### 第89話:最初の邂逅
### 第89話:最初の邂逅
ロッカールームでユニフォームに着替え、指定された第3コートへと向かうと、そこにはすでに数組のペアがネットを挟んで激しいラリーを繰り広げていた。
放たれる打球の音は、これまでのどの練習よりも重く、乾いた金属音のような響きを伴っている。
「おい、あれを見ろよ……」
翔太が小声で呟き、視線の先をあごでしゃくった。
隣のコートで練習している一組のペア――その動きは、素人目に見ても異次元だった。最新の軽量カーボンフレームをまるで自分の足のように自在に操り、どんなに厳しい体勢からでも寸分の狂いもない正確なショットを叩き込んでいる。特に、後衛で構える小柄な選手の車いす捌きは、地面に張り付いているかのように一切の無駄がなく、予測不能な位置へとボールを送り届けていた。
「すごいスピードだ……」
「ああ、あいつらが、全国常連の『本物』ってやつか」
圧倒的なスケールと技術の密度に気圧されそうになりながらも、僕の身体は不思議と硬直していなかった。
骨盤をしっかりと立て、腹筋と背筋の軸で上半身を安定させる。野田さんに調整してもらったマットブラックの車いすは、この異様な緊張感の中でも変わらず静かに、そして力強く僕の意思を待ち受けている。
「いつまで見物している気だ、瀬戸、翔太」
背後から飛んできた一ノ瀬コーチの冷徹な声に、僕たちはハッと視線を戻した。
「お前たちの最初の相手はあそこだ。挨拶がわりに、今の自分たちがどれだけやれるか叩き込んでこい」
コーチが指し示したコートの反対側には、すでに険しい表情をした他県の選抜ペアが待ち構えていた。
全国の猛者たちが集う合宿の初戦。
僕たちの本当の現在地を証明するための戦いが、いよいよ始まろうとしていた。




