### 第96話:朝陽の再戦
### 第96話:朝陽の再戦
ナショナルトレーニングセンターの第3コート。
まだ周囲の選手たちがまばらな早朝の時間帯、僕たちはすでにコートに立ち、ウォームアップを始めていた。昨夜のイメージトレーニングで研ぎ澄まされた感覚が、今朝の自分の動きに明らかな変化をもたらしているのがわかる。
「おい、瀬戸。今朝はやけに車体の収まりが良いじゃないか」
隣でストロークの確認をしていた翔太が、感心したような声を上げた。
「ああ。昨日の夜、頭の中で徹底的に動きを焼き直したんだ。無駄な舵取りを無くして、重心の移動だけで車体を操る感覚を掴んだ」
野田さんに調整してもらったマットブラックの車いすは、僕の微細な体重移動に寸分の狂いもなく反応し、サーフェスの上を滑るように機動する。骨盤をしっかりと立て、体幹の軸を固定した状態で放つショットは、昨日までよりも一段階重く、鋭い軌道を描いていた。
「そこまでだ、雑談は終わりだ!」
コートサイドに歩み寄ってきた一ノ瀬コーチが、低く鋭い声を響かせる。
その視線の先――少し離れたサブコートの入口から、昨日僕たちを完膚なきまでに打ち負かした真壁と御堂の姿が現れた。彼らもまた、朝一番の練習のためにコートへ入ってきたところだった。
「偶然だな。昨日、0-6でボコボコにされた雑魚ペアじゃないか」
真壁が軽やかなカーボンフレームを巧みに回転させながら、冷ややかな笑みを浮かべて近づいてくる。御堂もまた、無言のまま冷たい視線を向けていた。
胸の奥で、昨日とは違う熱い感情が沸き上がる。それは恐怖でも絶望でもなく、純粋な闘争心だった。
「昨日のままだと思うなよ」
僕は車いすのハンドリムにしっかりと手をかけ、まっすぐに真壁を見据えて言い放った。
「ほう……? なら、朝の挨拶がわりに一セット付き合ってやるよ。どうせまた同じスコアになるだろうがな」
コーチは何も言わず、ただ不敵な笑みを浮かべて頷くだけだった。
あの圧倒的な壁を越えるための第一歩。
朝陽が青いハードコートを眩しく照らし出す中、僕たちのリベンジマッチが、いま静かに幕を開けた。




