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カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~  作者: 広田香保里
怪4 夢幻城の泡沫
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見つかった行方不明者

 ライトアップされた、俄かに信じがたい現場を見た。

3万人は収容出来る観客席が満員。

つまり、3万人を超える目撃者がいたと言う事。

吉野君達の話を、現場を見ても尚事実と飲み込めないでいた。

満タンだったプールの水が、いつの間にか無くなっている。

全員の証言が一致していた。

飛び込み台の高さが10m。

プールの深さが5m。

その差15mの高さから、頭から突っ込めばどうなるか。

強制自殺とでも言うべきなのだろうか。

ブルーシートの中を先ほど確認した。

惨い事を……。

「倉田さん。さっきの話は本当ですか?」

 鮎川君から連絡を貰うまでありとあらゆる場所を探したが、朝霧湖乃華は見つからなかった。

行方不明。

殺人事件が起こってしまった今、一刻の猶予も無かった。

「朝霧が……犯人?」

 美園渉の発言を、吉野君は即座に否定した。

「このゲーセンから誰も出てないですよね?」

 こんな時間になってしまったのはその為だ。

警官を総動員しても、3万人だ。

朝霧湖乃華を捜索させていた警官にも対応に当たらせた。

「朝霧さんはいましたか?」

 そう。

観客の中に紛れている可能性があった。

だが、行方不明という状態だった。

「ここにいない人間がプールの水を抜く? 本当に出来るのかな」

 確かにそうだが、一刻も早く探さなければならない事に変わり無い。

ホテルの客は警戒に当たってはいないが、プールで起きた殺人事件に関係しているとは思えなかった。

「ちょっと待って吉野君。貴方どうして警察に意見してるの?」

 桜庭君、琴塚正弘が私に視線を送る。

スタッフ達にも協力して貰う必要があった。

吉野君を警察側に。

警官達の包囲網を、いともあっさり掻い潜られた。

「私達は、警察の依頼で来ています」

 その場にいた主要スタッフ達―美園、田島、村田―が目を見開いた。

「予告状の事で、警察にお願いした」

「翔太はいくつもの事件を解決しています。協力して下さい!」

 彼の推理力は、我々の捜査を上回る実績があった。

花園塔、毒殺事件。

そして……。

それに警察では止められなかった。

鮎川君に倣い頭を下げた。

「ちょ、由佳、倉田さんまで……」

 美園渉は、感心したように頷き、吉野君を見ていた。

「面白い。警察にそこまでさせられるなら、満更でも無さそうだ」

「美園さん!? 高校生ですよ!?」

「これも夢幻城のためだ」

 琴塚正弘が賛成となれば、後の面子は頷くしかなかった。

この機転の早さが、警察にも欲しいと思った。

「吉野君。まさか君がそんな凄い人と思わなかったけど、宜しく」

 当の吉野君は、釈然としていない様子だったが。



 ちくしょー美園さんバカにしやがって。

俺だってやれば何か出来んだぞー。

「怒らないの!」

 何だよ由佳まで援護しやがって。

あれ絶対にそう思ってなかったじゃねーか。

「そうよ。翔太君が凄いのを知ってるのは私達だけで良いんじゃないかしら?」

 こう言う時に抱きつかれるのは、男としては悪くない。

それに楓は知っていると言う事。

ってマングースらめえええええええええええええって楓が抱きついてるから逃げられないからやめてお願いでも楓柔らかい!

そんないつものバカをやっていると、細貝さんが歩いて行くのが見えた。



 細貝さんは快く承諾してくれた。

信じられないような事件、行方不明者が出ている事を話し、警察に協力している事を話すと、『頼んだぞ新人!』と言って翔太の肩を叩いていた。

「それで、何を聞きたい?」

「以前ここで何かあったんですか?」

 細貝さんは腕を組み、翔太を真っ直ぐ見た。

「どうしてそう思う?」

 何か隠し事をしている発言ではなかった。

翔太の本気度を確認しているのだと、漠然と思った。

「世良さんが、飛び込み台から水が無くなったプールに自分から飛び込んで亡くなりました」

 細貝さんは表情を変えず、ただ聞いていた。

「そして朝霧さんは行方不明。 ……周到に計画された犯行だと考えています。だからそこに動機が必ずあると思っています」

 細貝さんは、1度だけ大きく頷いた。

「俺は事件の解決より、守れるものがあるなら守りたい。防げるなら防ぎたい。それだけで動いてます!」

 翔太は立ち上がり、深々とお辞儀した。

「まだ事件が続く可能性が高い! 絶対に止めたいんです! 何かあるなら、教えて下さい!」

 タバコを取り出したが、ここは完全禁煙だった。

顔をしかめ、深く息を吸い込んだ細貝さんは、翔太に座るよう促した。

「ここは3年前にオープンしたんだ」

 細貝さん……。

ありがとうございます。

「日本中の優秀な人材を初期メンバーとして集めた。営業の美園。シンクロからは世良。ホテルチーフの田島」

 そんなに凄い人達が集まってたんだ……。

あたし、凄い所で働いてたんだと、他人事のように思った。

自給も1500円だったもんね…。

「中でも凄かったな。美園と渡瀬は」

 渡瀬美來。

昔はゲーセンにリーダーが2人いたと細貝さんは語ってくれた。

「その、渡瀬さんは今いらっしゃらないですよね」

「事故で死んじまったよ。屋上でらしいな。 ……まー今は兄ちゃんが頑張ってるが。彼女がいたらと思うとな……」



 屋上で事故死したと言う渡瀬未來さん。

そして今回のプールでの転落死。

……繋がりが無いと考えるのは無理があった。

「間違いないわね」

 動機がある。

そこに犯人が抱えている憎しみがある。

「渡瀬さんの事が、事件に関わってるって事……だよね」

 そうと分かれば、俺が取るべき行動は一つだけだった。

朝霧さんはまだ見つかっていなかった。

それならば探すだけ。

もっとスマートに頭で考えられれば良いかも知れないと心がざわついたが、構っている時間的猶予は無い。

俺は由佳と楓に先に戻るように伝え、協力者を得るために走った。



 調べた結果、プールの水が無くなったのは、最後に観客全員がシンクロを見てから20分。

10m四方に深さ5mのプールが満タンの状態から、自然状態で水を抜いてみたが3時間半。

不可能だった。

それに会場で不審な動きをしている者がいれば、観客の誰かに見られる可能性が高い……。

途方に暮れ、それでも何か案を出そうとプール内に隠された穴が無いかをくまなく調べたが、頑丈に作られていた事に辟易としていると、吉野君が走って来た。

どうしたのかと吉野君に聞いた。

何か思いついたことがあるなら教えて欲しかったのかも知れない。

「朝霧さんを探してた時、本当にホテル内全てを探しましたか?」

 残念な気もしたが、吉野君らしいと思った。

ホテル内の探せる場所は全て探したが、いなかったと田島洋から報告を受けた事を告げると、両小指を絡め、手を口元に当てた。

最後にここでプールが使われてから蓋が閉じ、再び開くまでの時間は20分。

……目の前にある事実から目を背けたくなるような事象だった。

ミステリーサークルがただの2人の老人によるアートだったと知られて久しいが、これはれっきとした殺人事件。

ただの事故?

プールの水が無くなって転落したのが、ただの事故?

有り得なかった。

「とにかくもう1度朝霧さんを探しましょう! 手伝って下さいお願いします!」

 そうだ。

この事件だけではないのだ。

私は頷き、プールの梯子を登る吉野君に続いた。

立ち止まった。

ライトの光理に反射する物があったから。

足元の排水溝に目をやる。

……それは金属だった。

直径4cm程の丸い何かを固定する金具だろうか?

梯子を登りきった吉野君にハッとし、その場を後にした。



 何故琴塚次狼さんが死んで2ヶ月経ってから警察に殺人予告状を送りつけたのか。

何故朝霧さんが行方不明になったのか。

そして世良さんが転落した時の状況を、何故予測出来なかったのか。

……予測出来ない理由は簡単だった。

前例が無いから。

プールの水があっという間に無くなるなんて、誰も思わない。

そう言ったものを防ぐ事が、果たして俺に出来るのだろうか。

細貝さんに防ぎたいと啖呵を切ったものの、こうして後手を踏んでしまっていた。

懐中電灯を持つ手を強く握ったのは、焦燥と悔しさからなのは分かっていた。

倉庫、観葉植物の間、入れる所は全て調べて行った。



 公園に人影があった。

ライトも無い。

無人の公園で何をしているのかと照らすと、美園さんだった。

美園さんは振り返った。

どうしたんだいと問いかけてきたが、こっちの台詞だった。

エアー遊具でも砂場でもなく、ただブランコを見ていた。

「ここに来るのは毎日の日課。 ……一日の終わりに、ここでただボーっとするだけ」

 大きく伸びをし、美園さんは空をただ見上げていた。

……リーダーが持つ重圧を、少しのリラックスで解決する。

俺はまだ高校生だった。

「休んでいる所申し訳無いが、手伝ってくれないか?」

 美園さんは首を傾げた。



 翔太は今、必死に行方不明の朝霧さんを探している。

であれば、あたしはその間に出来る事をやるだけ。

渡瀬。

彼女と言っていた。

楓さんは何故かPCを2台持参していたので、1台を借り、事件を調べた。

渡瀬未来。

当時21歳のスタッフが、確かに事故死していた事件を見つけた。

でも、一部の会員しか入れないようなサイトに書いてある情報だった。

本当になんなのこの変態お嬢様……。

目的は何?

何も見えてこなかった。

正面にいる楓さんを盗み見ると、すぐに目が合ってしまったので慌てて逸らした。

2年前の事件について、今は詳細な情報を調べていたが、有力な情報は掴めないでいた。

「何か分かったかしら?」

 向こうから話しかけてきた。

あくまで、翔太のために利害が一致しただけ。

楓さん。

あなたは翔太に何をさせようとしているの?

無言のあたしに気を悪くするのでもなく、楓さんは笑顔だった。

「隠された何かがあるみたいね。何でも屋にもお願いしてみたわ。何としても探しましょう」

 ……何でも屋?

兎に角、あたしに出来る事は全てやろう。

癪だけど。

「あらあら」



 ゲーセンの店員しか入れない場所も、美園さんの案内でくまなく調べた。

機械部品倉庫、プライズ景品倉庫。

ゲーセン内。

時間だけが虚しく過ぎていった。

この島の中にいないとなれば、海に放り出された?

……いや、まだホテルを探していなかった。

遠くに見える水平線からは、朝日が昇ってしまっていた。

ホテル前では、由佳と楓が待っていた。

「どうだったのかしら?」

 悔しげに首を横に振る事しか出来なかった。

何か言いたくて言えない表情の由佳から視線を逸らした。

ロープが空中に見えた。

ホテルの脇。

目を見開き、それを目で追った。

木の幹に結び付けられているようだった。

走った。

心臓が高鳴った。



 翔太を追いかけ、走った。

木の幹にはロープが結び付けられていた。

そのもう一端を、無意識に追った。

人の足が見え、息が出来なくなった。

掠れるような声で指を指した。

ロープのもう一端を見上げた翔太と倉田さん、美園さんは目を見開いた。

楓さんはただ無表情だった。

ロープの先は首に巻きつけられていると直感した。

それは突然落下して来た。

あたし達の目の前に落ちたそれは、翔太が必死になって探していた朝霧湖乃華さん、その人だった。

叫びながら翔太にしがみ付いた。

ただ、恐怖だった。

「遅かったか……くそ!」

 怒りを堪えた倉田さんは、スマホを取り出しているのが横目に見えた。

翔太は、ただ歯を食い縛っていた。

しがみ付いた腕に、翔太の何かを堪える力が入ってるのが直に伝わって来た。

「許さねえ……」

 翔太……。

「私だ。朝霧湖乃華が見つかった」

 楓さんはただジッと見ていた。

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