97/105
### 第97話:微細な変化
### 第97話:微細な変化
プレイボールのコールとともに、真壁のサーブが鋭い唸りを上げて飛んできた。
昨日であれば、その強烈なスピードと変化に気圧され、体勢を崩したまま打ち返すのが精一杯だったはずだ。しかし、今朝の僕の視界は不思議なほどクリアだった。
(――来る!)
車体を無駄なくスライドさせ、骨盤を軸にして重心を完璧にコントロールする。野田さんに託されたマットブラックの車いすは、タイヤの摩擦音さえ心地よく響かせるほど、僕の意思にダイレクトに応えてくれた。
パァンッ!!
捉えた打球は、昨日のような浅い返球ではなく、真壁の足元を鋭く抉る深いクロスへと突き刺さる。
「っ……!」
初めて見せる真壁のわずかな動揺。御堂が慌てて前衛からカバーに入るが、その動きの予測さえ、今の僕たちの眼にはスローモーションのように鮮明に映っていた。
「いいぞ、瀬戸!」
翔太の力強い声がコートに響く。
スコアはまだ始まったばかりだ。だが、昨日までそびえ立っていた絶対的な壁に、僕たちは確実に最初の「亀裂」を入れていた。




