### 第98話:崩れゆく絶対
### 第98話:崩れゆく絶対
「ゲーム、瀬戸・翔太ペア、1-1!」
主審の冷徹なコールが、青いハードコートに響き渡る。
その瞬間、周囲で練習を始めていた他の選抜ペアの手が止まり、どよめきのようなざわめきが広がった。昨日、一ゲームすら奪えず完封された相手から、僕たちが初めてゲームをもぎ取ったのだ。
「ちっ……まぐれかよ」
真壁の顔から、先ほどまでの余裕が綺麗に消え失せていた。
軽量カーボンフレームを荒々しく反転させ、彼は血走った目を僕たちに向ける。御堂もまた、冷静さを欠いたのか、わずかにラケットを握る手に力が入りすぎているのが遠目にも分かった。
(まぐれじゃない……!)
僕はマットブラックの車いすのハンドリムを強く握り締めながら、胸の中で静かに息を吐いた。
一ノ瀬コーチに叩き込まれた体幹の軸、昨夜のイメージトレーニングで脳裏に焼き付けた軌道、そして野田さんがミリ単位で仕上げてくれた相棒のパフォーマンス。そのすべてが完璧に噛み合い、あの絶対的だったはずの王者のペースを確実に狂わせている。
「おい、ビビってんじゃねえぞ、真壁!」
コートの反対側から翔太が挑発的な笑みを浮かべ、相棒の気炎をさらに煽り立てる。
「行くぞ、翔太! ここからが本当の勝負だ!」
「おうっ! あの野郎どもに、僕たちの進化を叩き込んでやるぜ!」
点差はまだ追いついたばかり。だが、潮目は完全に変わりつつあった。
全国の頂点へ至るための壁を穿つ二度目のサーブが、朝陽を浴びて鋭く唸りを上げる。




