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車輪の軌跡 ―時速0キロからの挑戦―  作者: じょんどぅ


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### 第90話:第一歩の洗礼

### 第90話:第一歩の洗礼


「そこまで! ゲーム、真壁・御堂ペア、6-0!」


無情な主審のコールが、広大なナショナルトレーニングセンターの第3コートに響き渡った。

スコアの通り、僕たちは一ゲームすら奪うことができず、文字通り完敗を喫していた。


「はぁっ、はぁっ……くそっ……!」


翔太が激しく肩を揺らし、荒い息を吐き出しながらラケットを握る拳を震わせている。その額だけでなく、全身から滝のような汗が吹き出していた。

対する相手ペア――先ほどまでコートの反対側で涼しい顔をしていた真壁と御堂は、息一つ乱さず、冷ややかな視線を僕たちに向けているだけだった。


「……終わりか? 全国選抜の合宿に呼ばれるから、もう少し歯ごたえがあると思ったんだがな」


後衛の真壁が鼻で笑うように言い放ち、軽量の最新カーボンフレームを軽やかに回転させてベースラインを離れた。その圧倒的な機動力と、寸分の狂いもないショットの精度は、これまでの地方の強豪とは次元が違っていた。僕たちが必死の思いで追いついた球すら、彼らにとってはただの「凡球」でしかなかったのだ。


(これが……全国の壁……!)


身体の芯から冷えていくような感覚の中で、僕は自分のマットブラックの車いすを見つめた。

野田さんがミリ単位で調整してくれた最高の相棒。一ノ瀬コーチに徹底的に叩き込まれたブレない体幹の軸。それらすべてを総動員して戦ったはずなのに、結果はこれだ。手も足も出ず、自分たちの現在地がいかに井の中の蛙だったかを、容赦なく突きつけられた。


「おい、いつまでうな垂れている」


冷徹な足音が近づいてくる。顔を上げると、いつの間にかコートサイドに歩み寄っていた一ノ瀬コーチが、腕を組んだまま僕たちを見下ろしていた。

その表情に怒気はない。だが、その瞳の奥には、僕たちがこれから向き合わなければならない現実の厳しさが深く宿っていた。


「ボテンボテに負けて、惨めな気分か?」

「……コーチ」

「当たり前だ。今の実力じゃあ、あいつらの足元にも及ばない。だがな、お前たちがこれまで積み上げてきたものがすべて否定されたわけじゃない」


コーチは視線をわずかに相手ペアの方へと向け、低く、しかしはっきりとと言い放った。

「あいつらは何年も前からこの環境で、化け物どもの背中を見て揉まれてきた連中だ。お前たちが今日知ったのは、絶望的な差じゃない。『これから超えるべき具体的な壁』の高さだ。……さて、どうする? 尻尾を巻いて地元に帰るか、それとも、その車いすでもう一度這い上がるか」


コーチの言葉が、胸の奥で燻っていた悔しさと混ざり合い、熱い炎となって全身を駆け巡った。

そうだ。終わったわけじゃない。ここはまだ「スタートライン」の続きに過ぎないのだ。


僕は深く息を吸い込み、震える手をしっかりと握り締めてから、車いすのハンドリムに手をかけた。隣を見ると、翔太もまた、悔し涙をぐっと拭い去り、ギラギラとした闘志をその瞳に宿して頷いていた。


「帰るわけないでしょう……! あいつらを叩き落とすまで、僕たちの戦いは終わらない!」

「いい答えだ」


コーチが初めてわずかに口元を緩め、冷たく言い放った。

「なら、休み時間は終わりだ。次のコートへ行くぞ。あいつらが二度と僕たちを見下せないように、今度はこっちからすべてを奪いに行く技術を叩き込んでやる」


全国の頂点へ向けた本当の戦いは、この完敗から、いま、ようやく始まったのだ。

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