### 第91話:敗北の熱
### 第91話:敗北の熱
「おい、そこだ! 腕だけで振るな、骨盤の傾きを維持しろ!」
トレーニングセンター内のサブコートに、一ノ瀬コーチの容赦ない声が響く。
先ほどの真壁・御堂ペアとの一戦で味わった完敗の悔しさは、まだ僕たちの胸の内で消えるどころか、ドロドロとした熱いエネルギーに変わり、全身の血管を駆け巡っていた。
スコアは0-6。一ゲームすら奪えなかった事実が、僕たちの未熟さをこれでもかと突きつけてくる。
しかし、だからこそ、やるべきことは明確だった。彼らとの間にある圧倒的な壁の正体は、単なる才能の差ではない。ショットの選択、予測のスピード、そして何より――極限状態のラリー中でも車体のブレをゼロにする「体幹と車いすの完全な連動性」の差だ。
「くそっ、もう一回だ……!」
翔太が息を荒げながら、ボールを拾うために車いすを激しく旋回させる。その額を伝う汗が、青いハードコートの表面にポトリと落ちた。
野田さんに調整してもらったマットブラックの車いすは、どんなに激しく方向転換を繰り返しても、フレームの歪みや違和感を一切見せない。相棒は完璧に応えてくれている。問題なのは、それを乗りこなす僕自身の肉体と技術の精度だ。
(あいつらに、もう一度追いつく……いや、追い越すんだ!)
僕は深く息を吸い込み、骨盤を立てて上半身の軸をガッチリと固定する。
コーチが放った鋭いノックボールが、コートの隅へと高速で飛んできた。
迷いはない。僕は最短距離で車体を滑らせ、ラケットの芯でその重い打球を完璧に捉えた。
パァンッ!!!
乾いた打球音が、静まり返ったサブコートを切り裂く。
先ほどよりも明らかに深く、鋭い軌道を描いたボールがターゲットの足元へと突き刺さった。
「……ほう、やっとマシな球が打てるようになったな」
コートサイドで腕を組んでいた一ノ瀬コーチが、わずかに目を細めてこちらを見た。
その口元には、冷徹さの裏に隠された確かな手応えの色が浮かんでいる。
全国の頂点という高すぎる壁。
そのふもとで味わった最初の泥水は、僕たちの闘志に火をつけるには十分すぎるほど苦くて、熱かった。




