだけど分かる。

でも、そんな事有り得るの?

「金額はいくらでしたか?」

「……1億だが?」

 見方を変えれば違うのかもしれない。

そう言う考え方が無い事は無いと思うから。

「その1億に、意味はございますか?」

 御堂さんは表情を変えた。

お金。

怨恨。

復讐。

それだけの何かを持った人達を意図的に集められるの?

「あるのですね。御堂さん」

「……何も知らない!」



 あのタイミングでノートが引き出しから出てくれば、誰でもノートを開くというものだった。

それこそがこの殺人を成功させる為の鍵だった。

密室にノートを入れた方法は分かった。

だから俺達をここに招いた。

恐らくそうじゃなければ100%にはならなかった。

そして扉を開ける。

割られた窓ガラスが散乱した由佳の部屋。

ノートには何も書かれていなかった。

それら全てに理由がある。

あの放送が流れれば、全員どうする?

集まらざるを得ない。

とすれば、由佳の部屋のガラスを割った理由は、全員を由佳の部屋に集める為。

言い換えるなら、由佳の部屋に全員を呼びさえすれば、佐久間さんを殺害する事が出来た。

更に歩を進め、3階の部屋の扉を開ける。

机に置かれた化粧品。

何故か扉が開いたままになっていた。

由佳の部屋の窓ガラスを割った理由が、上へ死体を運ぶ為に必要な方法だとするならばと思ったが、窓は鍵が掛かっていて不可能。

なら、どうやった?

それに、死体は何故消えた?

一瞬で死体を移動する方法があるのか?

夢幻城の事件では、錘を使った単純な仕掛けだった。

幸いここは崖。

出来なくは無い方法。

だけどそんな跡、どこにも無かった(一応部屋を全て調べてみたが、これと言った手掛かりは無かった)。

抜け穴も無い。

なら?

あの死体は別のもの?

いや、特有の温かさがあった。

それを消す事の意味?

ノートを見て俺達はここに来た。

ん?

もしかしたら……。

両小指を絡め、手を口元に当てた。

そっか。

窓ガラスを割った理由。

密室にわざわざノートを置いた理由。

一瞬で移動した佐久間さん。

そして消えた死体。

だとしたらこの方法が出来る人間は……。



 時計の進む音だけが耳に残る。

ただ、殺されるのを待っているのか。

それとも翔太君が戻って来るのを待っているのか。

絶望と希望。

静かに開いた扉に全員が振り向いた。

「遅くなった」

 翔太君の表情を見て安心した。

こう言う時に頼りになるから、私は翔太君を欲しいと思ったし、全てを捧げてもきっと後悔しないと言えると思う。

「……分かった?」

「犯人はな」

「ほ、ホントですか!」

「一体誰なんだ犯人は!」

「俺じゃない!」

 全員の表情さえ一変させてしまう。

翔太君の力がもう、皆に伝わっている。

本人は誰かを救いたい。

犯罪を防ぎたいと言う想いだけでしているとは思うけれど、その先の結果に何も無い。

だから人はついて行く。

この上なく美しい、本来あるべき組織の姿を作れる。

誰もが求める無欲の温かさ。

「明かりが点いた時、気付いた事があったら教えて下さい! 何でも良いんです!」

 頭を下げなくても私と由佳ちゃんは協力する。

「淀み無く歩く音は聞きました」

 意外だと思った。

メイドが協力的になっている事が。

翔太君が彼女さえも変えてしまった?

「って事は、新藤さんがどこにいたかを知っていたって事か」

 呟くと翔太君は入り口の扉をゆっくりと開ける。

何をしているのかしら?

意味の無い行動では無いと思うけれど。

「殺人予告が書き込まれたノート。転落した久遠夫妻。由佳が襲われた理由。密室の中に入れられたノート。消えた佐久間さんの死体」

 凄いわ。

本当に。

こんな状況でも、人は興奮してしまうものなのね。

あの由佳ちゃんまで希望に満ちた表情をしている。


「可能は組み上がった」


「だ、誰なんだい犯人は!」

「それは、明日の朝に分かります」

「そ、そんな! 誰かが死ぬのと同時にって事ですか?」

「さっさと教えろよ!」

 翔太君は全員を真っ直ぐに見た。

どんな困難だろうと。

どんなに自分が責められようと。

決してこの視線を逸らした事があっただろうか。

普通なら逃げても良いと言うだろう。

逃げてしまうだろう。

どこまでも愚直で。

素敵。

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